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狂戦士さんとため息

 アルバの町はイニテウムなどとは比べ物にならないくらいでかかった。

 

 久々にこれだけの数の人が町を歩いているのを見た。

 人口で言えば現代日本の人の数に到底敵うはずもないが、今まで田舎で暮らしていたため、逆に軽いカルチャーショックに襲われている。私の価値観もこちらの世界に染まったものだ。

 

 思ったより木造の家々が立ち並ぶのは、河の上流に森林があるからだろうか。まぁ、あれは森林といっていい規模なのかは分からないが。

 

 少々特殊なのは河に沿って都市が作られているのではなく、都市が河を取り巻くような形で作られている点だろう。

 町は河の左右にそれぞれ二分し、間には結構大き目の石造りの橋が何箇所か架けられている。

 残念ながら対して学のあるわけでもない私では橋なぞアーチ橋くらいしか知らないし、これがそれに属するのかも分からない。


 魔法がある世界にしても中々大変だっただろうな、とぼんやり考えつつ、私はその橋の上から町や河を眺めていた。


 ギルドや私の泊まっている宿はそれなりに近い。この橋よりも両方向こう……東側にある。

 前にもいったが、ギルドは大抵町の出入口近くにあるので、どうしても宿泊施設が密集している地帯とは遠くなる。


 私が出来るだけギルドから近い宿を選んだ理由は、冒険者が多いこの街でも血塗れで歩くのは問題があるだろうと配慮したためだ。

 ……イニテウムでは質が高い宿は当然中心部だったので、ヒソヒソされながら宿に向かうのは結構精神的にきつかった。


 で、私が何故こんな所でぼーっとしているのかというと、先ほどギルドでランクの適正試験を受けてきた時に遡る。



 

 イニテウムとは比べ物にならない大きさの冒険者ギルドの扉を開ける。

 やはり中もでかいな、活気がまるで違う。向こうのギルドは半ば酒場の様になっていたからなぁ。依頼にも行かずに駄弁っている奴らの多いこと。


 おぉ、ボードに依頼がしっかり貼りだしてあるぞ。

 田舎だとあまり更新されず似たような依頼ばかりでひたすら迷宮に篭ってばかりだったから新鮮だ。

 どれどれ、依頼内容は……。


 やはり未開地関連ばかりだな。


 未開地というのは迷宮とは別の人類の文明圏以外の場所の総称だ。

 薬草に始まり色々と特殊な素材などが手に入るので依頼者が多いが、冒険者側からすると奥に行けば行くほど死亡率が上がるので、難易度が高い依頼は放置されている事が多い。


 この町の未開地となると、先ほど話題にあげた森林……いやさ樹海関係が多いだろうな。


 私もあまり進んでいきたいとは思わないな、この間の魔物共との遭遇が普通にありえる場所だからな。

 人里に程近いところの素材採取なら初心者向けの依頼にも出る程度には安全なんだがな、それでも死ぬ時は死ぬが。


そんなわけで未開地系の依頼はスルー。他には……。


「剣の使い方を教えてほしい、か」


 私には到底出来なそうだな。

 怪物と戦う心構え程度ならまだしも、教えられる技術とか殆ど無いしなぁ、私。基本剣技も力押し前提だし。

 私の戦闘方法を普通の人がやったら数回冒険にでも行けば十分死んでしまえるぞ。


 ……あれ、私ってあまりできる依頼が無いのではないだろうか。


 別に極論迷宮に篭って瘴石を手に入れてくれば飢えることはないので、困りはしないのだが……。


 いやいや、何かあるはずだ。

 ほら、商会系の依頼とか……。計算くらいなら……。


 ……そもそも商会が護衛や荷運び以外で依頼を出すってあまり聞かないな。冒険者に教養とか求めてないだろうし。

 そのまましばらくあれでもないこれでもないと依頼書を見続ける。


 あ、約束の時間……。

 まずいまずい、大人として時間を守るのは当たり前の話だ。

 どこか釈然としない思いを抱えながら、私は受付の列に並んだ。




 ランクの適正試験のやり方はわりと単純だった。


 ギルド側の用意した相手との一対一。無論、殺しは無し。

 治癒術が使える魔法使いも待機。逆に言うと、ある程度のダメージは許容される。

 それなりのランクなので、結構過激と言っていい。

 下位ランクなら試験程度に模擬の剣持たせたりすると聞くが、このランクだと実戦的だな。


 話によると私の試験は、ちょうど私より一つ上のランクの冒険者が上位ランクに上がるための試験代わりにされるらしい。

 それって、冒険者の中でも相当高位の相手なのだが……。


 ……前のギルドでランク適正よりも大分上の実績を稼いでいたせいで、ちょうどいいと判断されたのだろうか。

 別に勝ち負けで合否が決まるわけではないようだが。


 おそらく私自身のランク昇格の試験も含まれているのではないだろうか。多分対戦相手にちょうどいい程度の試験相手が見つかった、ということなんだろうな。向こうがメインか。


