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【ライズ】~泥みみる幻想の肆の花詩~  作者: 伍拾梳愧暴論
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1-5.不遇

「おい、見つかったか?」

「居ない、一体どこまで逃げたんだ」


 月夜に汗を光らせながら男達は必死になって何か探していた。


「相手はひ弱なお姫様だ、そんなに体力があるわけが無い」

「しかし護衛には藤国一の騎士が付いていた、彼奴は俺達では到底適う相手じゃないだろ」


 ジリ……


 言い争う男達に突然闇が襲う。

月が雲に隠れたのではない、巨大な怪物が目前に現れたのだ。

影になりはっきりと姿は見えないが体長はそこらの建造物の二倍も三倍もあり、腕だけでも十米を優に超えている。

血の気が引いていき、足は震え、腰が抜けた。


 声にならない声で叫び、這って逃げようとする男達を怪物は容赦なく掴み取る。

そして掴まれたそばからその影に覆われた黒い顔へと吸い込まれていった。

____________________________


 翌早朝、日が昇り始めた頃にウィステリアは目を覚まし、急いで身支度を整える。

広い館に四人、微かな気配と小さな物音だけが鼓膜に伝う。

支度を終え玄関を出ると馬車が止めてあった。


「大きいのね、馬車」

「長旅用の特注サイズだ、風呂まではないが厨と厠くらいは付いてる」


 馬車を摸し装ってあるが、動力は昨日ウィステリアを乗せてきた自動車と変わらない。

内燃機関を用いて鉄の馬を走らせ、車体も同様の機関でそれぞれ動いている。

ニ頭立てで小周りはあまり効かないが速度はなかなかのものだ。


 馬車には食糧や水等もある程度は積んであるが、長旅になる為余り寄り道はしたくない。

目的地は桜国、藤国の民は桜国の領地に難民として収容されている。


「取り敢えずは桜国に向かう、百五十時間以内に到着出来ればいい、頼んだぞリン」


 リンは瞼で頷いて、北へと馬を走らせる。

今回の操縦はリンに任せる事にした、滅多に喋らないし意思疎通が難しい彼女だが、こういう仕事は卒なくこなしてくれる。


「そうだ、ウィステリアいいものあげるよ」


 コッコは手持ちの鞄をゴソゴソと探り、小箱を取り出してウィステリアに渡す。


「これを私に?」

「そうだよ、開けてみて」


 ウィステリアが箱を開けると、中には木製の義眼が入っていた。


「眼の代わりにはならないけど、中身がないと骨は変形しちゃうからね、女の子の顔が崩れちゃうのは可愛そうだなって」


 コッコは平然と言うが、ウィステリアにはその優しさが痛い程に響いた。

小箱を両手で包み込むように持って胸に運び、祈る様に頭を下げる。


「有難う、有難うございますコッコさん、大切にしますね」


 礼を言ってウィステリアは義眼を取り出して装着した。


「うん、ぴったりね、凄いわ」

「あはは、でもやっぱり眼帯はした方が良さそうだね……」

____________________________


 暫くして昼食を終えたクロウ等は談話していた。


「逃げるのに必死で気付かなかったけど、この街は随分と綺麗に整備されているのね」

「この辺は俺の私有地だからな、好きなんだよ冷たい街並みってのが」

「随分と広い領地を持ってるのね」

「俺は貴族かよ……まあ似たようなもんか」


 話すクロウの傍らでコッコは寝ている、体温を感じる程度に前腕が少しだけクロウの腿に触れる様にして眠っている。


「所で、ウィステリアはあの時何から逃げていたんだ?」

「ご存知ではないのですか?事情は把握していると仰いましたよね」

「それは確かに言ったが、俺が知ってるのは飽くまで概要だ、藤国には魔物に対抗する手段がなかった、とかな」


 藤国は元々魔物の少ない辺境にあり、周辺に僅かに生息する魔物も、分類上は魔物とされているだけの小動物のようなもののみだった。

それが歴史的大事変以後、強大な魔物が挙って集っているという。


「はい……我が国には応戦する程の戦力はないに等しく、国民を避難させる事に尽力しました

特殊な魔力を持っている私は多くの魔物を引き寄せてしまうようで、ならばと囮役を買って出たのです

国の優れた騎士十八名を護衛として連れ多くの魔物を引き寄せました、その内の殆どは騎士達の力だけで討伐出来たのですが」

「龍でも出たか」

「……はい、暴食の蝿龍と呼ばれる魔物です、同種族全体で龍となされるものではなく、群れの中で一頭だけ作り出される異形の個体を龍と呼ぶという

他の龍種に比べると異質な存在で、龍の中では最弱とも言われる魔物なので、文献通りの力であれば自分たちだけでも対処が出来るのではと踏んだのです」

「それは……経験が無さ過ぎたな」


 クロウは哂う。

ウィステリアは悔しそうに、手を握り締めた。


「彼等は我が国では随一の騎士団だった、総出で掛かれば一頭位何とか出来ると思ったの

でも……瞬殺だったわ、一撃で、同時に三人も殺られたの、私には為すすべも無かったわ」

「そりゃそうだ、龍を倒すには専門知識か、化物じみた武力が必要だ、お嬢様に出来るのは精々が治癒魔法くらいのもんだ」


 ウィステリアは何も言えなかった、あの時龍を相手にするのは無謀であったと、認めざるを得なかった。


「ですが死闘の中で対策を覚え始めた我々は、耐え凌ぐ程度の事は出来るようになっていました、その頃には人数も減って、私の他には五人しか残っていませんでした……」

「五人で龍を抑えるとは中々だ」

「そして逃走と戦闘を繰り返しながら何日もかけて南下しました」


『人数が減った分食糧には余裕が出来ていたのか、森で動物でも狩ったのか、何れにせよ龍を抑えながら行うのは困難を極める、やはり相当な手練が居たようだな』


「しかし野営中に山賊に遭い、武器や食料を奪われてしまったのです」

「……酷い話だ」

「ええ、それでこのままでは長くはもたないと思い護衛の騎士には任をとき、避難している皆に合流して貰おうとしたのですが

彼らは{この命が尽きるまでお守りします}と平然と言うのです

然し盗賊の強奪は留まるところを知らず、暴食の蝿龍から逃げている最中にも足の引っ張り合いが始まり

多くの者が命を落としました」


 クロウは眉間に指を当て嘆息を漏らす。


『共通の外敵が居ても生存意欲より物欲を優先する害獣が存在しうるのか』


「この地に逃げ込んだ頃には護衛も盗賊も数人しか残っていませんでしたが、私を逃がすために最後の足止めをすると言って……」


 ウィステリアが彼等を見たのはそれが最後らしい、生死は不明だが全滅は必至だろう。


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