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狂戦士さんと鞭

六月まで火曜と木曜は少々忙しいので更新できない可能性が高いです。

 目が覚める。最近良く見る宿屋の一室の天井だ。

 昨日はソールと別れてそのまま宿に戻って寝てしまった。


 え? 昨夜本気で殴った奴らはどうしたかって?

 はは、本気で殴ったらギルド内で大量のミンチ肉を作ってしまうからな、冗談だぞ。


 身体の調子は悪く無い。

 アムが枕代わりにしている胸部の肉が邪魔だが、これもその内治るだろう……治るよね?


 私はいつも通りにベッドに入り込んできている、まだ寝ているアムの頭をそっと撫でると、起こさないように静かにベッドから起き上がり、朝の支度を始める。


 うん、いい朝だ。

 窓を空けると新鮮な空気が入り込み、肺を満たすそれが心地いい。


 明け方の空気はまだ寒いようで、アムがふるりと震える。

 風邪を引かれては困るので、空気を入れ替えたら閉めるとしようか。


 今日は洞穴にいったパーティーでこの間アルジナ達に紹介して貰った工房に行くのだ。あの時は残念ながら休みだったが、やっているといいのだが。





「で、鑑定結果はどうだったんですか?」

「あー、分からん」


 実に簡潔な答えだ。

 

「まぁ、俺は鑑定の魔法が使えるわけでもないからな、適正がないとなぁ、あれは」


 そんな事をいいながら手の中のモノクルを弄る棟梁。あれは魔具だろうか。ヒゲがダンディな感じで中々決まっているが、ヘズナルさんを見た後だと逞しさが少々物足りない気もするな。


 魔法の適正には属性のみでなく、得意とする方向性がある。むしろ、こちらのほうが重要かもしれない。

 本人にあった魔法であれば使い方を習わなくてもなんとなく頭に浮かんで覚える事ができる。

 例えば私のフレンジなんかは正しくこれで、当時魔法の使い方なんぞ知らなかった私があっさり使用することが出来た。

 こういうのを固有スペルという。固有と言っても適性が似通っていれば被ることもあるが。


 逆にブラッドレイ……ちょっと名前を言うのが恥ずかしいが、こうした形を変化するなどの系統のある魔法は習った上で覚えたものだ。参考になる魔法が少ない血属性でも、基本的な操作方法などは変わらないので応用できることもある。しかし、先ほど言った得意な方向性に影響されてしまうらしい。


 人によって得意な魔法と苦手な魔法の種類が異なるので、強化は出来ても放出はできない、なんて人もいる。私は割りとオールマイティに使用できるが、可もなく不可もないレベルが多いな。回復と狂化……強化はとりわけ得意だが。


 種類分けも属性よりも遥かに多く、鑑定なんかは識別といった特殊な方向性なので希少価値が高い。後は生産系に秀でた魔法もだな。


「適正……俺、得意な魔法が硬質化なんで、炎の魔法と合わないんですよね……」


 ちょうどマルコがしゅんとした様子で落ち込んでいるが、まさしくこういう風に得意な属性と合わないというパターンもある。

 例えば硬質化は六大属性の中でも土や水だとかなり強力だったりする。特に土は極めて相性がいい。が、実態を持たない属性だと今ひとつ使いにくい。


 しかし、先ほど言ったようにそもそも使い手の数が少ない。では、その魔法を得た者にしか使えないかというと、必ずしもそうではない。

そういう場合に使用されるのが魔具だ。本家本元の効力に比べれば劣るが、瘴石を使用することで限定的に使用できる。なんで使用できるのかは私は専門じゃないのでわからないけどな。 


「んじゃ、鑑定代」

「はい」


 逆に言うと必ず瘴石を使用するので、鑑定に失敗しようが成功しようが一定額かかる。成功した場合は更に鑑定に応じて使用されるので額が増える。

 失敗した場合は駆け出しには少しきついくらいの額だな。成功した場合はもっとかかる場合もあるが。

 更に言うと、鑑定結果は相手の言う事が全てになるので、使用者に一定以上の信頼がないと商売にはならない。


「この魔具もそれなりにいい品なんだが、ほとんど読めんかった。かなり品質が高い出土品なのは間違いないな」

「んー……となると、誰かが買い取るか、内輪で使うか、推定の値段で適当に売りさばくか、保管しておくかっすかねー……」


 ラタトスクが思案顔で腕組をしながら考えている。

 鑑定出来てない以上売値は下がるし、かと言って鑑定できる人と巡りあえるかも分からない。

 そしてうちのパーティーは固定メンバーというわけではないので、内輪で使うのも少々問題がある。


 値段の問題はあるが、ものによってはメンバーの中では多少余裕のある方の私が買い取ってもいいのだが……。


「あれじゃあなぁ……」


 鞭である。触手のイメージからするとぴったりな気がするが、使うには少々使いづらい気もする。鞭なんて振ったことがないので分からないが。


「ボクは正直武器はこいつで間に合ってるから必要ないな……」


 そういってソールが軽く目を細めて腰に刺したエストックを軽く叩く。

 さりげない仕草だが、愛用の武器に対する確かな信頼が感じられる動きだった。


「俺も拳に装着するタイプじゃないとあんまり……どっちも打撃系というのも合わないですし」


 マルコはそもそも鞭という武器自体に興味がないようだ。まぁ、射程で圧倒的に不利になるのに態々拳を使う以上、何かしらのこだわりがあるのだろう。


「知り合いのトレジャーハンター系統の職業には結構使ってる人がいるんすが、私は根本的に武器の使い方が不器用でして……鞭とか振るったら自分の後頭部を叩きかねないんす」