 どうやら試験や訓練に使用するために、幾つか使える空き地を抱えているらしい。

 試験場に案内されると、赤い髪をした細身の……とはいっても、かなり鍛え上げられた体つきをした長身の男が槍を携えて立っていた。


 ……え、槍使いとやるの? 間合い的に凄く不利なんだけど。

 ……まぁ、槍が相手なので戦えません、などと言う訳にはいかないが。


「おぅ、こんな嬢ちゃんが相手とはな。傷が残らない内に帰ったほうがいいんじゃないか?」


 軽口。こんなのは引っかかるほうが馬鹿だ、というか割りと言われ慣れているので訂正するのも面倒な域に達していたりする。

 悪評が広まってからは言われなくなったが、私には効かないぞ。


「随分と節穴な男のようだな。終わった後に、その軽口が聞けるままだといいが」


 二重の意味で節穴だな。全く、相手の性別くらい見分けろというのだ。


「ははっ、悪い悪い。このランクの冒険者に余計なお世話だったか」


 ……意外にも普通に心配していただけだったらしい。

 言葉と雰囲気は軽そうな男だが、案外悪いやつでは無いのかもしれないな。


 ならば後は言葉は不要だな。……かなり不利な気がするが、やれるだけやるしか無い。

 

「開始ッ!」


 初動は同時。

 互いに距離を詰める。

 ……速度ではそこまで差はないようだ。


 が、やはり間合いの取り合いでは槍が圧倒的に有利。

 私の射程に相手の身体が入る前に、姿勢を低くした相手の穂先がこちらの足を狙って突き進む。

 

「くっ」


 断続的に金属がぶつかり合う音が響く。

 並外れた怪力を持つ私だが、流石に下段には力が入れにくい。

 盾代わりにした剣が槍を防ぐが、連続してその穂先がこちらを穴だらけにしようと突き動かされる。

 ……攻撃の間隔が殆ど開かない、余程槍を使いこなしているようだ。

 

 ――強い、な。この男。


 足を狙われるだけでこちらは遥かに不利だ。

 攻撃に移ろうにもこの体勢からではどうしても遅れが出る。


 堪らず距離を空ける。

 相手の思い通りに進んでしまっていることを実感する。


「そらそらそらぁ!」


 そう、相手はこちらが何か動き出すまでこれを繰り返すだけでいいのだ。

 この高さなら跳躍で躱すことも可能だが、そんなことをすれば着地までの間に全身穴だらけにされても何の不思議もない。いや、今回のルールでされることはないだろうが。


 どうする? 血の目潰し……この相手にまともに当たる気がしない。

 なにより、悠長にブラッディレイ辺りの魔法を打っていたらその間にぶすりとやられかねない。魔法には棒立ちになるリスクが有る。

 私の魔法は実戦に即しているので、詠唱などの必要はないが、それでも一瞬くらいは精神の集中が必要になる。

 プールしている血液が無い以上、魔法の使用回数は限られる。


 速度もほぼ同等。だったら――。


 力しかあるまい。

 再び軽く距離を離す。

 

