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【ライズ】~泥みみる幻想の肆の花詩~  作者: 伍拾梳愧暴論
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1-7.奇遇

 暴食の蝿龍は這い去っていった。

コッコはクロウの元へ来て満面の笑みで喋り出す。


「ねえねえ、どうよどうよ、ちゃんと生きて帰したよ!!」


 褒めろと言わんばかりに目を輝かせていた。

クロウは頭を撫でてそれに応える。


「今日はここで野営だ、思いの外順調に進んだからな」

「おっけー、リンに伝えてくるよ」


 コッコは車で待機しているリンに伝言をしにいった。


「私は何か手伝える事はありませんか?」

「そうだな、じゃあコッコと一緒に周囲に何かないか見て回ってくれ」


 辺りの森は魔物の大移動によって木々が薙ぎ倒されていたり、土が抉れていたり、動物も姿を消していたりで、とても食糧になるような物は無さそうだが。

それでも念の為に調べておく事は重要だ、魔物が潜んでいないかも知る必要がある。


「分かりました」


 コッコが戻るとウィステリアはその旨を伝えた。

コッコは聞くとクロウを見て指示を仰ぐ、クロウはGOサインを出した。

____________________________


 ウィステリアとコッコは荒れた森の中をゆっくりと歩いて廻る。


「ウィステリアと二人っきりになったのは初めてだねー、どうかな義眼の調子は悪くない?」

「はい大丈夫です、ありがとうございます、本当に良くしていただいて」

「いやいや、礼なんて要らないんだよ、所でさ……さっきのアタシの戦いは見てたよね?」

「はい、素晴らしかったです、貴重な体験でした」

「そうだよね、ウィステリアは魔物との戦いに慣れてないんだもんね」

「……クロウさんから聞きました、龍を相手にあそこまで一方的な試合になるのは異常な事だろうと」

「そっか、聞いてたんだ……それで、ウィステリアはどう思った?」

「驚きましたけど、正しく驚けているのかは分かりません」

「あはは、何だそりゃ」

「あの、失礼を承知でお尋ねしたいのですが、コッコさんは一体何者なのですか……?」

「その質問は多分純粋な興味だとか知識欲から来るものなんだよね」

「はい、すみません気を悪くされたなら謝ります、答えて頂かなくてもいいんです」

「いいよ別にいつかは知る事になるんだ、なら早い方が良いと思うし」

「良いんですか?」

「でもクロウが隠したがってるかもしれないし全ては語れないかな、それにウィステリアがどこまで受け入れてくれるのかもアタシにはまだ分かんない」

「深い事情があるんですね」

「アタシは何者か、か……」

「はい」

「人間ではない」

「……え?」

「アタシから言えるのはここまでかな」

____________________________


 人間ではない、それが比喩なのか直喩なのか、ウィステリアには分からなかった。

二人は暫く会話もなしに淡々と森の中を廻っていた。

やはり周囲には魔物も動物も居ない、あるのは死骸やそれに叢る虫くらいのものだった。

大きく廻って後少しで一周する所まで来た、その時だった。


「ちょっと待って」


 コッコはウィステリアを制止する。


「何か見つけたのですか?」


 コッコは携えた鞄から蓋付きの空瓶を取り出して、横たわる木の下から何かを掬い上げて入れた。


「うん、採取できた」

「何ですか?」


 コッコは瓶を持ち上げてウィステリアに見せて遣る。

見ると瓶には、ふわふわと浮き沈みしながら七色に輝いて、発生と消滅を繰り返す小さな粉のような物が無数に入っていた。


「……綺麗」


 ウィステリアは見入る。


「綺麗でしょ、ほらそこにもあるよ、軌跡はずっと続いてる」


 コッコが指差す方の地面にその粉は薄らと、確かに道を成して続いていた。


「本当……これは一体?」

「これは鱗粉だよ、クロウに報告しないといけない、急ごう」

____________________________


 馬車のある野営地に戻るとクロウとリンは丁度食事の用意を済ませた所だった。

積荷にある保存食と携帯食糧だけの簡素な物。


「おかえり、早速飯にするよ」


 馬車の屋根を伸ばして支柱を立て天幕を張ってある、その下に卓と椅子、そして豪勢な料理が出されていた。

リンは馬車側の端に着席し、クロウはその隣に座った。

コッコはクロウの方へ駆け寄って瓶を見せる。


「見てこれ」

「何だ?」


 クロウは瓶を手に取って見詰める。


「これは、予兆蝶の鱗粉か」

「そう、あっちに軌跡の末端があって、南西に向かって続いてたよ」


 コッコは南の方を指差して言う。

クロウは少し考えてから話す。


「ウィステリア、少し寄り道する事になる、これは決定事項だから予告しておくよ」

「私は構いませんが、どこへ行くのですか?」


 ウィステリアが尋ねるとクロウは着席を促した。

コッコとウィステリアが座ると、黙々と食べていたリンは食事を終え、合掌して席を立つ。


「……水浴び」


 小声でクロウに報告して馬車の反対側へと消えていった。

____________________________


 食事をしながらクロウは話し始める。


「予兆蝶は限りなく魔物に近い昆虫とも、限りなく昆虫に近い魔物とも謂われる曖昧で不可思議な生物だ」

「私は聞いたこともありません、その虫?は何か特殊な能力を持っているのですか?」

「知らないのも無理はない、予兆蝶は400年以上も前に絶滅したとされているんだよ、だがこれは予兆蝶の鱗粉で間違いないそれもかなり新しいものだ」

「人間の目の届かないところで生き長らえていたのですね」

「この蝶の能力を見くびってたんでしょ、人間って基本馬鹿だからあ」

「そうです、予兆蝶の能力とはどの様なものなんですか?」

「予知能力だよ、あれはカオスと一体なのかと思える程に、全ての未来を予め知っているんだ」

「そんな事がありえるのですか?」

「分からないが100年先の未来を見据えて行動していたという記録があったり、観測しうる限りの予兆蝶の生態は予知能力がないと説明がつかないものばかりなんだ、彼等は過去を残し未来を指し導る、それが鱗粉という形で我々に伝えられると云う」

「ではその力は本物なんですね」

「ああ、少なくとも俺は本物だと思っているし、俺がそう思って動く事もあの蝶は知っているんだと思う」

「やっぱりあの鱗粉はアタシ達に向けたメッセージだよね」

「鱗粉はこの地で途切れていたんだろう?なら間違いない、俺達は南西に向かう必要がある人類の為にも、世界の為にもな」

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