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狂戦士さんと買い物

 ど、どうしてこうなったのだ……。


「わぁー、やっぱり細いっすねぇ。肌はしっとりしてて……あぁー、凄い肌触りがいいっす……なんか感動……」

「ひ、あっ…………ゃめ……ひぃ!」


 脇腹をつつーっと指でなぞられて妙な声を出してしまう。

 未知の感覚と擽ったさ、何より現状の謎のシチュエーションに頭が混乱してうまく働かない。


 今私は鎧やら何やらを脱がされて、ラタトスクと一つの部屋に入っている。

 訳が分からないだろうが、私も訳が分からない。

 

 ……話は鍛冶屋から宿に帰ろうとし、ラタトスクに呼び止められた時まで遡る。





「あ! クルスさん、今から時間ってあるっすか?」

「ん?」


 どうしたんだラタトスク。宿に戻ってお風呂にゆっくり浸かるという用事はあるが、それ自体は後にも回せるので時間はありはするが。


 今からお風呂に入って出ると樹海に着く頃には夕方になってしまう。そうすれば樹海内の目的地に着く頃には夜を回っているだろう。

 夜の未開地は不測の事態が多いので、警戒がしにくい一人でいくならできるだけ避けたい。明日の朝に出発しようかと思っている。


「いやだなぁ、いったじゃないっすか。買い物っすよ、買い物。本当は後日時間合わせてーってやろうと思ってたんすが、樹海に行くならいつ時間が会うか分からないので、今からいこうかなーって思って」

「あぁ、そういえば言っていたな……」


 確か……荷持持ちをして欲しいという話だったか? まぁ、暇なのは間違いないのでいいのだが。

 あぁ、でも仮にも女性と買い物に行くなら尚更お風呂に入ってからが良かったなぁ。とは言え私のお風呂は長いので今からでは時間がかかる。


「あ、マルコ君も行くっすか? 」

「えっ……あ、わわわっ」


 マルコが大層慌てた様子で驚き、手の中で珍しそうに転がしていた商品を落しかける。お、ギリギリでキャッチしたな。

 からかわれているみたいだな。それとも荷物持ちが二人必要な程買う気なのだろうか。


 それはそれとして、何やら誘われた後マルコの動きが止まってしまった。


「そ、そんな流石に……でもお兄さんも……ちょっと気に……」

「あれ? おーい、マルコ君、おーい」


 どうやら相当に思案しているらしい。目の前で手を振っているラタトスクに気づいていない。


「はっ! あ、はい! いきます!」


 お、気がついた。行くようだな。


「ボクは帰るね。お疲れ様、皆は楽しんできてよ。また縁があったらよろしく」


 そう言ってソールは立ち上がり、軽くこちらに右手を挙げる。


「あぁ、ソールもお疲れ様。今回は本当に助かったよ」


 ソールがいなかったら多分死んでたな……少し恥ずかしい思い出もできてしまったが。


「あ、ソールさん、お疲れ様です! またよろしくお願いします!」

「お疲れ様ですー、いやはや、私はあんまり役にたってない気もするっすけど、色々と記憶に残る冒険でしたねー」


ラタトスクは道中の罠の解除などでしっかり働いていたのだが、宝箱が最後しか見つからなかったからあまり実感がないのかもしれないな。どうしても火力で劣るのは仕方ないことだしなぁ。



 その後、三人で軽く町の中を歩いて少し買い物をする。

 この町は比較的質素な生活を好むこの国……ヴァルツラントの中では活気に溢れていて、色々な物が売っている。

 少々路地裏の治安が悪いという問題はあるが、都市が大きくなればどこにでもでてくる問題ではある。

 交通の便が然程良くないという都市としては小さくない欠点を抱えているが、迷宮の数、未開地が傍にあるという利点があり、その為冒険者が多く、要するに大金を持ったカモがたくさんいるので商人の行き来もそれなりに多い。

 未開地に関してはマイナス要素にもなるのだが、危険的な意味で。


 まぁそんなわけで色々と面白い物が売っていたりする。食事も割りと美味しいものがある。


 命の危機のある戦闘から一転、ゆったりとした時間を楽しんだのだが……ここで帰っておけばよかった。


 やけに高級そうな店だな、と思い連れられて入ってみたら女性用の服飾店でした、はい。


 ……こんな店に入ったのは初めてだぞ。あっちを見てもこっちを見ても生涯実物を見る機会があるか分からなかった物ばかりなんだが。


 マルコは恥かしくて店から出ようとしていたが、道連れが欲しい私が片腕を胸元でぎゅっと極めている。逃がさん、お前だけは。


 お陰でずっと俯いたままだ。思春期の少年にこの店はキツイだろう。というか大人でも辛い。私も辛い。だから道連れな。ぎゅっーと胸元に押し当てる腕の力を強める。


 あぁ、ちなみにこの世界では割りと下着以外にも服飾系等が発展している。

 基本的には迷宮の出土品から感銘や影響を受けたパターンが多いらしい。メイド服とか普通に出てくるらしいからなぁ、何故あるのかは分からないが、

 機械がないと量産できないのでさぞや高価になるだろうと思っていたが、確かに割りと高い。それなりに稼いでいないと一般の方にはきついかもしれない。逆にいうと稼ぎのいい冒険者は店としても上客ということか。


 でもよく考えると魔具やら魔法やらあるから、量産とまではいかなくても色々手段はあるのかもしれないな。……私にはその辺り分からないし一生分からなくてもよかったのだが。


