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2話 双子 其の二

「見晴らしいいねー。男2人ってのがマイナスだな」


 東の山、標高2755mあり世界百山に選ばれている。魔力のない人間なら空気の薄さや気温の低さを気にするはずだが、俺は全く問題ない。ドラゴンはまだ来ていないようだ。

 リバインが言うには東の山の頂上には長の家があったらしい。ドラゴンの襲撃を受け家は一瞬で崩壊したとか。間一髪、長とその妻、娘は無事逃げたと聞きホッとした。現在はやや下の知り合いの家に避難している。そこはもっと下に避難しとけ。


 足場は非常に悪い。吹き飛ばされたら下に真っ逆さま。できれば山を傷つけないように戦いたい。世界百山だからな。俺はそういうのに非常に弱い。デリケートになるぜ。


 ピリピリとした空気が肌に伝わってくる。来るぞ……強大な存在感が迫ってくる。

 銀色の竜。俺は素晴らしきドラゴンの体躯に一目ぼれした。痺れるほどにかっこいい。ドラゴン戦は久しぶりだから改めて実感する。センスある銀の翼に身もだえしそうだ。


 ドラゴンは俺たちの目の前に着地した。俺はいつでも戦闘に入れる構えを取った。


「ほお、今日は見ない顔がいるな。服装から察するに旅人か?」


 喋るのは情報の通り。年老いたじいさんみたいな声をしている。


「守護者よ、吾輩の正体を明かしても支障はないか?」


「馴れ馴れしく話しかけると調子が狂う」


「吾輩はすぐに死ぬ。お主らを乗り越えても間もなくしてより強き者が挑んでくる。そうやって脅威をもたらす魔物は排除される。少しぐらい人間と会話をしたいのだ」

 

 ネガティブなドラゴンはこちらの同情を誘ってくる。


「シルバードラゴン。シルドラさんよ、てめえが勝手に喋ることを予想して大体は教えてもらった。会話のネタを潰して悪いな」


 喋らないドラゴンならばれなかったのかもな。


「平和を乱し、均衡を破り、秘密を暴く、天から舞い降りし魔物――テンペス」


 魔物そのものがどこからともなく現れる人類の敵扱いで、テンペスは魔物の中でも上位に位置する。発見されたテンペスの最高レベルは70。100レベル中の70レベルは守護者の平均レベルを遥かに超え、今の俺では勝てない。俺はキリのいい50レベル。


 シルドラは恐らく70レベルどころか60レベルにも到達していない。感覚でなんとなく分かる。いけるって雰囲気がする。

 逃げたくなるのはシルドラを圧倒した時だ。そん時はマジで覚悟した方がいい。強い魔物は秘めたる力を隠している。ゲームや漫画でおなじみの変身……形態変化の類だ。


 変身して70レベルになって「本番はこれからだ」とか言われませんように!


「乱そう破ろう暴いてみせよう、それが吾輩らテンペスの使命なり」


「させぬ」


 リバインは自分の何倍もある体躯のシルドラに一発を浴びせようとする。その場に留まったままのシルドラの右足に鍛え抜かれた右拳が命中。シルドラは後方に離れるが、リバインは続けざまに攻撃を加える。今度は左拳で叩き込んだ。


 ――俺の能力はコンボ魔法だ。


 連続で攻撃を成功し続けることで攻撃力が増し、コンボ数に応じて使える魔法がある。8コンボさえ繋げれば勝てるとのことだ。何も知らない相手ならともかく、すでにシルドラはリバインの能力を悟っているだろう。対策がされやすい。


「うおおおおおおおおおお!!」


 リバインは跳躍して3コンボ目の攻撃に成功する。ただ殴ったり蹴ったりしてコンボを稼げるのは3コンボまで。次からは魔法によるコンボで繋げていかなければならない。

 リバインの右腕が赤く光る。アッパーの要領でシルドラの顎を狙う。だが、リバインの動きがピタリと止まる。コンボ判定となる時間が過ぎていく。シルドラのしなやかな尻尾をもらったリバインは地面に激突した。


 シルドラの瞳がわずかだが変化した。対象を硬直させやがったか。

 うっすらと結界が張り巡らされリバインの攻撃は軽減された。こいつは防御重視だ。


「おまけに優れた再生能力持ち? 超火力で押してやるよ」


 炎属性強化のスキルを持つ俺の炎に焼かれろ。

 グレネードピラー!!


