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(4)-1

三連休の初日の昼間は優雅に過ごす。

お紅茶をたしなみながら、本日届いた新聞を読む。

読みかけの本の続きを読みたかったのだが、午前中に読めなかったのが悪い。


「珍しく新聞なんて読んでいるんですか? 日本語でしょうか……、一週間前のものなんて良く読めますね。今の時代ネットだってあるのに」


視界にちらついたり、新聞を曲げられたりと集中力が途切れたので「今日届いたんだよ。実家からの仕送りに入ってくるんだよ。地元愛が強くってねー」と返した。

新聞を読む事は、なんというかルーティンというより、癖づいているってのが正しい。

角を曲げられた新聞をビシっと音を立てて元に戻す。


「じゃあじゃあ。あれってあります? この前の――甘酸っぱい奴。あったー。じゃあお茶入れますね」


勝手に仕送りの段ボールを開けられた上に中身まで奪われる仕打ちと、この前見た小説ならこんな感じか。そこまでは言わないが、できれば先に許可を得る事をお勧めします。


「そういえばこれって何なんです?」

「地元の名産のりんごジャムのパイ」

「りんごかー、それにしてはかなり酸っぱいですよね」

「そのせいで加工したものしかないけどねー」

「ふーん」


僕も一口。その味はとても懐かしく、すぐに飽きてしまうような味だった。今まではあまり好きじゃなかったけれど、食べられなくなると無性に欲する。


「段ボールにまだ二箱入っていましたが、貰って言っていいですか?」

「あれはまだ配り終えていない分だから、また今度な」

「今度って?」

「ああ……。二、三週間後で」

「ちょっと長いですね。まあ、それくらいなら我慢しましょう。そういえば加工食品にするって言ってましたよね? ジャムと缶詰ってあります? それといくつか」


普段お世話になっているので多少の恩返しができて少しだけ気分が軽くなる。奢られっぱなしは流石に心苦しい。


「ついでにいろんな会社のパンフレットも貰っといてください。それか発注書でもいいですよ」

本格的な奴だ。

「会社でも買い取るつもり? それとも新しく会社を建てたり――」

「それも悪くないですね」

言わなきゃよかった。

「程々にしておけよ」

「程々って何ですか?」

「好きにしてください」

「はい」

その笑顔は冗談ではなかったように映った。


「今日は終日暇です。遊んでください」

確かに、暇ではある。

連休と言えばどっか近くのゲームショップとか、本屋に立ち読みとか、ゲーセンとか行っていたな。自分から動くって事は無かったので誘われるがまま。今になってみれば、暇だと引きこもっているか、引きこもっているか、引きこもっているか。慣れない事をしているって事を考慮しても少しくらい運動をした方がいいとは分かっているが、まあいいかと後回し。近くにジム施設もあるが、今までスポーツというスポーツをした事が無いので通うのはちょっと敷居が高い気がする。高校時代に幽霊部員的に入っていたアレはノーカンですよね。


