狂戦士さんとくんくん
さて、昨日は遊んだのだから、今日は稼ぎに行かないとな。
……え、誤解は解けたのかって? ……まぁ、なんとかな。色々と削られたが。
今日はここ数日のパーティーで気があった人たちと迷宮に潜る約束をしているため、ギルドに来ている。
アルジナとクランとジオだけでは、流石に人脈が狭すぎるのでな。
……ちなみに、私の戦い方に引かなかった人達、と言い換えてもいい。
その内また悪名が広がりかねないので、その前にできるだけ顔を広げておきたい。切実に。
「あ、クルスさん! こっちっすよ、こっちー!」
リスの様な尻尾をした、茶髪の健康的な雰囲気の亜人の少女がこちらに手を振る。
彼女はラタトスク。
げっ歯類系統だと思うのだが、詳しくは不明だ。
獣人でも亜人でもいいのだが、カテゴリー的にはまとめて人類である。
神話の時代にはもっと獣と人と中間、みたいな人が多かったらしい。
だが、時代が進んで混血が進むに連れて、血が薄くなったらしく、獣成分は一部に影響が出るくらいなのが現状だ。
ただ、稀に先祖返りと言われるようなこれぞ獣人、と言える様な人や、一時的にそうした姿になれる亜人種の人も居るとか。
武器はクロスボウ。いわゆる弩というやつだな。
戦闘よりも罠の解除などをメインとしている。亜人は人よりも第六感とでも言おうか、そういった部分が鋭敏な人が多いらしく、そういう職業を兼任している人がそれなりにいる。
私は自分を標的にした致死性の罠を偶に見破れたり、軽度の罠は無理矢理食い破ってきたので、ソロでも平気で潜ってきたが、高位の迷宮になると流石に不安になる。
今までは矢が飛んでこようが石が転がってこようが力押しで退けてきたが、高位の迷宮は人を石にしたりと私でも察知できそうにない質の悪い罠がごろごろとしているらしいからな。
ちなみに迷宮の罠も迷宮のランク分けの一助となっている。ランク四以下ならとりあえず致死性の罠は無い、もしくは少ないと判断されている。
「うすうすうーっす!」
しゅたっと手を挙げながら、元気よく挨拶をされる。
おぉ、元気いっぱいだな。寝起きのテンションだったらついていけるか不安だ。
「うすうすうす」
私も投げやりに手を挙げつつ適当に返す。
「やぁ、おはよう」
「あぁ、おはよう」
次に挨拶をしてきたのは、ピンク色の長髪を後ろでまとめた、なんというか……妙に色気のある男性だ。
彼はソール。
ゆったりとした服に身を包んでいるが……前衛、だったよな?
まぁ、下手な鎧以上に防御力のある服なんかもあるので見かけでは判断できないが。武器はエストックの様な細長い剣だ。
回避型で、珍しい雷の魔法を得意としている。
私の血ほどではないが、特異属性という奴だな。風の系統が強いとされるので、全くいないということもないが、珍しいのは間違いない。
本人曰く剣よりも魔法が得意だ、と言っていたな。魔法剣士の魔法重視型、といった感じだろうか。
前衛は盾で受け止める以外だと大抵回避がメインになる。
特にソロから上がってきた場合は大抵そうで、私みたいなダメージ前提で特攻、なんてのはあんまりいない。
話によると私よりも多少年上らしい、無論、肉体年齢のみだが。まぁ、ジオよりは下だろうな。
そして、こうしている間にも何やら視線を感じる。
「……な、なにかな?」
「いや、なんでも」
ニコニコとしている。
……ちょっと視線が気になる人だ。やたらとじーっとこちらを見ていることがある。
で、あと一人いるはずだが……見当たらないな。寝坊かな?
まぁ集合予定の時間までは多少あるから問題ないか。
……ん? なんだか、背中に違和感が……。
「おはよーございます、お兄さんっ」
「わひゃぁ!?」
だ、誰だ、人のマントを捲り上げて後ろから抱きついてくるのは!?