 炎の弾丸をまともに浴びたシルドラは黒焦げに……

 なることなくピンピンしていた。


「炎は無効でな。お引き取り願おうか」


 ドラゴンは炎が効かないイメージがあったからこれは致し方ない。

 俺が炎だけの男だと思うなよ。


 俺は尖りに尖らせた三角錐の氷を出現させる。

 凍てつく氷に貫き即死しろ。

 ロケットアイス!!


「氷も使えるのか。あー、すまぬがそれも無駄だぞ」


 氷はシルドラの手前で停止しくるりと反転、尖りに尖った部分が俺に向けられた。俺が放った魔法はブーメランのごとく戻ってきた。無効の次は反射って!

 避けられるが避けたら山が削れ取り返しのつかないことになる。俺の判断は迅速だった。速度にこだわった雷の魔法を発動する。


 サンダーショット!!

 一度に2発撃ち、1発は三角錐の氷を砕き、もう1発はシルドラの眼へと走る。

 直撃したように見えたが、奴の眼球は焼けるどころか生き生きとしていた。


「……あー、無駄ですか?」


「無駄だな。吾輩が傷を負っていたら無駄ではなかった。なぜなら雷を吸収する体質だからな」


「いい加減にしろ! 無効、反射、お次は吸収! 血も涙もねえよ!」


「他に魔法は使えないのか」


「風属性も使えっけど……どうせ効かないんだろ」


「風……おお、風の耐性はなかったな」


 子供のように駄々をこねる俺と、弱点を晒すシルドラ。

 蔑んだ目でこっちを見てくるリバインの視線で寿命が縮まりそうだ。


「サンキュー。特大の風魔法で斬り裂いてやるぜ!」


 サイクロンリボルバー!!

 味方すら巻き込みかねない狂戦士に似た風の渦。

 魔力を結構消費した一撃はシルドラを避けるように突き抜けた!


 ってあれぇ!?


「は、話が違うぞ!」


「正直に言おう。嘘を付いた」


「てんめぇええええ!」


 火だけ効かない魔物はいた。雷を無効化する人間はいた。

 これはやりすぎだろ。怒りよりも焦りがぐんぐん伸びてきた。


「打撃は有効だ。剣ももちろん効果的だ」


「得意だったらとっくの昔にやってる」


 属性魔法だけでなく他の打撃とかの魔法も強化すると、こういう無効が多い敵とはやりあえるだろう。バランスの良さは生存率に強く関わってくる。生存率は重要かもしれねえがバランスは素直に頷けない。一点強化した方が火力がありレベルの高い敵にも十分対抗できる。俺は圧倒的にそっち派だ。


 俺が使える最後の属性魔法は土。

 土は岩や泥の魔法に派生する。氷が水や霧の魔法に派生するように。

 今までの魔法より発動時間が極端に遅い。臨機応変型の敵なら色々とされている。余裕バリバリのクソッタレドラゴンは動くそぶりすら見せない。


 ロックマグナム!!

 発動と同時に声がした。土魔法はまずい――。

 まずいのは真実だった。問題はまずいのはシルドラではなく俺ということ。


「土魔法はダブルカウンター、倍返しだ」


 破壊の仮神となった岩石は威力を倍にして帰還してきた。

 悔しいが跳ね返ってくる可能性を考慮していたから回避に専念できた。山を傷つけなかった岩石は生い茂る森に落ちていった。


「…………」


「どうした? お主は何しに来たんだ?」


 煽るねー。


「俺はリバインのサポートをしに来た。な、リバイン」


「ああ」


 煽れよ! 馬鹿にしろよ! 余計傷つくだろ!