 それは不器用というレベルではないと思うが。

 とりあえず、皆いらないということで一貫しているようだな。

 ……私もあんまり要らないが、サブの武装にする選択肢がないでもない。


「ところで棟梁、私の剣なのですが……」


 あの後結局のこの剣は元に戻らなかった。

 形状的にはツヴァイハンダーといった感じだが、刃の波打方がフランベルジュに近い。いや、アレよりも形はエグい気がする。

 長さが既に私の身長と同じ……少し見えを張った、剣の方が長いのできついが腰に佩びるか、背中に斜めにかける形になるのだが……。


「……この長さじゃあ鞘に入れるわけにもいかんし、かといって抜身のまま持ち運ぶんじゃあこの刀身は危なすぎるなぁ」


 そういって牙の様なギザギザした波紋の奔る方の刀身をつつーっと撫でていく棟梁。


 そう、そうなのだ。あの訳の分からんギザギザな波紋が人に触れれば勿論危険だし、どこかに引っかかれば私の動きも制限される。

 更に言うとマルコ曰く勝手に動いたらしい。流石にそんな危険物をこのまま外に持ち出すのは憚られる。

 じゃあ鞘に入れるかという話になるのだが、この長さの剣を鞘にいれたら戦闘時抜くときに物凄く時間がかかる。こう、低い体勢になったりして苦労して抜くことになる。


 ほんとどうしようこれ。


「……布で巻いとくのが無難だろうな」

「なるほど」


 ぽんと右手の側面で左の手のひらを叩く。

 その発想はなかった。ゲームの見過ぎだな。流石職人だな。


「ただ、問題がある」

「はぁ、問題とは」


 話がポンポンと進む。


「さっき試しにそれなりにいい布で巻こうとしてみたんだが、当てた途端に容易く切れ込みが入りやがった。こいつを包むにはかなりの格の布がいる」

「ふむ」

「そして今うちはちょうどいい感じの高位の布の在庫が切れてる。元々飾り布とかに使うのが多いからあんまり用意してねぇんだ」

「なんと」

「だが、俺のコレクションしてる中に実はそれよりも上位の布がある」

「それは凄い」

「そこで俺から依頼があるんだが、ラーミャ樹海の浅層部に開けた所にでかい花畑がある。ここにあるとある花をいくつか取ってきてほしい」

「鍛冶屋で、花ですか?」

「色々と使い道がある花でな。依頼に出してたんだがどうにも最近は冒険者の動きが鈍いみたいでなぁ。中々受けてもらえなくて困ってたんだ。どうだ? 別に十日もすれば入荷できるとは思うが」

「ふむ」


 未開地に行くのは正直あまり気が進まないが、浅層部くらいならそこまで怖くもない。実際浅層部の浅い所ならランク三くらいの冒険者でも行くことがある。まぁ半分のその又半分くらいは死ぬわけだが。その上で討伐ではなく探索ならそこまで危険でもないか。


「分かりました、引き受けます」

「おぉ、そうか。引き受けてくれるか」


 十日待っていてもいいのだが、どうせいいものが手に入るならそっちのほうがいい。鞘代わりの布とは言え、な。

 ただ、先程も言ったように、今の状態では外にこの剣を持ち出す気になれない。いきなり動き出して通行人を刺しでもしたら事だ。無いとは思うが色々と謎が多い子なのでありえないと言い切れない。


「……代わりの武器がいるなぁ」


 じーっ、と台の上の鞭を見る。


 ……買うか。品質は保証されているし。

 問題は出土品にお馴染みの呪いや加護という名の呪い、要するにどっちも呪いの話になるのだが……。


「……棟梁、呪いとかってありました?」

「無論」


 うん、知ってた。

 高品質の出土品は嫌がらせの様にそれなりの確率で呪いがかかってる。だからそこは覚悟した上で使うしか無い。


 問題は呪いの種類である。

 一時的な麻痺、呪い、毒を受けるといったシンプルな呪い、身体能力や精神へのデバフ、クランのように意識が変化する呪い、身体的な影響がある呪い、……後私の様な加護という名の呪いなど、種類を数えていけば数えきれないほど多岐に渡る呪いがある。

 ちなみに私の鎧や髪飾りは加護なので呪いの品にはカウントされない。解せぬ。

 

 この中で一番忌避されるのは、意外かもしれないが最初のシンプルな呪いだ。

 戦闘の最中に発動されれば死ぬことがあるからだ。単純故に一番危険ということだな。

 他の呪いはそれに比べればまぁマシ……らしい。

 ……私はそうは割り切れないが。


「意識の変化……だと思うが。まぁ、あまり重いものじゃなさそうだな」

「そうですか、なら、問題ないかな」


 意識の変化は結構重いほうの呪いだが、軽めなら多少価値観が変わる程度で済む。

 最悪な種類の物によっては人殺しの価値観などに影響が出て町人を殺して回った騎士の話などがあるが。

 装備品の質と呪いの重さは比例することが多いので、止めるのがさぞや大変だったらしい。本人は善意で殺して回っていたというのだから恐ろしい。

 

 そう考えると、本人の意思を無視しているのならクランのアレも相当重い呪いであるといえるが……しかし、果たしてそこまでの強化率だっただろうか? 少々つり合わないような気がする。



 斯くして、私は新たなる武器を手に入れた。

 迷宮最深部の武器としては格安だったが、詳しい情報が謎なのが不安だ。

 それなりに使えることを祈りたい。

 一応は剣が返ってきても、サブ武器として運用できるだろうか。


 まぁすぐに行けというわけではないので、とりあえず宿に戻ってお風呂に入りたい。昨日は夜遅くて入れていないのだ。


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