狂戦士さんと別れ
さて、あれから二日、無事護衛を補充し、町への連絡も済ませた商隊は、再びの旅路についた。
追加の護衛の二人の名前はカルディアという盾をメイン武装とした女性と、クワトロという弓使いの男性である。
それなりに珍しいはずの弓使いというと誰かを思い出して大丈夫か少し不安になるが、そもそも私はすぐ降りるのでそこまで二人と関わるわけではない。
後のことはセルフィ君達に任せよう。
馬も十分休んだので初日は結構早いペースで進める。
とはいえ、今更村に寄る必要もないだろう。
本来はここで軽く補給するつもりだったが、予定が変わって町であらかたの用は済ませたし、まだ日は高い位置にある。
これはそのまま抜けて、一気にアルバ近くまで行ってしまおう。
そのことを告げると、もう少し先でおろしてくれることになった。
さぁ、後は出るだけ、という間際に、ギルドから出てきたトラスト氏が大急ぎでこちらに駆け寄ってきて、申し訳無さそうに告げた。
「馬車が出せない?」
「えぇ、この先で何かトラブルがあったらしくて、ギルドの命令で封鎖されているのです」
どうやら近隣で立て続けに旅人の集団が襲われているらしい。
魔物か人間のしわざかは分からないが、こうなると馬車を出す訳にはいかない。
当然、他の馬車もアルバ方面へは通行止めだ。
個人でいくならばその人の責任であろうが、商隊である以上その責任を取る必要もある。
……届け物である以上、届ける期限というものがある。
ここであまり長く待っていると少し際どい。
解決までかかる時間が分からない以上、徒歩でいくしかないか。
幸いそれほどの距離ではない、私の足でも四日はかかるが。
荷物は、ありがたいことに壊れ物ではないらしい。
というか、おそらく手紙か何かだと思う。勿論中身は見てはいないが。
熊との戦闘時には馬車に乗せて置いてもらっていたが、徒歩で行くしか無いなら紛失に気をつけなければな。
「分かりました。申し訳ないですが、私はここから徒歩でアルバまで向かいます」
「こちらこそ申し訳ありません……私たちはこの町で待ち、警戒が解けたら王都に向かいます。また、ご縁がありましたら、よろしくお願い致します」
互いに深々と頭を下げつつ、別れを済ます。
魔物の襲撃から商隊を守ってくれたことについて改めて感謝を言われた。笑いながら、全滅も覚悟していた、なんて言われた。
商人というのは逞しいな。
少々名残惜しいが、元々別の予定だったのだ、私も仕事しないといけないしな。
手をふるセルフィ君たちと別れる。
「ありがとう、皆のお陰で助かったよ」
「俺こそ助かったぜ。いやぁ、役に立たなくてすまない。もっと鍛えねぇとなぁ……」
ムーアがそんなことを言いながら腕をぐるぐると回して具合を確かめる。
熊の一撃をガードした時、折れてはいないが捻ったらしい。
リズリットさんの回復魔法もあり、もう治っているはずだが、やはり戦士としては調子が気になるのだろう。
「……次に会うときは、負けないからね」
……リズリットさん、何が?
「ボク……ボクは……」
おや、セルフィ君の顔が暗い。どうしたのだろう。
「だめなんです、ボクは……こんな……! 女の子に影に隠れて、何も、何もできなくって!」
自分が情けないです、と嗚咽ともに目に涙を溜めながら口にする。
女の子の影……あぁ、意識を失う前に見た時、リズリットさんが前に立ってかばうようにしていたな。……あれ、つまり怖がっている相手は私か?
どうしよう、やはりトラウマを作ってしまったらしい。なんとかしなくては。
私はぽたぽたと水滴を零す彼に近づくと、ポンポンと彼の頭を軽く撫でるように叩く。
そのまま、さらさらとしてを柔らかな髪の感触を感じつつ、そっと横顔に触れ、怖がらせないようにゆっくりと目を見つつ、顔を近づける。
うん、やっぱり触っていて気持ちいい。
「大丈夫、私は君に勇気を貰ったから、あんな恐ろしい魔物に立ち向かうことができたんだ。君たちを守りたい、そう、心の底から思ったからね」
そう、だから怖がらなくていいのだ。
私の攻撃相手は怪物だけで、人を襲ったりしない。私は君を害したりしないよー、と泣いている子供をあやすようにそっと胸に抱くようにして、背中を優しく擦る。
「ひっく……ぐすっ……」
「よしよし、大丈夫だ、私は君に命を助けられた借りを返しただけだ。ありがとう、セルフィ。君のおかげだよ」
「ひっく、うっ、ボク、ボク、絶対に強くなります。待っててくださいね、クルスさん」
涙を拭い、顔を上げた少年の目は涙に濡れつつも、私が見た中で最も強い意思を感じさせる瞳だった。
……あれー? これはいつか復讐されちゃう流れかな……? ははは、どうしてこうなった。
その後別れ際にリズリットさんが、「形や質感では完敗だけど、大きさではそこまで負けたわけではないからっ! 次は勝つから! まだ育ってるから!」とセルフィ君を後ろから抱きしめながらいっていた。
彼女の話は最後まで良く分からなかった。
魔法使いだし、魔法の話だろうか? 魔法には威力と大きさを信望する派閥があると聞くが、彼女もその類なのか? 支援型のような気がしたが。
最近はどうにも話が合わないことが多い。寝ている間に、何か粗相でもしてしまったのだろうか、少し不安だな。
まさかあの女神、無理と言っていたがブラフで、寝ている間に私の身体を使ってやしないだろうな。
そんなことを思いながら、私はアルバへの道筋を歩いていた。
三日前のリズリット「やだ、なにこの肌触り……悔しいけど、至福……」モミモミ
自分で書いててセルフィ君、今度あった時トラウマにならないといいなぁ、と思いました。別の意味で。世界は勇者に厳しい。
あ、安心してください、そろそろ女の子と会います。




