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5話 双子 其の五

 ホラー要素1。携帯電話等の機器が使えなくなる。暗い場所で急に懐中電灯が付かなくなるのは定番であり、これから身に起こる恐怖体験のほんの始まりに過ぎない。


 ホラー要素2。背後からの気配、及び消失。後ろを振り向いたらいなくなっている存在。されど纏わりつくように残るプレッシャー。目を閉じたら覚悟せよ、死は眼前に迫っている。


 ホラー要素3。リアルな悪夢。うなされ苦しい夢の中の地獄。夢かと思えば、現実で似たような体験が起こることも。寝ても覚めても恐怖は続く。そう、例え死んだとしても。


 ホラー要素4。夜と白い服の女。大抵ホラーは夜に行われるのは言わずもがな。霊は白い服を着て長い髪の痩身の女性であることが多い。強いイメージは脳にいつまでも残留する。


「ラピスとラズリ。いくら警備が厳重でも透明になれるお前らなら鏡は盗める。鏡はニーガの宝らしい。返してもらうぞ」


「どっちが持ってるかな?」

「ど、どっちも持ってないかもよ」


「割らないようにしねえとな!」


 魔法剣バラッドに炎を付与し、先制攻撃を仕掛ける。笑顔を絶やさない双子同時に斬るつもりだったが、剣に触れる瞬間、双子はパッと消えて空振りに終わった。厄介極まりない透明化の魔法。最初から透明になっていると感づいていたらもっと早く双子の正体を掴んでいただろう。


 ここまで静かだと不気味だ。鳥も虫も活動を停止していそうだ。ラテは? リバインは? ホラー系の作品における単独行動は自殺行為に等しい。

 フゥー、と肺の酸素をゆっくり吐きだす。


 そこだ! サンダーショットを10時の方向に放つ。

 ボケっとしている奴にこの魔法は避けられない。


「あわわ、ありがとラズリ」


 ラズリはラピスを持ちあげてサンダーショットの軌道からずれていた。先手をしくじり出ばなをくじかれた。


「目が動いてた。見えていないふり」

「あらま、エッチー」


 なぜそうなる。透明感知のスキルが役に立ったのは実は初めてだ。43レベルの時に取得したが、出番が回ってくることなく腐らせていた。


「素敵だね旅人さん、寝なかったしさ」

「あ、悪夢を見せたかった」


「あ? いつ睡眠の魔法を……あ、ナイトメアワールド」


「ラテお姉ちゃんは熟睡しているよ。スヤスヤ」

「起きているのは4人だけ」


 夜にするだけじゃなく、睡眠の効果を全体に及ぼすんだった。悪夢という時点で忘れんなって感じだ。睡眠や毒、それに透明も、対策をしていなければ死に直結する。そういうもんはスキルやアイテム等でできるだけ無効にしたい。


「ほらほらー、こっちにおいで」

「こ、こっちにはこないで」


 双子は左右に分かれて走り出した。二兎追う者は何とやらだぜ。

 俺はおいでと言ったラピスに絞って追いかける。ちょこまかと動き家の中に入ったかと思えば、屋根を伝ったり山を登ったり降りたり追いかけづらい。こっちはシルドラ戦で辛酸を舐めてる。ラテが起きたらすでに決着はついていたぐらいがちょうどいい。


 あっかんべーをしてるラピスにお灸を据えるべく、風魔法で風に乗ろうとした。

 不意に足首を掴まれた。転びそうになり踏ん張る。地面から生えた血だらけの腕は、俺を地獄の底に引きずり込みたいのかなかなか力強い。草でも刈るように魔法剣で腕を切断した。


 腕は回り道を余儀なくされるほど生えていた。前後左右、腕がわらわらと鬱陶しい。

 一掃しよう。俺は武器を切り替え、再度炎属性を付与する。両腕を横に伸ばし炎を辺り一面に広げて焼け野原にする。握手会の会場はここじゃない。悪いがお引き取り願おう。


 輪っか状の武器の名はサンライトリング。刃はなく打撃に使用すらできない。フラフープを武器として扱っているようなもんだ。サンライトリングは魔法を付与してまともな武器になる。俺を中心にリングは回転し続け、全方向に魔法を展開する。多くの敵を焼き尽くしたい時はこっちを選ぶ。


 ラピスを見失い自己嫌悪に陥っていると、椅子たちが慰めにきてくれた。

 見渡す限り椅子、椅子、椅子。よくぞこれだけ集めたもんだ。吟味してお気に入りの椅子を見つけてやろうか。

 サンライトリングに氷属性を付与することで、氷の壁を全方位に張れる。椅子は飛んできて氷の壁に激突し使い物にならなくなる。


 ただサンライトリングも凍っているから一歩も動けない。敵の攻撃が止むのを待って反撃するのがベターだ。特注でも職人の椅子でも氷の壁は壊れることはない。

 今のうちに双子のレベルを確かめる。

 そうか、40レベルか。舐められたもんだぜ。


「やっほー。その中にいて冷え症にならない?」


 逃げたくせに自分から姿を現す。幽霊なんかより猫がお似合いだ。


「椅子を投げんな!」


「ん? よく聞こえないよ」


「家からパクってきたんだろ! 椅子が壊れちまったら不便なんだよ! 飯食う時立って食うのだるいだろうが!」


「さっぱり聞こえないから削ってあげなきゃね」


 統率された刃物の群れは少なくとも椅子よりやばそうだ。果物ナイフ、斧、ロングソード、槍。ラテが喜びそうな強い武器はないな。


 凶器が一斉に突撃し氷の壁に阻まれ弾かれる。俺は下手に裏を読んで動かないように気を付ければいい。ラピスが指揮者の真似をすると弾かれた凶器は起き上がり攻撃態勢に入る。懲りずにまた突撃するのか。魔力を無駄に消費するだけだ。すごく動きたくなる……。