 すぅ、と軽い息を吸い込み、軽く姿勢を低くすると、次の突きへとタイミングを合わせる。 

 狙うは最初の一突き。


「ぜりゃぁぁ!!」


 肺の空気を全て吐き出す程の雄叫びと共に剣を繰り出す。

 槍ごと空まで打ち上げんとばかりに膂力を尽くした一撃を放つ。


「おぉぉぅ!?」


 相手を槍ごと大きく弾き飛ばす。っち、既の所で槍を引いたな。微妙なあたり方だ。

 思わぬ反撃に、体制を崩す男。槍を落とさないのは流石だな。

 まぁ、私の細腕からアレだけの怪力が出るとは思うまいよ。……ふむ、少し欠けた程度か。業物だな。

 柄の部分がもう少し長ければ切り落としてやったんだが。


 とはいえ、今が千載一遇のチャンス! 大急ぎで相手の懐に飛び込むべく駆ける。


 が――。


「甘い!」

「くっ!」


 空気を唸るかのような音と共に相手が右手を振るう。

 大きく払うようにして振るわれた槍に突進を止められた。


 咄嗟に剣の中ほどで防御を行ったのでダメージは大したことはないが、まだ距離を開けられる。

 あれだけの威力の一撃を当てたのに痺れていないとは……。いや、痺れていても構わず振ったのか? 分からない。


 ……なんにせよ、射程内に入れないとやりようがない。

 再び相手との立ち位置が最初の対面と似たような距離になる。


 ……当然、次の展開も射程から相手の有利になるように動くだろう。


 血の刃で射程外から攻撃しようか? 血液の大剣は外から補充できないとさして大きくならない。

 ……私の魔法は事前にプールしておかないと非常に使いにくいのだ。


 ものは試しと、できるだけ気取られないように血刃を放つ。

 

「おっと!」


 回避したか。

 まぁ、元から遠距離攻撃としては然程便利ではない。

 自前の血液しか使えないために威力は上だが大きさはそれほどでもない。


 主要な目的は同時に走りこむ、これに尽きる。

 一時でも足を止める必要のある魔法と違って、魔技にはそうした制限は無い。

 相手の回避先に合わせて愛剣を振るう。


「ここだ!」

「おおぅ! アブねぇ!」


 後方に飛び退き回避される。

 ……結局距離を開けられるとひたすらこっちが不利になるのだよな。

 遮蔽物等の物がないと私としては戦いづらい。

 最悪投げつけるからな、怪力で。……ちらりと愛剣を見つめる。最終手段だな。


 どうするか、いつもどおり刺突を気にせず突っ込むか? 頭以外ならどうとでもなる。頭は……試したことがないので分からないが。


 ただ、こんな試験でそこまでやっていいのだろうか? こちらは死なないからと突っ込んで、少々卑怯な気もするな……。いや、でもこの試験自体相手に有利でもあるし……。


 色々と考えながら、距離を保ちつつ繰り出される相手の刺突を、受け止め、弾き、下がることで射程から逃れる。

 こちらからは血刃を放って応戦する。

 本当は魔法で攻撃したいのだが、このクラスの相手に近接距離で棒立ちというのは結構なリスクが有るし、血液の消費量は対して変わらない。

 そもそも魔法なら当たるかというと微妙なところだ。


 ……相手が魔法を使用してこないのは、使えないのか、それとも使う必要もないのか……。


 下手に避ければそこから薙に変化する事を考えると、安直な回避の選択はない。

 必然前で受ける必要があるわけだが、このまま受け続けても勝ち目は薄い。なんせ、こっちは血液の量というリミットがある。


 このまま薄い勝機を待ち続けるか、強引に突破するか……。


 あぁ、もう――面倒だ。


 目の前がカッと赤くなった……ような気がする。


 突進。

 敵の刺突が私の腹目掛けて突き進む。知るか。前進。

 相手の槍が私の脇腹を裂く。ジクジクと鋭い痛み。少し顔が歪む。

 

 だからどうした。

 直ぐ様手元に戻そうとする相手の槍を掴んで固定し、そのまま突っ込む。


 牽制のつもりの槍があっさり腹を割ってしまった事か、槍を戻さないために手づかみにした私への驚愕か、相手の動きは一瞬止まっていた。


 ――隙ができた。


 自然と右手の切っ先が、相手の首を狙うように動き――。


 愛剣を振り下ろした。


 血しぶきが宙を舞う。

 もっと――。


「そこまでっ!」


 そして、審判役の大声で動きを止めた。


 

 判定は、私の勝利。


 殺しは無しというルール違反をしようとしたことと、内容は私が押していたことから引き分けになりそうだったが、相手が自分の敗北だと宣言したのでこちらの勝ちになった。


 何でも、私の腹部に大きく槍が刺ささった時点で試合を止めようと思ったらしいが、その後の私の行動が一切怯まないので止めるべきか迷った。

 その後私の行動が明らかに相手の殺害目的だったので急いで停止したらしい。


 うん、我ながら馬鹿だった。

 ……ただ、別に殺そうとしたわけではないんだ。

 殺気が凄くて勘違いしたらしいけど、直前で手元を修正して胴体に浅く切る程度だったし。いや、相手が頑張って回避したのもあるんだけどね。

 二回目も別に、止めを刺そうとかではなくて、首筋に当てて寸止めしようとしただけで……。


 結果私は、命を粗末にする傾向があるとして軽い注意を受けた。


 ……どっちのだろうか?