「デートしませんか? デート」

「じゃあ、行きますか」

「え? ええ――!!」

「自分から誘っといて何か問題でも?」

「いえ。いえいえ! そんな事は滅相もありません。乗り気が意外だったので」


デートと言う名の散歩です。

みたいな格好で扉から出た。


扉から出ると男の叫び声やらなんやらでガヤガヤとしていた。

「やけに騒がしいですね。あれですかね?」

「あれだろうね。通り道だからついでに見に行くか。」

「ええ……。せっかくのムードが台無しです」


下の階では想像通り、女性が男二人、いや、三人がかりで羽交い絞めにしたり、足にしがみ付いていたりと制止されていた。


「そこの二人組、つけものちゃんを止めてくれ」

「やっぱりね」と二人の声が重なった。

「この牛に食べさせるのでこの手を離してください。」

「だからダメだって」

「なんで、ですか? 漬物は体に良いのを知らないのですか? だから食べさせてあげるんですー!」


漬物ちゃんは漬物を愛し漬物を主食とし漬物に青春を捧げており、体が漬物で出来ていると言われている人物だ。自分もほぼ間違えではないと思うし、それで彼女が誇りに思うのならばそれでいい。そのあだ名は彼女にとって称号に近いらしい。それでいいのか、なんて事は僕自身思わなかった。名乗りたくないあだ名なんてよくある事で、バカにされてつけられたあだ名が、自ら自信に満ちて名乗っているなんて少しだけ羨ましかった。ここに来て少しは見習うべき所だとなんとなく感じた人物の一人だ。尊敬まではいかない。うん、だって他の行為が逸脱しすぎているからマイナスポイントしか見えない。


一様、教授という肩書があるので下手に無視することはできず、とりあえず話を聞いてみる事にした。


「あのー、漬物ちゃん。申請書は出したのでしょうか?」

「出しました。でもいくら出しても許可が下りないので、もう我慢の限界です。」

「でもここで問題起こしたら、君の研究ここで終わっちゃうよ?」

「それは……困る」

「だろうね」

最優先事項、落ち着かせる事には成功。

「うん。地元の人に顔向けが出来ない」

「だろうね。親御さんにも顔向けできないだろう」

「それはないかな」

泣き落し作戦は失敗。

「うん、そうだね。ちょっと熱くなりすぎていた。大型動物にも試してみたかったけれど、もう少し改良してからにする。ありがとう」

「いいえ、どういたしまして」


何事も無くてよかった。なんとかなるものだなと。

「お礼に一口いかがですか?」

目線をタッパーに下げると、薄青紫のものが目に入った。

周りからも紫だ、紫だよな? 食べさせなくて良かった、の様な声がざわめく。

「遠慮せずにどうぞ」

何処から爪楊枝を出したのか分からないが漬物に刺さっていた。


「……これだから動植物学科は……」

「ああ? 誰だ! 聞こえたぞ! もう一度言ってみろ!! 植物学科なんかと一緒にするな! あんな草食系だかよく分かんないような陰険な奴らと一緒にするんじゃねぇ!」

「動物学科の野蛮な奴らと一緒にされることすらおぞましい」

「何に資金を割いているのか分からないような無駄な植物科をなくして動物学科に資金を回して欲しいもんだ。水やりゃ育つだろ?」

「大型のケモノを無駄に保有して飼育費を無駄に費やしている無駄な動物学科こそ縮小すればよいのに。流石に消滅は可哀想なので恩情で残しといてあげましょうか?」

「その上から目線がムカつくんだよ!!」

「馬鹿で単純な奴だから水だけで育つなんて当てずっぽうな事いうのですよ。もう少し周りの事を見回したらいかがです?」

「なんだと、この陰険野郎! やるか?」


「今のうちです」と耳打ちされた。

そして手を引っ張られ外へと抜け出せた。

「ここまでくれば大丈夫ですね」

「そうだろうね」

息を整えていたのは僕だけで、運動不足に少し後悔した。

「久しぶりに見ました牛頭の奴、大型でしたね」

薄暗くてよく見ていなかったが大型獣は牛系の魔獣か合成獣だったらしい。

「おいしそうでしたねー」

「あの見た目と臭いでよく美味しそうだなんて言えるね」

「だって学食で――」

「ああー。ああー。聞こえないー。」

「そういう系ダメでしたね」


学食に出ている食べ物は動植物学科から来ているものが大半だ。

結構厳しい条件らしいが、大半がそれらの材料で出来ているので本当に大丈夫かと疑問に思う点と共に、ゲテモノというのが抜けきれない。

人体に害がないものが最低条件に含まれているらしいので、すべて食べる事は出来る。

肉類、野菜類以外でも乳製品やら香辛料も製造しているのだから中々に幅広い。

それでも聞いた事の無い動植物はNGです。

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