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8話 プリンセス編 其の一

 ファル 56レベル 賢者 魔力回復強化、消費アイテム探し、炎属性強化、毒無効、睡眠無効、魔力吸収、ホーミング無効、透明感知、対防御

永続3 消費6 武器2

貫きの指輪、光のネックレス、羽の石像

魔力回復薬、ビリビリチョコ、宝箱の妖精、腹もちお餅

魔法剣バラッド、サンライトリング



 ラテ 58レベル 剣豪 再生強化、武器探し、気配察知、攻撃力アップ、素早さアップ、魔力増加、弱体化無効、属性魔法軽減

永続3 消費3 武器8

女傑の髪飾り、気高き戦士の証、ベルセルクネイル

処女の紅玉(2)、魔力回復薬、状態異常回復薬

聖剣ラプソディ、疾風叢雲、暴れ血みどろ、結晶の盾、ブラックローズ



 ピット 55レベル 名脇役 回復力アップ、自動結界、補助聖域、毒無効、睡眠無効、弱体化無効、仲間強化、強運、エンドレスヒール

永続3 消費4 武器3

支援のお守り、子ブタの貯金箱、不知火の仮面

回復薬、修復の巻物、煙玉

ヒールグローブ、ワイルドブーツ、一撃の斧



 簡単に、俺は炎や風の属性魔法型、ラテはスキルやアイテムで火力を上げた剣士型、ピットは攻撃も参加できる後方支援型。今はスナイパーのような遠距離から敵を仕留める役割の仲間がいないが、のらりくらりと荒ぶる世を渡っている。


 持っているだけで効果がある永続アイテム、使うと効果が出てなくなる消費アイテム、それと武器が持てる数は称号によって決まる。ラテは剣豪だから無駄に武器が持てる。

 必須とも言える回復アイテム系は尽きたら早急に入手したい。散り散りになってピットの治癒魔法をかけてもらえない時、連戦で消耗が激しい時、どんな場面でも重宝する。









「ねえ、そろそろ走らない?」


「そろそろかー。同じ景色ばかりで退屈だし、地図を見る限りまだまだ先は長い」


「ここの一本道は駄目な意味で有名ですよ」


 歩き始めてから2時間が経つ。荒れた大地は凹凸が激しく足の裏が痛くなる。雲ひとつない晴天で、温かく過ごしやすい。これといった目的地がなく、ただ適当に次の町を目指していた。まあでも、回復薬がないから早めに確保しとかねえとな。


 俺たちは馬などの乗り物に乗らず旅をしている。地に足つけながら旅をするのに慣れ過ぎてもはや乗り物が割り込む余地はない。俺たちの仲間になる条件は徒歩で旅ができる奴だ。ラテはまあいいとして、ピットはその条件を呑んでここにいる。


「ピットは大丈夫か」


「いっそ競歩にしませんか。500m先に人もいることですし」


「怪しまれるだろ。競歩って自体知らない可能性が高い」


「双眼鏡貸してください。可愛い女性がいないかチェックしたいです」


 相変わらずだな。走るのは人を通り過ぎてからにしよう。俺が双眼鏡を渡すと、ピットは変態の所業のようにまじまじと双眼鏡を覗く。

 ピットは黒のローブを頭まで包み、顔を不気味な仮面で隠している。背は男ながらラテより低い。中性的な声でこの姿だと、男なのか女なのか分からないが、19歳の健康男児だ。


 いつまで見てんだよ。俺は双眼鏡をピットから奪い取って背中にしょっていたバッグに押し込む。

 ピットは親指を立てている。


「ピッチピチの美女ですよ! スカート履いてますよ! 上手い具合に風起こして下さい。報酬は弾みます」


「できるか」


「……チッ」


「おい今舌打ちしたろ」


「してません。キスの練習をしてただけです」


「そんな不愉快なキスがあってたまるか」


「逆に女の人にお金を上げればたくしあげてくれるかもしれません」


「ピッチピチというよりビッチじゃん」


 逆でもない。

 身なりを見ると冒険者、ギルドの連中の線が濃い。全体的に若く、疲れた顔をしている。女性陣は2人いて、スカートを履いている方は美しいか可愛いかで言ったら美しい女だった。俺は先頭の男と会話をしてギルドの依頼でダンジョンに向かっていると聞いた。


