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狂戦士さんのお仕事

 迷宮での怪物退治後、私は瘴石を集めて町に帰還した。ここの迷宮は敵の数が多いので、帰ろうと思っても中々進めずに時間がかかることがあるので余裕を持って早めに帰るのが吉だ。


 怪物、先ほどまで私が敵対していたような連中を倒すと、その身を変えるその石の事を瘴石という。色々と使い道があって、主に魔法の術式などを継続的に持続させるのに使われる。

 最も多い使いみちは、都市の周囲を包むような結界の燃料代わりになることだ。基本的に需要は尽きない。むしろ足りなくなると都市や国単位の存亡の危機となる。


 この結界は低位の怪物の侵入を阻害する。一定以上の強さにはまるで効果がないが、同時に結界内部及び周囲に怪物が生まれないようにするという重要な力がある。

 ただ、村規模だと大抵かかっていないので自警団などの自衛戦力が必須となるし、いても滅ぶ村も珍しくはない。一応ある程度はその土地によって怪物の生まれる法則性があるので、基本的には弱い怪物しか生まれない場所やそもそも怪物の発生が少ない土地を選んで村を立てる事が多い。


 さて、町といっても大した大きさではない。はっきりいってこの辺りは辺境……もしくは田舎といっていい。結界が張ってあるので便宜上町と認められている程度の大きさだ。王都付近にある町に比べれば、巨大な村くらいの感覚でいい。結界があるということは冒険者ギルドがあるということでもある。


 結界がない場所にもあるところにはあるが、危険が大きいので最悪潰れても構わないくらいの規模だ。地方にいくつかは周りの避難地として安全な場所を用意する必要があるからな。


 冒険者ギルドは町に帰還した冒険者が大抵汚れていたり、傷を負っていたりするので、民衆を不安にさせないために街の入口近くに作られる傾向にある。外に出るのもそのほうが便利だし、外敵への対応も早くなる。

 この町でもその例に漏れずに、そう遠くない位置にある。そんな冒険者ギルドの前まで来た私は、扉を軽く開くと中へと足を進めた。


「……おい、見ろよ」

「ひっ」

「お、色っぽいじゃねーか」

「馬鹿、あいつ男だぞ」

「マジで?」

「つーか殺されるぞ、知らねーのか、例の……」

「え、それって」

「あぁ、あの……」

「レッドミキサー」

「ベイクの奴が今日、肉片の中血だらけで笑ってたあいつを見たってよ」

「人を切るのが好きなんだろうな、だからアンデッドや亜人モドキの巣窟ばっかり好んで……」

「うわぁ、痛くないのかな……」


 ……なんかひそひそ声が聞こえる。

 声が小さいのでイマイチ何を言っているのか聞き取れないが、総じて恐れられているのは分かる。

 私の後に迷宮に入るとトラウマになる、なんて噂があるらしいからな。


 まぁ、用があるのは彼等ではなくギルドの職員の方だ。私が入って来てから緊張した面持ちの受付の前まで歩いていく。


「瘴石の上納をお願いしたいのだが」


 そういうと私は瘴石の入った袋を開いて見せる。瘴石は冒険者のランクに応じて一年間に一定量ギルドに納める必要がある。そしてその瘴石を各国にギルドから納めることでギルドが様々な国で権力を保っているというわけだな。


「は、はい、いつもご苦労様です」


 引きつった笑顔で受付の女性が対応する。

 あぁ、血まみれの姿が嫌なのだろうか。

 そりゃあ私だってこれがレストランとかだったらしっかり身体を洗ってからできるだけ清潔にして入るが、ギルドの場合は片腕の無い怪我人が運ばれてくるくらいはよくあることだ。

 そのために治療師、ヒーラーという怪我人の治療を担当する魔法使いが常備されているわけだしな。

 ギルド所属で危険がなく、結構待遇がいいと聞く。

 最近変わったばかりの新人なので仕方ないといえば仕方ないが、そろそろ慣れてもらいたいものだ。


 血にまみれた姿なのは申し訳ないのだが、まぁ私ほどではないにしろ血まみれでギルドに来る人もそれなりにいるはずだ。私の場合は使える魔法の関係からどうしてもいつも基本血塗れなのだ。