「俺ですよ、俺」
「って、君か、マルコ」
「えへへ」
背中の辺りにぐりぐりと顔を押し付けつつ抱きついてくる亜人の男の子に返す。
中々離れないので額にデコピンをくれてやろうと思ったが、ぴったり張り付いているのでできない。
ぐぬぬ……。
「こら、離れなさい」
「あー、なんだか妙に抱きつき心地がいいんですよね、お兄さん」
匂いも落ち着くしー、と続けてすりすりされる。
……あ、臭くないんだな、よかった、と内心ちょっと嬉しい。
いや、セルフィが身体拭くのを嫌がった時に体臭が気になっていたという可能性があったから……ま、まぁ、あの時とは違って都市についてからはよくお風呂入ってたし……。
さて、銀色の髪……多分白ではない、をした可愛げのある容姿に反して意外にも筋肉質な犬……狼? 系の亜人の男の子、彼で今回は最後だな。
彼はマルコ。
ファーの多く装飾された服の前を開けていて、その下には何もつけていないみたいで、肌色が見えている。
まぁ、男の子だから問題無いだろう。防御力のほうが問題だが、回避型なのでそれもまた問題はない……というか、今回のメンツはどうにも防御力が薄いな。
まぁ、いざとなれば私が肉壁になればいいだろう。そこだけは自信あるからな。
武器は格闘。
所謂ナックルダスター、純粋に打撃力を上げるタイプの武器だな。
打撃が効きづらい怪物の多い迷宮によっては、ジャマハダルや……バグナウの様な武器を持っていくらしい。
近距離三人に遠距離一人とバランスはよくないが、むしろうまいこと近距離、中距離、遠距離、回復魔法と揃うことのほうが珍しい。特に回復系の魔法使いはギルドや国が優先的に確保するからか不足しがちなのだ。
ああ見えてクランはかなり優秀で、冒険者としては珍しいのだよ? 私はあまりシナジーが高くないが。
まぁそもそも、近距離の冒険者が全体の七割を超えているそうなので、遠距離武器使いが一人いるだけマシかもしれないな。それで罠解除要因がいるならベストではないがベターと言っていい。内最低二人は魔法が使えるわけだしな。
割りとパーティーを募ったら集まった皆が剣使い、槍使いだった、みたいなことは多いとか。
剣を使っている私が言うことじゃないか。
今回の場合は回復はポーションで補うことになるな。即効性は大分劣るので、ヒーラーとは到底比べられないが、徐々に傷を癒やしてくれる。
まぁ、私は魔法と何故か再生するのでいつもと変わらないが。
……どうしようもない場合は私が回復してもいいが、ちょっと肉が盛り上がっても許してくれよ? え、だめ?
さて、紹介も終わったので、早速迷宮に繰り出すとしよう。細かな打ち合わせは既に終わらせてあるからな。勿論持ち物などの最終確認はしておく。
「今回は難度五の迷宮でしたっけ」
「そうなるね。ボクは六の迷宮に潜ったことがあるけど、かなりきつかったよ。このメンバーでいくなら何度か試して連携を高めるか、もう一人足してヒーラーでも入れないと無理だと思うよ」
マルコとソールが予定を確認をしている。
私が七なので一応七の迷宮までは潜れる。
パーティーで一番ランクの高い者と同じ迷宮に潜ることは許されている、ただし、低ランクの者を連れて行っても基本壁にもならないので、無理に連れて行く者は少ない。
更に言うと、ランクに応じた迷宮許可は、基本同ランクの者でパーティーを組んで行くことが基準とされているので、私が今七の迷宮に潜ってもひき肉になるな。
ちなみにいつも私が無双しているのは大抵ランクでいうと四から高くても五の底辺あたりである。これでもソロで行けるなら十分怪物的と言える。
ソールが六、他の二人が五なので、この辺りが妥当といったところだろう。
ここにいるメンバーは皆優秀と言っていい。……特に私より年下なのに五まで上がっているマルコは、私と同じ歳の頃には同じくらいの位置にいるかもしれないな。
一応私は十六歳で登録しているので、ランク七に上がった中では歴代でもほとんど最年少クラスだ。むしろこれよりも若いのが居ることが恐ろしい。
ちなみに罠解除技能を持ったものなど、特殊技能者はランクに下駄を履かせやすい。ラタトスクは戦闘力は多分四かそれ以下だが、迷宮の攻略には重要職なので高めになっている。ヒーラーなんかも一応この類だな。
「うへぇ……難度六とか想像もしたくないなぁ。五でもたまーに死にかける目にあうのに……」
ラタトスクが嫌そうにテーブルの上に顎を付けてひとりごちる。
「一つ難度が上がるとまるで違うというからな、私も昔四にあがった時、これ以上進めないのではないかと思ったものだ」
今はゴリ押しで大抵いけてしまうが。実力が足りればゴリ押せるのが私の戦闘スタイルのいいところだな。
ちなみに普通はソロで迷宮に潜るなら高ランクにいけばいくほどランクを多く落とすというのが通説である。
その理由の大半は罠の存在であり、自分で罠をなんとかできないならソロで潜るのは辞めたほうがいい、らしいぞ。小さな傷でもどんどん積み重なっていくからな。
面倒なので敢えて踏んで突っ込む私の様な真似はするなということだな。
「そうでしたっけ? 四はそこまで……でも、五に初めて上がった時はアホかって思いましたよ」
それは才能があるから言える言葉だな、マルコ。
まぁ、私はほとんどソロだったからな。パーティーで行くならそこまで差は感じないかもしれない。
……で、背中からいつ離れるんだ? マルコ。
「まぁ、今日行くところは難度五の中でもそう高い方じゃないし、お試しのパーティーでいくならちょうどいいんじゃないかな」
「そういえば、なんて名前でしたっけ、あたし、どうにもそういうの覚えるの苦手でして……」
申し訳無さそうにラタトスクが頭を擦りながら聞いてくる。
……そういえば、なんて名前だっけか。出現する怪物の傾向とかは覚えてきたんだが、名前をど忘れしてしまった。
……この町来てからあまり経ってないし、仕方ない、よな?
二人してソールの方をじっと見つめる。
なんとなく察したらしいソールが軽くため息を吐きながら教えてくれる。
「サニード洞穴、だよ」
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