「守護者が来るか。こちらも本腰を入れよう」


 リバインがコンボを繋げる時、俺がサポートするのは計画のうちだ。

 シルドラの火の息吹を右に避けたリバインは拳に力を込める。一発、二発、三発と、熟練した格闘家も唸る鮮やかな連続攻撃を決める。


 4コンボ目、反撃の爪の一撃をかすった程度におさめドラゴンの巨体を浮かせる。

 重量を無視して殴った相手を上へ上へと飛ばすハイナックルに、俺は口笛を吹いて称賛する。


 5コンボ目、リバインの表情は険しくなり血管が浮き上がる。筋肉が膨れ上がって上半身の服が破ける寸前だ。よくある強化魔法・パワーアップを発動したのは疑いようがない。コンボ中に強化魔法を発動し繋げるのは一度までなら許されると聞いた。まだコンボは続いている。


6コンボ目、俺は低空浮遊からリバインのわき腹を掴みそのまま急上昇する。飛行とは呼ばず浮遊と呼ばしてもらっている。浮遊のスキルは魔術師なら初めから取得している。

 この場合の魔術師は称号を意味し、称号はプレイヤー特有の用語だ。初めに戦士、魔術師、シーフ、ノーマル、恵まれし弱者から選び、後に強力なスキルを覚える上位の称号に変化する。魔術師以外のルートだと浮遊を覚えるのに手間がかかる。その辺の知識は浅い。


 さっき試しに持った時より重い。パワーアップで25%増しだ。リバインは空を飛ぶ手段がなく、昨日逃げられたのもそのせいだ。空を飛ぶ奴はニーガにいるらしいが、今は運悪く遠出している。会ったら凝った肩を揉んでもらおう。


 シルドラは複数の火炎弾を吹く。


「俺はノーガードだ。任せたぞ」


 リバインの言葉に俺は答える。


「ご安心くださいお客様! 所詮は鉄壁だけが売りのドラゴンですよっと!」


 向かってくる火炎弾を防ぐように正六角形の氷の壁を発現。

 全火炎弾を打ち消しリバインは躊躇なく波動の魔法を打つ。あまりの速度にシルドラは回避が間に合わず胸部に炸裂、血が雨となって東の山に降り注ぐ。


 7コンボ目! 繋ぐ爽快感が間接的に響いて心地よい。

 暴風が吹き荒れ目を開けているのもやっとだ。翼を羽ばたかせるシルドラの風魔法に、こちらも対抗して風魔法を纏う。


 てめえに属性魔法は効かねえだろうが、俺が纏う分には好き放題だ。


「俺は神風となる! いくぜマッチョ!」


 俺の属性魔法は個別に長所がある。

 火と土は攻撃、氷は防御、風と雷はスピード。

 俄然勢いのついた風にも負けずシルドラとの距離を一気に詰める。


「人間砲!!」


 リバインをぶん投げて俺の役目は終わった。

 てか何だ、力が……まさかこれって。


 頑固な親父よりも堅い頭突きが銀色の体を凹ませる。すでに波動で炸裂した部位の治癒が始まっている。次で蹴りをつけたい。


 8コンボ目……メテオナックル。

 双子の山よりも高く飛翔するドラゴンよりも高くから、怒りに我を忘れた神が振り下ろしたかのような巨大な拳が満を持して現れた。


 俺はひたすら俺ならどう対処するか思いを巡らせていた。強い奴と会うとそういうことばっか考える。拳の隕石はシルドラを頭から潰し墜落させた。東の山の頂上に落ちたシルドラの安否が確認できない。それより今はリバインが先か。


 リバインを拾った時、俺は油断していた。微かな油断で俺がなぜ吹っ飛ばされているのか理解するのに時間がかかった。

 脳が処理し記憶を呼び起こす。カウンター攻撃の衝撃波は侮れない――。


「ぬおおおおおお!!」


 グレネードピラー!

