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狂戦士さんとドキドキ

 サニード洞穴。

 鍾乳洞の様な洞穴内部には大きな水脈が流れ、その内部を地下へ地下へと潜っていく構造になっているようだ。水が侵食していないところを選んで進んでいく。

 ポタリポタリと一定の間隔で、天井の尖った岩から水滴がリズム良く垂れている。

 怪物は水棲生物の変化した様な姿のものが多いらしい。

 上の層にはコウモリの様な怪物ばかりで楽勝だったが……厄介なのは、武器を持っている奴が多い、ということだろうか。


「こいつのように……なっ!」


 魚人の様な外見をした怪物……サハギンの突き出してくる槍を剣で受け止めると、来るであろう連撃を無視してそのまま突っ込む。

 敵がこちらに的を定める前に、愛剣を振り降ろし頭から真っ二つにする。

 びちゃびちゃと飛び散る血液をそのまま操作して、硬質化させた血液の棘を隣のサハギンに突っ込ませる。……よし、腕にヒット。槍を落としたな。


 最近は少し操作に慣れてきた。強敵と連続して戦った経験が生きてきたのか、短期間で確かに成長している手応えがある。

 ……確か、似たような容姿の亜人種の人たちが居るらしいな。あまりこの迷宮には来てほしくないな、間違えたら事だ。


 しかし、槍使いにどうにも苦手意識が出来てしまっている気がするな、一歩踏み込みが鈍い。ジオと今度模擬戦でもしようか。


「せっー、のっ!」


 一気に距離を詰めたマルコが血の棘に刺されて武器を失ったサハギンの腹部にワン、ツーと拳を入れていく。拳を突き入れて宙に浮かせ、最後、腰を入れた一撃と共に捻り込むようにして止めを刺す。


 現状は私とマルコが前衛、ソールとラタトスクがその後ろという形だ。

 ソールは前衛でもいいみたいだが、水辺から敵が突然現れる事を考えるとラタトスクの護衛も必要になる。ラタトスクも無抵抗でやられることはないだろうが、近距離での戦闘は他のメンツより劣るのは明白だ。


 そしてそのラタトスクは遠距離攻撃ができるが、罠への警戒である程度は前に出る必要がある。


 両脇からサハギンが槍を突き出してくるので、その槍を回避しつつ腕を絡めとる様にして掴む。

 腹に足を当てて腕を力尽くで引っ張りあげると、肩口から腕を引きちぎりつつ、足蹴にした胴体を奥に蹴り飛ばす。

 同時にこちらを狙って来ているサハギンをそれで吹き飛ばしつつ、もう一体の脇から来ているサハギンの槍を剣で弾き飛ばす。


 ……しかし数が多いな、この迷宮は数で押してくるタイプか。水辺から次々と湧いて出てくるぞ、こいつら。水面より下にいると姿が見えないので奇襲が怖い。

 仕留めるまで少し時間のかかるマルコだと、油断すると危険かもしれない。


「一掃するよ、少し避けてくれるかな」


 後方で精神を集中していたソールがそう言うと、バチバチと静電気が弾けるような音と共に全身に雷を纏い、右手の剣を上段に構える。


 なるほど、この迷宮なら相性がよさそうだな……こっちにも飛んできそうで怖いが。早々に退避するとしよう。


「迸れ」


 ソールが剣を振り下ろすと共に、雷撃の塊が敵の一軍を纏めて薙ぎ払う。黒焦げになった怪物達は電撃の余韻でピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。

 威力が高いな、とはいえ、一撃で倒せたのは相性もあるだろうが。


 ……あ、ちょっとパチッと来た。まぁダメージになるほどではない。大規模な魔法や魔技はフレンドリーファイアが怖いんだよな。慣れると範囲や周囲への影響を制御できるらしいが。


「ふぃー、やっぱり上の迷宮になってくると敵の数が違うっすねぇ」


 特に戦闘に参加していなかったラタトスクが、感慨深い物を見るような声で言う。まぁ、遠距離は弾数が限られるので、必要無い時には打たなくてもいいのだが……彼女の場合はメインは罠の警戒だしな。