 ……女性の下着には興味が……うん、なかったので知らなかったが、ドロワーズがメインのようだが、なんだか現代で見たような下着もちらほらあるな。無論、素材的に無理だろうものはないと思うが。あまり凝視できない。恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。


 ちなみにアルジナはドロ……あ、今の無しで頼むぞ。



 そうやって店の中を回っていたのだが……この段階で気付くべきだったのだろうなぁ。


「あのー、クルスさん、これ、どっちがいいっすかね?」


 そう、私の前に下着を両手に持って晒す事複数回。


 あれは私に異性から見てどう見えるか? と聞いてきているのだと思い、何気なく答えてしまっていた。


 だが……違った。

 あれは私に……私自身に! 履くならどっちがいいか? と聞いていたものだったのだ。

 数回解答を繰り返していたら、


「じゃ、試しましょうか」


 と、いきなりの言葉に硬直している間に、試着用に分けられているのだろう小部屋に連れ去られてしまった。

 あ、マルコを逃がした。



 ……あぁ、勿論全部ここまで現実逃避なんだ。

 さて、そろそろ現実に戻るとしよう。


「あ、これなんてどうっすかね。肌に吸い付く感じがして、結構人気なんすよ、これ。クルスさんの綺麗な髪ともお揃いでいい感じっす」


 そういって妙に際どい露出度の高い感じの黒の下着を私の目の前に広げてくる。現実に戻って早々にこれだよ。


 ……これを履くのか!? 私が!? 死んだほうがマシだぞ!


 ところで黒といえば勝負的な色のイメージがあるのだが、ここにはないのだろうか。あ、そんなことはいいか。


 なんとか私が男であるということを、ラタトスクに理解してもらわなければ……。

 私は誤解を解くために、決意を込めてラタトスクに少し詰め寄るように話しかける。


「ラタトスク! 実は私は、お……」


 そこまで言いかけて言葉を止めてしまう。


「ん? どうしたんすか? ……お?」


 ……今から言うのか? ここまでされておいて手遅れではないだろうか? 今貴女が見ているのは男の裸体ですと言えるだろうか? 男と一緒の部屋に入っていますと言えるか? さっきまで男の脇腹を触って喜んでいましたと? 

 いや、今は女なんだが。というか今の姿で男ですとか言い出しても失笑モノな気がする。


「お……お尻が大きいので、そういう肌に張り付くような下着を履くと、戦闘に支障がでてしまうんだ」


 日和って、横目で宙空を見るように視線を泳がしながら答える。


「あ、なるほどー。ほとんど遠距離しかしない私だとそこまで気にならないっすけど、前線で剣を振ってるとやっぱり少しでも気になるとダメっすよね。盲点だったっす。もっと余裕があるやつにするっすか」


 あああああああああ! 誤魔化すにしてももうちょっと何かあっただろう私! 今直ぐ頭を壁に叩きつけたいぞ!


 だが、絶望に浸る私に、更なる魔の手が迫ろうとしていた。


「それにしても……なんだか勿体無いっすねぇ……こんなに綺麗なのに事情で隠さないとだめー、だなんて」


 ほぅ、と息を吐くと、顔を至近距離に寄せて、すりすりとお腹周りを擦るように手のひらで撫でられ、背筋に妙にぞくぞくとした感覚が襲いかかる。


 好奇心からなのだろうが、妙に気恥ずかしくて困る。というかこの子も肌が上気してないだろうか。女神ボディらしいから魅了とかついてないだろうか。


 後は私自身今の身体に慣れていないのもあるのか、感覚が一々むず痒い。吐息の一つ一つに反応してしまいそうだ。


 座り込みたくなるのだが、気合でなんとか立った体制を維持し、このままではまずいのでなんとかラタトスクの行動を止めようとする。


「ら、ラタトスク、一人でつけられるから、そ、外で……」


 無論履く気なぞない、履いた振りをしてこの場はやり過ごそう。


 ……ん? なんだかラタトスクの動きが止まったが……。え、どこをじっと見て……。


「……えいっ、くりくり」

「ひんっ!?」


 へ、へそ、へそにゆびをいれられたぁ! 







 最終的に購入した一番無難なドロワーズを入れた袋を手に持ち、私は宿への道をラタトスクと歩いていた。


「一つでよかったんすか? お礼っすし、多少なら私が払っても……」

「い、いや、結構だ。十分だよ、ありがとう」


 いや本当にもう十分というかいっぱいいっぱいなので……。邪神と戦った時よりも足ががくがくしている。きっと気疲れだろう。

 

 ……上の方用の下着は使いようがないにしても、ドロワーズは確か元の歴史でも男性がぽろりしないために履いたと聞くので、元は男性用のレギンスのはず。ならば男が履いてもおかしくはない。

 いややっぱ無理だ、認識が違いすぎる。


 だがこないだ普通の男性用下着を付けていたら、変身した時にもら……確認した時に完全に女性用に変わっていたんだが……これなら変わらないでくれるだろうか? それなら恥を少し捨てても……いやまて、何故変身を前提に考えているのだ。二度とする気はないぞ、私は。今もしているわけだが。


 ……知り合いの女性にあげるか。でもそれはそれで変態扱いされそうでいやだ……。それに後で買ったのどうしたかーとラタトスクに聞かれた時無いと困るし……部屋の隅にでも置いておくか。


 そういえば一緒に来ていたマルコは、試着室の前で待っていたが、店員さん曰く途中で顔を真っ赤にして足早に帰ってしまったらしい。

 そりゃあ下着以外も売っているとはいえ、男性が長時間居るのはキツイ空間だろうさ……。でも逃げたので後でお仕置きだな。


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