「こっから一番近い町までどれぐらいかかるかな」


 先頭の男は苦笑する。


「歩いてだと3日はかかるな」


「3日!? それってどういう計算?」


「んー、アバウト1時間5km、一日14時間歩くとして70km、3日で210km」


「走ったら1日で着けそうね」


 ラテは自信満々に言うが、1日200km以上も走りたくない。


「あの、君たちのなかに水を使える人っていない?」


「はい俺」


 俺が挙手したら、後ろの奴らは花が咲いたように喜んでいる。特に女性陣の喜びは痛々しいほどだ。

 水の魔法は有害であるため喉は潤せない。ただ、体の汚れを落とす分には特に問題ない。俺は対価を求めずにこいつらを洗ってやることにした。


 ピットは仮面を取りにやつきを我慢できずにいた。

 野郎どもが好意的な視線をピットに送る。ラテの釘づけから解き放つぐらいピットは綺麗で可愛い。うわ、やっぱ俺が言うと気持ち悪い。男でいて女の顔。体もごつくなく喉仏も控えめだ。普段は顔を隠し、美女と接する時なんかには晒す。


「対価は裸体の観賞で決まりです」


「お前結婚する気あんのか」


「あの人結婚指輪してますよ」


「目ざとい……。あー、女性の方々、土魔法で隔てることもできっけど」


「いえそこまでは……ねぇ?」


 タダで水を浴びれる分際で我がままはできないってか。肩を叩いてきたピットはまた親指を立てていた。俺のせいで……。

 一人ずつ服を脱がせ、炎で温度調整をした水をぶっかけていく。水圧はこれぐらいでいいかと聞き、ちょっと強すぎると言われた。女性陣の番はまだかまだかとそわそわしているピットに辟易し、その女性陣はラテと話している。


「蟻の洞窟の敵は大したことないけど、数が多いわ。数の暴力で足元を掬われないように気を付けて。それと群れを率いるボスを倒せば連携が乱れ逃げ出す魔物も出てくるから狙ってみて。私が潜った時は小柄の魔導士系のゴブリンが……」


 ラテはダンジョンや戦闘が関わる話が好きでマシンガントークになることもしばしば。女性陣が引かない程度にしろよ……って時すでに遅し、思う存分引いていた。

 女性陣の裸体も十分に洗ってやった。ピットの木属性の魔法で檜風呂を作り、そこに水を入れて炎で温めて簡易的な風呂を用意してやれたが、流石にいらん世話だろう。


 全員済まし、風と炎を混ぜた熱風で体を乾かした。


「本当に何もいらないのか?」


「無料サービスの期間中だからな」


 ピットが噴き出しやがった。俺がきつく睨んだら仮面を付けてそっぽを向いた。

 赤の他人ご一行と別れ、俺は氷の椅子に座り足を組んだ。


「なんとか200kmマラソンを避けるべく、俺は頭をフル回転したぜ」


「可愛かったなあの人……今日の夜ははかどりそうだ」


「トラップが少ない代わりに宝箱に旨みがなくてミミックも出てくるわ。いや、ミミックがいいアイテムを落とすからあえて積極的に宝箱を開けてみても……」


「戻ってこいお前ら!!」


 眉間をトントンと叩き気を取り直す。


「プリンセスランドに行こうと思う」


「どこそこ」


「ピットは知らないだろうが、ラテは忘れたのか。ほら、レベルが低くて行けなかった」


「候補がありすぎない?」


「調べるわ」


 携帯電話を開きプリンセスランドと打ち検索する。ふむふむ、ジェノ大陸のバサル国にあるプレイヤーダンジョンね。プレイヤーのためだけの場所が各地に存在する。プレイヤーとプレイヤーの仲間以外、そこに入ることはできない。プリンセスランドの指定レベルは55から60。強すぎたら楽に攻略できるよな、そりゃ。