 ちなみに私達はこの間地味に瘴石を拾っている。ラタトスク、君も拾おうね。


「とはいえ、これだけの戦力が揃っていれば無理しなければ問題ないね。回復がちょっと不安だから、できるだけ怪我しないようにいこうね」


 ソールが剣を鞘に戻しながら言う。


「それにしても、クルスお兄さんの魔法、面白いですねぇ」


 そういってマルコが興味深げに私がプールしているふよふよと浮いている血の塊を突っつく。

 まぁ、血なんて属性物珍しいのだろうが……。


「あ、こら、私が意識してない時に突くと――」

「わっー!?」


 ぱちゃりと言う水音と共に辺りに血液が散らばる。

 その真下にはマルコがいるわけで……。


 あぁ、言わんこっちゃない。

 血球が割れて、全身血まみれになってしまった。

 戦闘が終わってちょっと瘴石拾いに意識を割いていたのが失敗だった。意識していれば弓に射ぬかれようが魔法を受けようが問題ないのだが。


「あー……ごめんなさいクルスお兄さん」

「いや、別に気にしなくていいが……」


 ぱちぱちと目を閉じたり開けたりしながら、こっちに謝ってくる。

 頭部から生えた犬の様な耳もピクピクと同時に動いていて少し面白い。


「うぅ……ちょっと生臭いです」


 マルコが鼻をすんすんさせながら少しつらそうに顔を歪める。

 ……まぁ、血の出処が半魚だからなぁ。


「……洗ってきたらどうかな? これだけ近づいても出てこないなら、多分怪物も水の中には居ないと思うけど」

「そうします……鼻がいいからきついです」


 ソールがそう言うとマルコは水辺に近づいていく。

 ……そういえば試したことがないけど、全身に血液を纏って凝固させれば鎧の代わりにならないだろうか? ……相当切羽詰まった状況にならない限り、今の鎧で十分だな。臭そうだし。

 あぁ、でも何かに応用できるかもしれないなぁ。魔法の制御力が上がると、色々と夢が膨らんで、胸がドキドキとしてくるな。随分と血濡れた夢だけど。


 ちゃぷちゃぷと水音を鳴らしながら服と身体を洗うマルコを見つめつつ、そんな事をぼんやりと考える。

 服も血塗れなので上半身があらわになっているが、無論、敵の奇襲の警戒以外の意味は含まれていない。そもそもこの子常に半分露出してるし。


 しかし、随分と綺麗な水だな。さらさらとしていてそのままでも飲めそうだ。飲まないけど。

 海水のような水ならベタベタするかもしれないので心配していたが、そういうこともなさそうだな。 これが迷宮でなくて普通に水辺としてあったら、休日にゆったりしに来たかもしれない。

 直ぐ側で血を溶かしているのと、先ほどの半魚共から流れた血液が水流を赤く染めているが。血の河かな?


「ふぅ……お待たせしました、皆さん」


 マルコがさっぱりした顔で服を肩に掛けながら、水音と共に水辺から上がってくる。

 だいたい落ちたみたいだな。多少残るのは仕方ない。


「服はいいのか? 防具が無いのは問題だと思うが」

「あぁ、いいですよ、乾くまでこのままで。俺、元々回避メインなので対して防御力も無いですし」


 にゃはは、とマルコが笑いながら言う。……君は犬系の亜人だよな?

 どうやら得意な魔法が火魔法らしく、早く乾くように魔法を使っているらしい。魔力が少ないからちょうどいいと言っているが、中々のコントロールだと思う。

 こういう時は火と風が便利だな。日常生活では水が断トツらしいが。


「さ、流石に男の子の上半身が丸々見えてると少し恥ずかしいっすね……いや、この程度でパニックになるほど初心じゃないっすけど」


 ラタトスクが明らかに前が見えている程度に両手で両目を覆い隠しつつ言う。


「うーん、しかしよく鍛え上げられているなぁ……羨ましい。私は妙に筋肉がつかなくてなぁ」


 じー、っとマルコのお腹周りを見つめる。うん、やっぱりかっこいいなぁ。

 むんっ、と二の腕や腹筋に力を入れてみる。……あまり浮かび上がらないな。


「あー、クルスお兄さんに似合うとは思えないですけど……あ、いや、それもありなのかな?」


 マルコが顎に手を当てながら思案顔で何やら考えている。


 ……ちなみにこの間ソールは微笑ましそうに少し距離を空けてニコニコとこちらを見ていた。

 ……会話に参加したらどうかな?  




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