 まぁ、実績と実力は十分だったのでランクが一つ上がることになった。

 別にそれはいい。元からそのくらいの実力ではあったはずだ。





 魚が跳ね、水に波紋が浮かぶのを見つめながら、橋の上で思考を続ける。


 色々と反省点があった。


 最大の反省点は、私には、まともな手段での戦闘の経験が少ない、ということだろう。

 だから追いつめられると、狂乱していなくても、唯一まともな攻撃手段であるいつもの……狂戦士とあだなされる様な戦い方に逃げてしまう。

 実績があるのがその戦い方だけだからだ。


 引き出しが少ない。それが私の最大の弱点。

 今までは魔法で補ってきたが、元よりそこまで便利な魔法ではない。


 頑丈さを頼みに私と似たような戦闘をする戦士もいると聞くが、今日あっさり治った私の姿を見ていたギルド所属のヒーラー曰く、やはり私の再生力は圧巻の一言らしい。

 これだけは誇れるものだろう。……いつ手に入れたのかも分からない力の土台に立っているだけだが。


 そういえばアルバに急遽移籍……の様なものをすることになった為に私のデータが足りなくて困っていたらしい。

 なんでも、普通の冒険者なら何も無しでも問題ないが、私の様に特異な戦闘をする場合は事前に言っておいたほうがいいとか。


 ギルドはおおまかな冒険者のデータを把握しているが、所属していない冒険者に関して最新の詳細なデータを持っているわけではないし、データの更新もそれなりに時間が掛かる。ただし犯罪者のデータは優先して通知される。


 私の場合回復力や頑丈さで押していくというデータが有っても、それがアンデッド染みた回復力を持っているとは判断されず、腹に槍が刺さった時点で止めるべきか審判が迷ったわけだな。



 それはともかく。

 技術が足りないのも問題だろうか。

 本来一流の剣士が剣を振るう時、その一振りには斬るという意思が篭っている。

 それは技術的な進歩でもあり、一振り一振りの積み重ねでもあり、命を奪ってきた証であったりする。


 だが、私は最初の一撃から逃げ出し、その後の成長は狂乱に頼ることで切り捨ててしまった。

 狂乱した思考で斬りかかるのであれば、それは楽だろう。


 だがそれは一振り一振りを大切にしていないとも言える。

 いまいち積み上がらないのだ、切ったという経験が。

 まぁ、二、三流と言われるほど低くは無いと思うが、今日の様な一流や超一流が相手になるとそれがはっきりする。

 技量で一枚劣るのだ、と。


 武器を選ばないと言えば聞こえがいいが、わざわざ選ぶほどの技量が無いという意味でもある。

 まぁ、別に剣士になりたいわけではないし……と、また言い訳に走ってしまった。

 

「要するに、一流半から二流、といったところ、か」


 まぁ、剣を握ったこともない男が六年で達成したにしてはなかなかではないだろうか?

 そういえば、今回人に対して躊躇いなく剣を振るえていた。

 ……が、二撃目の実質的な止めを刺せた時、自分でも意識しない程度には剣先が鈍っていた。

 それが結果として審判に止められる程度の時間となったわけだが。


 人を殺したことは何度かある。野盗共などが相手だが。

 ……その時は、フレンジをかけていたので斬るときは一切躊躇わなかった。

 ……だが、人を殺した経験としては、あまりにも薄いと言わざるをえない。罪悪感すら覚えない人殺しだなんて……。私は一体どこのシリアルキラーなのか。現代日本人としてはあまりにずれていると言わざるをえない。


「はぁ」


 無意識にため息を吐いていた。

 思えば私はフレンジに頼りすぎていた。臆病で剣も振れなかった私、そんな私をここまで導いてくれたのは間違いなくこの魔法の力が大きい。

 だが、あれから五年。


 ……私は、フレンジに頼らずに成長するべき時に来ているのかもしれない。


 ……うん、まぁ、自分に危険がない程度に? 

 ほら、自分の身が危なくなったら本末転倒だし? 


 できるだけ頑張るから、それじゃダメ?

 ……ね?


 しかし、今日戦った男、かなり強かったなぁ。

 これでも前のランクより一つか二つは上のランクの強さはある自信はあるんだがなぁ。技量では完全に負けていたぞ。


まぁ悪癖を直そう! で直るなら誰も苦労しないという回です。

二度目の修正。うーん、いまいちうまく書けない。あまりしすぎても何なのでもう少し考えようかなぁ。とは言え最初よりはよくなったはず。

まぁここで勝っても負けてもそこまで展開に変化はないです。

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