狂戦士さんとハートアタック
私はアルジナを後ろに庇う為、威圧するように歩きを進めると、衝撃から復帰してきたオークと対峙する。
今回の武器は剣ではない。
が、これも考えあってのことだ。
鉄球はトゲが生えているがどうやらフレイルに似た形状をしているらしく、鎖で繋がった持ち手部分が軽くへこんでいる。
オーク用なのか、手のへこみのサイズが大きすぎて私には合わない。
多少ずれるが無理矢理握りこみ、くんっと鎖を引き、リーチを確かめる。
ずっしりと手に返ってくるその重量感ある手応えに、思わずにっこり。こういうの、結構好きだ。
ふふ、中々使いやすいな。
振り回すには相当な力が要りそうではあるが、そこさえクリアすれば後は力で押して行ける武器だ。
今から変える気はないが、案外剣よりもこっちのほうが向いているかもしれない。
「さて、アルジナに随分と好き放題してくれたようだな」
実際は最後しか見ていないので詳しいことは分からないが、殺される一歩前だったのは分かる。
では、私の"お返し"に、アルジナの分も含めさせてもらうとしよう。
相手の力は以前戦った熊に比べると少し弱く、足もかなり遅いようだな。
要するに、強敵ではあるが勝てない相手とは言えない。
なにより、すでにこいつはメインの武装を私に奪われ、防具に大きな損傷を受けている。
要するに……負ける理由がないぞ、好き勝手やってくれたな、豚め。
フレンジをかけていなかったのでめちゃくちゃ痛かった、俯いて堪えている時にクランが来なくてよかった。
この怒りはしばらくおさまる事を知らない。
「ふっ!」
一気に接敵する私。
その私に対して、オークは右手の剣を突き刺そうと突き出してくる。
「握りが甘いぞ!」
鉄球がメイン武装だからか、こいつの剣からはいまいち怪力ほどの怖さを感じない。
どうにも腰が入っていないのだ。
私は走り寄った勢いごと、右足に体重をかけ、それを軸に振りかぶった鉄球を相手の剣に向かって叩きつけるように激しく打ちつけた。
金属がへし折れる硬質だが、どこか軽い音が耳に届く。
そのまま剣を持っていた相手の右腕を地面に叩きつけるようにメキメキと押し込み、二つ折にする。
これで右腕は使えないな。
しかし面白い武器だ。この前の熊もこれなら……いや無理だな、小回りが効かなすぎる。
あいつは私より早かったからな。やはり速さは戦いにおいて重要な要素だな。
最大の攻撃手段を失ったオークだが、私は敵を倒すまで攻撃の手を緩めたりしない。
今度は打ち付けやすい高さにある奴の膨れた腹に狙いを定める。
反応速度は高いのか、即座に対応して前面に盾を構えてくる。
だが関係ない。
私は身体を捻りながら振るった鉄球を思いっきり叩きつける。
あっさりと、盾が轟音と共に欠片を撒き散らし、原型も残さず砕け散る。
砕けた木片が相手の身体に突き刺さる。
アルジナとの戦闘で何があったかは知らんが、盾が罅だらけだ。
剣よりもこいつのほうが壊しやすそうだったから拾ってきた。
お陰でやすやすと砕けた、アルジナに感謝しないとな。
そして。
「隙だらけだぞ」
月日は違うが、三倍返しと行こうか。
まず一撃。
身を翻し、鉄球を腹部に思い切り叩きつける。
猛烈な圧力がオークの腹部を襲う。
前面の鎧が大きく砕け、側面にも罅が入る。
棘は肉を裂き、砕けた骨が強打された腹部の内側から露出していた。
「グォォォォォ」
大きく吐血と共にうめき声を上げ、思わず片手剣を落とすオークウォリアー。
どうやらプレゼントはしっかりと受け取ってくれているようだな。
だが、まだ続くぞ。
二撃。
返ってきた反動に逆らわず、一回転して今度は横から脇腹に力の限りフルスイングをする。
臓器を守る鎧を贅肉を筋肉を肋骨を砕き削り抉り圧し折り轢き潰す。
道中の内蔵をかき回し、内部を盛大にミキサーする。
「グゴォォオォォオォォォ!」
大量の鮮血が飛び散り、先ほどよりも大きな絶叫が辺りに響き渡る。
立ち上がる気力も無くなったのか、あるいは物理的に立てなくなったのか、大きな地響きと共に地面に倒れ伏した。
さぁ、デザートといこうか。
最期に、惨劇。
私はほとんど抵抗のできなくなったオークに飛び移り馬乗りになると共に、完全に無防備となった臓腑……心臓に向かって、鉄球を向けると、勢いと体重を込めて押し潰す。
ぐちゅり、という粘性のある音とともに、相手の胸が膨れ上がる。
オークは大量の血を吐き出しつつ、微かにピクリと反応すると、数度もがき、そのまま目の内の光を失った。
「ひぇぇ……グロイ……」
青い顔でクランが呟く。
クルスの戦い方はクランには刺激が強すぎた。
日頃治療に関わって傷などを見慣れているクランでこれなのだから、アルジナはもっとひどいのではないだろうか。
「おっと、怪我してないか確認しに行かないと」
幸い敵はクルスにほぼ倒されている。
今なら問題なくアルジナの所までたどり着けるだろう。
急いで彼女の所まで駆け寄る。
「おーい、アルジナ。大丈夫? 治療いる?」
「う、うぅぅ……」
アルジナに近づくと、横座りで顔はクルスたちに向けていたが、つらそうな声を漏らしている。
どこか怪我をしたのか。
それとも、やっぱりクルスの戦い方が刺激が強すぎたのだろうか。
吐きそうならそのまま出したほうがいいが……女の子として嫌なのも分かるので、精神を安定させる魔法を使ってあげようか。
「大丈夫……? アルジナ。」
近くにしゃがみ込み、目線を合わせて彼女の様子を伺う。
「か、か、かっ……」
「だ、大丈夫? 喉に何か詰まった?」
喉に何かつまりでもしたのだろうか。もしくは、先ほど倒れた時頭や喉を傷つけたのかもしれない。
これは早急に治療が必要か、とクランが思ったその時。
「か、かっこいい……」
「……え、アルジナ、どうしちゃったの……?」
何故か目を輝かせている親友の姿に引きつった顔で困惑し、やはり精神安定の魔法を使うべきか悩むクランなのであった。
折角外見女騎士なのでオークさんに馬乗りになってハートブレイク(物理)物なプレゼントを送るクルスさんの粋な計らい。くっころって奴だな。
アルジナさんはあれだよ、一時期危なそうな男に惚れちゃう娘とかいるでしょ?多分きっとメイビー。
まぁ女の子の方が血とか強いって言いますからね。