 メモ帳を見ると、他にも指定レベル50~57の深海の桃源郷、指定レベル61~65のアンティークパーティーなどのプレイヤーダンジョンがある。


「早く行きましょう」


 ピットは行く気満々の様子だ。


「プリンセスですよ。古今東西稀に見るお姫様が僕を待っています。今のうちに告白の言葉を考えておかなくては!」


「…………」


 ラテは思い詰めた顔をしている。


「ラテ?」


「あ……うん、行かない理由はないわ」


 やれやれ。俺はラテの肩に腕を回し、ピットに聞こえないように声を小さくする。


「ピットが女とデキて別れるのがそんな辛いか」


「……ピットまでいなくなったら、また私とファルだけになっちゃう」


「楽しくいこうぜ。別れを惜しむのは仲間なら普通だが、まだ別れもしねえのに意気消沈しちゃあいつが可哀想だ。あいつの夢を邪魔してやるな」


「そうね……そうよね……」


 俺とラテが合流したニーガを出てからすぐに、仲間のピットやグランと再会を果たした。

 散り散りになる前は、俺たちはさっきの赤の他人ご一行と同じ5人で冒険していた。


 煙草が印象的な性格の悪い女、タンネはみんなの犠牲となって死んだ。

 ノリが軽い俺の親友だった男、グランは力の差を悟って生まれ故郷に帰った。


 プレイヤーは一般の奴らよりも成長が早いとされている。グランはプレイヤーじゃない。もちろん、プレイヤー並みに強くなれる天才型だっているが、ほんの一握りだ。天才じゃないグランは俺たちに差をつけられないように必死に頑張っていた、と思う。あいつは裏で努力をする性格故に、俺ですら気付けなかった。


 限界……つまり冒険を一緒にしながら成長速度の差を埋めるのに限界を感じ、俺たちはペースを落とすとしつこく言ったにも関わらず、あいつは仲間から外れた。

 短期間に仲間を2人失ったショックはとてつもなく大きい。ラテの気持ちが分からなくもない。


 子孫を残し人類繁栄に貢献するのがピットの根っこ、愛した女性と結婚を果たし子供を産み平和で安らかな日々を暮らすのが夢。俺たちと旅をしていては平和も安らぎも保障されない。それよりも大体、ピットは初めから頑なな意志で一つの町に留まるつもりでいる。くっきりと輪郭をもった夢を持つ奴を俺は大切にしたい。だから受け入れた。ありのままを受け入れ、いつか去っていく日を温かく見守りたい。


「どうしたんですか! 石像持ってるのはファルですよ」


「はーいよ」


 レベルが上がるほど便利なアイテムが使えるもんだと思っていたが、甚だ青臭い。羽の石像は使用後24時間経たないとまた使えない。石像に小指でも爪の先でも触れている者をワープさせる。一度訪れた場所限定で。狭い場所、閉鎖的な場所以外で。


 瞳を閉じて優しく微笑む天使の像に俺とその仲間が触れる。

 思い起こせ。あの日あの場所のあの風景を……。


 フワッとそよ風が舞い、場面が切り替わるようにワープした。

 目の前にそびえる巨大な城壁。そういえばこんなんだったなー。


 月並みの扉にペタペタ触れる。

 深く考えることでもないが、俺が扉を開けている時に30レベルぐらいの奴が入ったらどうなる? 見えない壁にぶつかんのかな。裏技的に入ることは不可能だろう。この城壁だってただの飾りで、城壁の上は結界が張ってあり空からの侵入ルートはない。


「格好つけて開けてみっか」


「あ、開けちゃいました」


「貴様ァ!!」


「はいはい早く入ってね」


 ラテに背中を押されプリンセスランドに入った。

 花の香りがして気持ちいい。奥の豪華な城の存在感が半端ではなく、最も目指すべき場所のような気がしてきた。町も見える。全体的に高い建物が並んでいて統一感がある。よそ者を歓迎してくれれば助かるんだけど、さてさて。


「なぜだ! なぜ僕は女性察知の魔法を覚えてないんだ!」


「女のためでありお前のためだ」


「マジな解答しないでください!」


「感じちゃうからじゃない?」


 お茶を飲んでいたら盛大に噴くところだった。


「今のボケね」


「油断も隙もないボケはむせるぞ」


 どこでもいい。早いか遅いかだけの違いで、プリンセスランドは隅から隅まで巡るつもりでいる。強いて言えば敵が強くないところか。60レベルまでということは、60レベルの敵が出現しても理不尽ではない。