 あ、……そういえば、まだ傷を治していなかったな。

 痛覚のうち痛みを感じる機能は殆ど麻痺させている為、忘れがちになる。

 腕に穴が開いているのに欠片も気にしていなかったら怖いよな。

 治すか。

 私は傷口に魔力を集中すると、すでに使い込んだ魔法を発動する。


「ひぃぃぃぃ!?」


 ……あ、目の前で傷口がぐじゅぐじゅと動いてお互いに覆いかぶさるように治っていく光景は流石に不気味だったか。


 普通はこんなふうに治らないもんな。

 他の属性の治癒魔法の場合は過去の経験からか目に優しい緑の光が覆ってくれたりとグロく無いし。

 ただ、私の魔法は適正属性の血属性の魔法の応用なので、何故か異様にグロい。

 再生速度は似たようなもの……否、むしろ上なんだが。再生中に血液中の細菌すら外に打ち捨ててくれる優れものだぞ。


「うぷ……」


 あ、イスから立ち上がると、慌ただしく裏口の方に走っていった。申しわけない。何かえずくような声が聞こえるが、気にしないほうが彼女の為だろう。


 ……しばらく静かに待っていると彼女が帰ってきた。


「た、大変失礼しました。では、数及び質の確認を行います」

「気にしなくていい」


 ……少々恨めしそうに見てくるのは仕方ないだろう。そういえば、付き合いが短いから彼女の名前を知らないな。


「……はい、確認終了しました。流石ですね。これで今年の必要分は納め終わりました」


 まぁ、正直今の私のランクは実力に対して不足だからな。ただ、地方のギルド、特に田舎だと一定以上のランク昇格の権利がないのでこれ以上上がるのにかなり面倒な手続きがいる。それが嫌だったのでランク昇格を遅らせていた。

 何よりこの辺りだとランクを上げても入れる迷宮が無い。威張るくらいにしか使えないので別に必要としていない。……これ以上怖がられても仕方ないし。


「……では、これで」

「あ、そうだった。実はギルドから指名依頼があるんですよ」


 そう受付嬢が言う。

私はこの町ではそれなりに有名なので稀に指名で依頼が来る。

 ……冒険者の数が少ない地方で、強さの割には少ないらしいが、変な噂とか立っているからなぁ。


 ふむ、上納も終わったことを考えると次の年までは気楽だし、調度良かったな。私はこういうのはできるだけ早く終わらせておく質なので、残っているとどうしても気になってしまうのだ。


 ずぼらな奴は年末近くになって納品分が終わっていなくて大急ぎで迷宮に駆け込むのも多いとか。

 それで焦って死ぬケースも結構多いと聞くから、早めに終わらせたほうがいい。

 そのまま遅れると怪我などで特別な事情がなければ基本的に降格か、常習犯なら任務を受けられなかったり、最悪登録の抹消になる。


「実はこの辺りをまとめているギルドのある都市の、アルバに持って行って欲しい届け物があるらしいんです。何分距離が遠く、大事なものなので確実にお仕事をしてくれる信頼のおける方がいいんですが、いつも届けてもらっているパーティーの方々がちょうど出払っているらしくて」


 アルバ……確か、周辺に大量の迷宮を抱える多くの冒険者が集まる都市だったか。下手すれば国に匹敵するほど力のある都市、この町とは大違いだ。ちなみに、この町の名前はイニテウムという。


 迷宮は意外に密集している事が多い。都市の迷宮保有数はそのまま都市の力に直結する。この都市が特別な存在となるのは、迷宮が都市にとって重要な資産であるからに他ならない。勿論、主な産出品は冒険者である。


 別に怪物を倒して成長するだけなら、迷宮である必要はない。ただし、その成長は緩やかで、それでいてリスクの高いものとなる。というのも、自然発生する怪物はこちらのレベルに合わせて出現なんてしてくれないし、一度でれば続けざまに出てくる、なんてこともない。ある程度傾向こそあるが。


 それが迷宮では迷宮の特色や階層毎に種族や強さが分かれ、一定の時間でどんどん生まれてくるのだ。これではあるかないかで大きな差がでるに決まっている。

 更には迷宮によっては神話の時代の貴重な品が出土することもある。迷宮制圧者と呼ばれる強者たちも生まれる。


 古来より巨大な力を持つ国は大抵多くの迷宮を保有していた国だった。それは現在も変わらない。

 


「分かった。後で宿の方に届けておいてくれ。では、明日出かける準備もあるので、今日は帰らせてもらう」

「はい、お疲れ様です。そうだ、アルバならランクの昇格申請も手軽にできるので、ついでに受けてきたらどうでしょう?」

「まぁ、暇だったらな。考えておく」


 そう言って後ろに振り返ると、私はできるだけ自然な態度でギルドを後にした。


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