 咄嗟に発動して勢いを殺した。体を柔軟に曲げて浮遊を保とうとするが、無様にリバインもろとも地面に落下した。


「やったか? やったな。やったぜ!」


「メテオナックルを受けて生き延びた者はいない」


 リバインは勝利を確信している。俺は言葉とは裏腹に確信を持てないでいる。

 血まみれのシルドラがピクリと動く。


「まさか……」


 殺せていない。精神的にやられたリバインは動揺している。


「そのまさかだリバイン。あの野郎、弱体化の風を送ってやがった」


「馬鹿な。今日まで温存していたと言うのか」


 そう、弱体化の魔法は情報になかった。コンボが中断されるとしたらそれは新たな攻撃。強力無比な攻撃も弱体化をくらったらこんなもんだ。

 要塞竜と命名したくなる。空を飛んで逃げようとするシルドラに何もできない。

 ドラゴンのケツを眺めリバインは拳を山に叩きつける。


「仕留めきれなかった……!」


「あいつは俺たちを仕留める気はないな」


 時間を稼いでテンペスの存在を外部に悟らせたいのか。

 テンペス現れる地に何かあり。秘密を暴こうとするのだからそりゃ何かあるんだろう。

 ニーガにテンペスが舞い降りたことで、この町によからぬ秘密がある可能性が浮上した。外部に漏れればテンペスではなく人間が秘密を探ろうとする。内容次第によって町に制裁が下され、ニーガの平和が乱される。


 かつてマグニという村があった。魔物や病の脅威もない平穏な村だっだが、ある日テンペスが現れた。早急にテンペス討伐隊に助けを求め被害を最小限にしてテンペスは討伐された。討伐隊は村の被害状況を調べ、壊された家屋の跡から禁断の魔物を召喚するメモを見つけた。更なる調査ですでに魔物を召喚したことが判明、召喚に関与した者たちは即刻処刑となった。関与した者は……村人全員。


 処刑される前にマグニの村長は言った。

 まともに生きていたら死んでいたと。


「死ぬのか?」


「何?」


「いや、テンペスの好きにはさせねえ」


 まともに生きていたら死んでしまう人が多すぎる。

 秘密を暴かれたらどれだけの人間が途方にさまよう?

 

 また頭痛胃痛の事件に首を突っ込んじまったな。






 悪夢だった。数人のがたいのいい男にあんなことやこんなことをされる近年に稀に見る地獄絵図だった。その中にリバインが混じっていて悪夢に拍車をかけた。今日はうまく連携ができない予感だ。できれば触れたくもない。夢にしてはリアルすぎた。


 ナックルメテオで受けた傷を一夜にして治癒させたシルドラに今日も突破口が見当たらない。

 俺は無効化されないように剣を振るうが、弾かれてカウンターの衝撃波をもらう始末だ。

 魔法剣バラッドは剣に属性魔法を付与して力を発揮する。ただの剣としては三流もいいところ。


 6コンボ目まで繋いだリバインは硬直の視線に晒される。便利な魔法だ。1度硬直すれば耐性が高まり、リバインなら100%カットできる。時間の経過で耐性はなくなりリセットされる。1日1回硬直の魔法。コンボ魔法を繋ぐリバインはさぞ鬱陶しいはず。


「奥の手孫の手を使うしかないなー!」


「あるなら昨日のうちに使え」


 リバインの言うことは至極もっともだ。奥の手は焦らすもんだと相場は決まっている。


「俺は仲間を捜すためにこの町に来た」


 俺もリバインも牽制し警戒している。互いが味方であるか敵であるか。


「青髪の長い戦闘部族さながらの女だ。名前はラテ。知らない?」


「知っている。知っているだけで、行方は分からん」


「ラテの馬鹿力は凄まじいぜ。野蛮かつ粗暴、俺なんて寝ぞう打たれて骨折したんだぜ」


「馬鹿? 野蛮? 粗暴? 誰の事かしら」


 来たよ……。

 東の山を踏破したラテはシルドラに一瞥をくれてから俺を睨む。


「久しぶりなのにおっかねえ顔すんなよ」


「久しぶりねファル。それに守護者リバイン」


 声は淡々としているが内面の怒りを隠せてはいない。俺だけのせいではない。怒りの矛先は俺でもシルドラでもなく、守護者のリバインに向けられているようだ。


「貴様……」


「窃盗、暴行、監禁、それは他の誰でもなくリバイン、あなたの行為」


 や、やばいぞ。再会して早々逃げたくなった。

 お願いだから山は崩さないでくれ。

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