 歩いて数分、道が3つに分かれていた。ご丁寧に看板が立っていて真っ直ぐ行くと例の城、左に曲がるとハニーハートの町他、右に進むとメロロの寝どこ他らしい。

 右に曲がりそう……。


「右に1票!」


「だよなー」


「メロロちゃんの寝顔を見てあげましょう。よだれ垂らしてたらポイント高いですよ」


「ラテは?」


「ハニーハートの戦場とかメロロのコロシアムとかだったらそそられたのに」


「いいなー2人とも個性があって」


 俺たちは右に曲がり先走るピットを抑えつつメロロの寝どこを目指す。いや、他と書いてあったから別に寝どこを目指しているわけではないか。ラテは走らない? と言ってきたが柔らかく否定した。得体の知れないダンジョンで迂闊に体力を消耗するのは愚かだ。

 そのことは俺以上にラテは分かっていなければならない。大量消費のラテは体力、魔力マックスで100%の強さを発揮する。120%と言ってもいい。


 チューリップが咲き誇る花畑に足が止まる。菜の花も広がっている。蓮華も鮮やかに咲いている。他にも見たことのない花が咲き乱れ、というか広大すぎる。手入れする苦労が想像できない。俺たちは蜜を吸う蝶のように導かれ、途方もない花畑を歩く。


「綺麗なもんだな」


「綺麗ね」


 若干棒読みのラテはしばらくしてから慌てる。


「いやもう女の子にはたまらないわね」


「無理しなくていいよ」


「無理してないわ」


「『博愛』、『愛の告白』の花言葉は?」


「…………」


「お前って頭いいんじゃなかったか」


「頭がいいんじゃなくて、テストで高得点を取れるだけ。全く別問題よ」


「チューリップですね」


 ピットがしゃしゃり出て答えた。


「僕は花言葉に詳しいですよ。例えばそこの魔性花の花言葉は『性欲が強い』」


「嘘つけ」


「嘘じゃないです。他にも『けだもの』とか『本能の赴くままに』とか」


「ラブホテルに飾ってそうだ」


「匂いを嗅いでみてください。男性が吸うと性的に興奮するんです」


 飾るどころか道具じゃねえか。男として興味が沸いてきた。騙されたと思って嗅ごうと思った。

 影――敵の奇襲だ!


 俺が振り向くとすでに首がなくなっていた。鎧の中身は空っぽ。血を流さずに倒れた。

 ラテは愛用の剣・ブラックローズを引き抜いていた。顔は戦闘モードに入り、若干笑みを零していた。ラテは自分の世界に溶け込んだ。


 わらわらと鎧の魔物が敵意を剥き出しにして襲ってくる。

 …………。

 あ、あれ?


 殲滅。

 魔物は全員ラテに斬られ生命活動を停止させていた。

 時間を飛ばされた感覚で、一人ラテは悦に入っていた。


「物足りないわね」


ラテの期待に応えるかのように強敵を匂わせる魔物が歩いてくる。赤を基調とした一風変わった鎧を身に纏い、背は低い。


「面白くなってきたわ」


「私は100レベルだから、面白くないわよ」


 喋って、しかも女の声だった。100レベルの冗談も面白くないと思う。

 鎧の人だか魔物だかは兜を脱ぎ人である事実を叩きつけた。

 まだ嗅いでないが嗅いだつもりで例えるなら魔性花を嗅いだような顔立ちだ。金髪で若くて鎧よりもドレスがとても似合う。


「へえ、あなたお姫様でしょ?」


「あら、女の勘ってやつかしら?」


 女が指をパチンと鳴らすと、左右から2人の黒子が無駄のない動きで女を布で隠し、俺たちは置いてけぼりになる。そして黒子が布を引くととても似合うドレス姿に衣装替えしていた。頭には小さな王冠が乗っかっていた。


「プリンセスランドの女王、プリセイラ。ようこそ我が国へ」

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