「ポルターガイスト、先端恐怖症の舞い!」


 俺は先陣を切るダガーに焦点を絞った。これといって特徴のない安物ダガーだ。10レベル差を埋める力は感じられない。氷の壁に激突して欠損、あるいはポッキリと折れるだろう。


 音がしなかった。壁に弾かれる音が一切聞こえてこない。

 ダガーは氷の壁をすり抜けた。右肩に当たるまで多分0.3秒。

 すり抜ける投擲は最後まですり抜けたら無意味だ。俺に当てるときはすり抜けを解除しなければならない。判定の基準はラピスのみが知っている。


 風で吹き飛ばしちまえば万事解決だけどな。

 風属性+サンライトリング。発生した小竜巻は刃物を巻き上げる。そして竜巻となったサンライトリングを放り投げる。


 ラピスは透明になって竜巻から逃れた。

 透明感知を持っていても透明になった。無敵? いやいや、透明になってさらに無敵とか冗談がきつい。だったらわざわざサンダーショットを避けなくてもよかったはずだ。だが、今の竜巻を浴びても無傷だった。


「透明になった瞬間は無敵なのか!?」


「くすっ、みんなには内緒よ」


「そいつはできないな」


「じゃあ口封じ。次はもっと熾烈だからー」


 俺が見た限り凶器はさっきの約2倍あった。すり抜ける性質を持ち数を増やし、それで風を纏うサンライトリングを攻略できるなんて笑止千万だ。うまく風を利用して凶器をラピスに当てたい。透明になって無敵時間が終わったら覚悟してもらおう。


 ラピスが指揮しているのにも関わらず、凶器は止まったままだ。

 俺は何も……っと、理解するのに時間がかかっちまった。

 できるだけ自然に相手を見下すように笑ってやれ。


「どうした? 待てど暮らせど攻撃が来ないぞ」


「動かない……。私もラズリも……2人同時になんて」


 俺の背後でラズリも凶器を飛ばそうとしていた。双子による同時攻撃は言われてみれば熾烈だろう。俺はこの攻撃を待ってたも言える。


「2人で来るんなら本気を出さないとな。ま、1人ん時は手加減してやるよ」


「嘘」


 ラズリは冷静に嘘を見破ってくる。


「完全に私の存在に気づいてなかった。笑い方も素人っぽい」


「そっか、先にどっちを殺すか決まったな」


 潰しとく順番として、俺より賢いやつはかなり優先度が高い。下手したら回復役よりも優先してしまう。作戦1つで数千人が数万人の軍隊を壊滅させる。ラテは眠っていて加勢は期待できない。俺1人で時間をかけずに効率よくぶっ倒す。


 ラズリの方角を向き、鳥肌が立つほどの殺気に俺は萎縮した。

 前にグルリと回って背後からの奇襲をやり過ごす。忙しなく方向転換すると、そこには華奢な体とはほど遠い厳つい体格の魔物がいた。

 醜く太り毒を色で表現したような肌を持ち、目は包帯で巻かれ見えていない。よだれを垂らし低い声で呻いている。臭いが漂ってこないのは接近を悟られないためか。たいてい、こういうトロルみたいな魔物は臭いがきつい。


「まだペットが残ってたんだな。名前は何だ?」


「名前はまだない。決めてない」


「決めろよ! 可哀想!」


「えー。どうするラズリ」


「え、グロいからグロちゃん」


「ひでえよ! 魔物愛護団体に訴えられるぞ」


「会長は魔王様だね」


 シルドラのことがあり侮れない。底が知れない。戦ってはいけない危機感すら覚える。なぜ勝てるビジョンが浮かんでこないんだ。


「グロちゃんに任せるよ。グロちゃんは鬼。旅人さんは逃げてね」


「鬼ごっこの気分じゃねえな」


 ロックマグナム!

 岩石の弾丸は名もなき魔物の贅肉を貫けなかった。

 威力にこだわったロックマグナムがこのザマだと?


「ホラーを言い当てた旅人さんさー、察しがつかない?」


「シ、シルドラはホラーとは無縁のペット。グロちゃんは違う」


 名もなき魔物はスピードも十分で、攻撃を避けながら双子の台詞を聞いている余裕がない。魔法剣で反撃を試みるがこいつ自体がバリアみたいに全く通らない。回復魔法には回復魔法の、無効化には無効化特有のエフェクトがあり、名もなき魔物は単純な防御力で俺の攻撃を無にしている。


 絶対に勝てないというトリック……。

 無限階段をがむしゃらに登っている感覚だ。

 ホラーゲームを一度もやったことがなくても、謎は解ける。


 鬼ごっこか。逃げてる側が鬼を殴ったらゲームが成り立たない。俺が逃げて名もなき魔物が追いかけて成立する遊び。

 逃走一択、それが真相ならこれも時間稼ぎの手段だ。双子を逃がさず俺は逃げる芸当をこいつ相手にするのはリスクが高い。ふん、ちょっとは冒険すんのも悪くない。


 ラピスは上に、ラズリは下に逃げていき、俺はラズリを追いかける。名もなき魔物の右ストレートを回避し、バランスは崩さない。ラズリは岩陰に隠れたがどうってことはない。少しの距離なら魔力を感じて追うことができる。


 あ、俺は1日以上ラテと会えなかった。それも魔法の1つだとしたら……?

 ラズリの気配が消えた。透明感知にすら引っかからない。


「うぜえ! 早く起きろよラテ!!」


 

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