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(4)-2

「さあ。気を取り直して何処へ行きましょうか?」

「ここら辺を散歩」

「はぁ!? 近場に遊園地とかプールとか水族館はたまた博物館だってあるんですよ?」

「一緒に居る事に意味があるんでしょ?」雑誌の受け売りだ。

「もういいです。せめて食べ歩きしながら行きましょう」


商業区に来るのは三回目だったかな? 行く必要がない、用事がない、する事がないの三拍子だ。

「私も久しぶりに来ました」

「もって何ですか? もって一緒にしないでください」

「あらー、研究室引きこもりクンが何を言っているんですか?」

「で、どちらに向かわれているんですか? ボッチさん」

「今、わたくし二人でおりますのでボッチではありません事よ?」

「じゃあ引きこもりクンも外に居たら引きこもりにならないでしょうねー」

不毛な会話は続く。


「やあ。デートかい?」と学科の生徒声をかけられた。

「デートです」と即答された。

「それじゃ」

何かを察したのか足早に去っていく。あっちの状況だったらそうせざるを得ないよな。

流石に何も言わないのは印象が悪いので「では授業でまた」と一言添える。

「意外だな」

「嫉妬ですか?」

「違う。ただ珍しいと思っただけで」

「これもデートの演出ですから」

「……頼んだの?」

「ち、ちがいますよぉ! 偶然です!」

でも相手はいろんな意味で察していた気がする。


歩みを進めると本屋さんが現れた。

独特のにおいが醸し出ている。レア物がありそうだ。

「さあ、食べますよ」

とうとう食欲が変な方向へと向かってしまったのか。


「オレンジジュースで良かったんですよね?」

「ああ、ありがとう。本が借りられる喫茶店か」

「そうなんです。中々良い所でしょ? デートスポットらしいですよ?」

そういえばカップルがあちらこちらに。それを差し引いても中々に落ち着いた色合いでいい店だ。

時々来ようかな?

「なんといっても食事が旨いんですよ。いやー、一人で来るのは結構ハードル高いんで」

僕にとってはそんなハードル避けてしまえばいい。

一人でも来るつもりですが何か問題でもありますか?


「気に入りましたか?」

「ああ、とっても」

「それは良かった」


一冊読み終わった頃には彼女はまだ食事を続けていた。

「読み終わった? ごめんね。少し急ぐから」

「じゃあ一口貰っていいかな?」

「それはダメです」

「冗談だよ。ゆっくり食べていいよ」

「見られると食べづらいデス。何かもう一冊読んだら?」

「中途半端で終えるのは嫌で一冊読み切りたい主義なんだ。だから、今度また来た時に」

「それは再デートのお誘いかしら?」

「じゃあそれで」

僕はボーっとコップの氷が解けるのを見ていた。


「さっきの店では何も食べなかったですね。お昼食べないんですか? ダイエット中ですか? もしかして私への嫌がらせですか?」

「食べ歩きデートだろ? これからいろんな店に行くだろよ。そのとき一人だけで食べるのはさみしいから全店舗に付き合えるようにセーブしてるんだよ。」

「じゃあこれから行くところ全部一緒に食べてくれるんですか?」

満面の笑みを浮かべた彼女に僕はこの時何を考えたのだろう。考えても結局は結論が出なかった不思議な気持ちだった。

「程々にしてくれよ」


記憶があいまいになった原因は、吐き気の気持ち悪さだった。

全店舗めぐりなんて聞いていませんし、考慮もしていません。

寝る前のその変な考えに至ったのも、気持ち悪さが邪魔をして睡眠を妨害したからだ。

無駄に考える時間を用意されて、気持ち悪さと眠気が邪魔をする。最悪状態だ。

「あと、五店舗ですよ? しっかりしてください」

「無理です。また今度にしてください」

「しょうがないですね。あーあ、今日までの限定商品食べたかったけれどなー」

「最後にそれだけ食べる」

言ったからにはせめて意地くらい見せたい。

「じゃあ、三店舗だけ頑張ってください」

そうか、数は言っていなかったっけ。


「休憩がてらここに入りましょう。本日のメインイベントです」

入るとそこは休憩室の様で、座り心地が言いソファーとだだっ広い空間だけのイベントホールの様な会議室の様な空間だった。

「お待たせしました」

「遅いよー。もー」

「ごめん、ごめん。準備に手間取っていて」

「さっさと始めよう」

はじめて見たその光景に僕は結構戸惑っていた。

同学科の女の子と親しげに話していたのだ。

僕はスーツ姿の女性二人にカーテンが扉の部屋へと連れ込まれた。


「キャアアア。可愛いです」

「こっち目線ください」

「そのデータ後で渡してください」

「分かりました―。そっちのデータコピーしてください」

「うーんと、良いですけれど……じゃあ他の人への譲渡は禁止でお願いします」

「オッケー」

「ああ、目をつぶらないでください」

こんな格好させられて写真を取られるなんて昔の自分は想像していただろうか?

今でさえ顔が赤くなりそうな位、恥ずかしい。

「こんな写真どうするのです?」と動揺していたらしく、かたこと交じりの敬語交じりに話すほどであった。

「欲しがる人結構いるんですよ? これを売れるんですよ。まあ、そっち系の趣味の人も居ますし。需要はあります。」

小遣い稼ぎですか。

抵抗できるはずもない僕は眩しさに耐えながら棒立ちしていた。

魔法陣学科の生徒である彼女たちを、これからどう接すれば分からなくなってしまった。

もっとひどい事はそれを買う人物がどれだけいて自分の学科に居るのか――そう考えたくなくなった。


そのあとは、ウィンドウショッピングをして終わり。


買い物する気分ではないとの事。

せっかくだから何か買おうかと提案してみたが、それも拒否された。

「得に欲しいものは無いので、次のちゃんとしたデートの時お願いします」

何か買ってあげたい訳でもなく、せっかく外に出たので何か買いたくなったそれだけだ。気まぐれというか、ワガママ、自己満足に近い貧乏性かな?

複雑な気持ちに包まれたまま、彼女と別れた。


帰り道の廊下を歩いていたら動植物学科の教員に出会った。

「うちの生徒が世話になったらしいな。感謝する」とお礼をされた。

食事に誘われたが年齢的に酒が飲めない事を伝えると残念そうにしていた。

「妻の料理は酒が無いと食べられないからな」

「そんなこと言って、聞かれたら後が怖いですよ。行きたいのは山々なのですが、昼間に色々連れ回されて疲れているので、また後日にしてくれるとありがたいです。こんな顔色で行くのは申し訳なくて」

「確かに具合悪そうだな、大丈夫か? 小さいから体調には気をつけろよ」

可愛らしい小さな包みに包まれた飴を貰った。

「ありがとうございます。今度伺う時は美味しいのを期待しています」

「あまり期待しないでくれな」

「それでは失礼します」

愛妻家の還暦を迎えそうな男は中々に男らしいシルエットで消えていった。

若輩者の自分を気遣っての事か、それとも年齢が一番近いから無理やり任されてなのか真相はどちらでもよい。世渡りなんてやってきていないので、今すぐ僕が出来るとは思えない。

そこでやるべき事は相手に嫌われない事と興味を持たれない事だ。後者はほぼ無理だという事は言うまでもなく、自分がそぐわぬ方向に目立っている。

当たり障りのない文章を考えつつ、講義の内容を考える。そんな事を考えようとしていたがそれに回す余裕は無いらしい。

胃袋の消化に血液と集中力を回さなくてはならない。


とても長い一日で、長い、長い夜だった。

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