第八話
簡単な挿絵いれてみました。もう少しちゃんとしたの作れなかったのか? とかは言わないでくださいね!
プロジェクターに映し出されていた映像が終わり、皆が現実へと引き戻される。
会場内が静まり返る。
シンヤ先輩以外、僕を含め会場内の全員が呆けてしまってるのでないのかと思う。関係者である自分ですら、あの映画から誰が犯人であるか? 察しがつかない。決定的な決め手がない、というのが感想。
「以上が問題となるショートムービーです。さ、皆さん犯人を見つけてください。時間はこれから十五分ほど取りますので、意見をまとめてご記入の上ご提出下さい。最初に配った用紙、お手持ちの紙が回答用紙兼参考資料となっていますのでご活用下さい」
一斉に手に持っていた用紙に視線が注がれる。
皆と同じく用紙を改めて見つめる。氏名、学年、クラブ名を書く欄が上段に設けられており、その下に『犯人と思われる人物名、その理由を記述せよ(※犯人とその理由、両方が合わなくては正解とは認められない)』という記述。そして自由回答が許されている大きな空欄。
反対の面には見取り図と登場人物達の証言をもとに作られた文章が箇条書きされている。
①部長②二年佐野③二年深山④一年椎名⑤一年笹原⑥二年田中⑦一年白井⑧一年杉崎。×は犯行現場。(⑧)は被害者。(④、⑤)は第一発見者。
・①は一人で寝室にて眠っており悲鳴で目が覚め現場に駆けつけた。
・②は喉が渇いた為、食堂へ水を飲みに行っていた。消灯時間を過ぎていたので携帯電話の明かりだけを使っており、食堂の電気は着けなかった。
・③は一人で寝ていて、悲鳴で目が覚め飛び起きた。廊下に顔を出すと①の姿を確認した。②については、眠っている間のことの為、いつ出ていったのかはわからない。
・④は⑤と一緒に、外へ涼みに裏口へ行った。少ししてトイレへ行きたくなり、二人で戻った所シャワー室の電気がついており中へ入ると⑧を倒れているのを発見した。
・⑤は④と同じ供述の為省略。
・⑥は⑦、⑧と共に涼みに正面玄関の方へ移動。その後、⑦は自販機へ、⑧はトイレに行くと言って中に戻り、⑥はその場に一人で残った。
・⑦は、⑥、⑧と共に外へでて、すぐに一人で自販機に向かった。そのすぐ後、⑧が中へ戻る後ろ姿を見た。⑧が戻った理由は知らない。
追記:凶器となった包丁は食堂で使われていたものが一本なくなっていた為、食堂にあったもの使用したと推測される。
※全て各個人の証言を元に作成。詳細な時間、証言の真偽は定かではない。
用紙には、建物の見取り図と登場人物それぞれのアリバイについて書かれている。全員にアリバイがなく、細かい時間の設定がないので誰にでも犯行可能ということだろう。その中で誰を疑うか? 怪しいと思われる行動をした者はいた。しかし、怪しい所がない者もアリバイがないので犯人ではないと断言できない。そもそも証言がすべて正しいとは限らないという制限もある。誰かが言い逃れをする為、嘘の供述をしている可能性も含めて考えなくてはない。
自分と同じく頭を悩ます参加者達。シンキングタイムに入って五分は経とうとしている。まだ誰にも動きはない。ざわざわと議論を続けているだけだ。
悩む参加者を他所に動いたのはシンヤ先輩。映画の出演者を集め、先輩を基準にステージ上に横一列に並ばせた。
「犯人はこの中にいます。」
探偵が容疑者全員を集め、これから推理ショー行うかのような煽り文句で参加者を刺激し始めた。
「今回の映画は、出題する問題が問題でしたので公開までは外に情報を漏らさないことを徹底しました。出演者も完成した映像を見るのは今日が初めてになります。そして、内容に関しても監督である自分の指示通りに演じてもらっただけなので出演者にも犯人は教えておりません。」
言い終わるとシンヤ先輩は静かに時計に目を向けた。
衝撃から身を守るように柵がつけられた大きな時計は、皆の焦る気持ちを汲み取ることなく刻々と時を刻んでいく。
「それでは……そろそろ回収しますので回答を書き終えてください」
シンヤ先輩の指示で、僕達推研部員は用紙の回収へと動き出す。回答用紙を手渡す人の顔は万別、自信なさげにくれるもの、胸を張り鼻息荒く渡してくれるもの。おまけに睨まれた。
集まった用紙は、シンヤ先輩の元にすべて集められ選別作業をする。一通りの流れは聞いたものの、肝心の『答え』は知らない僕達には手伝えるものではないので先輩に任しておく。素早い動作で仕分けしてく姿を皆が注目している。あの速さで本当に大丈夫なのだろうか? そんなスピードで。
仕分け作業数分、シンヤ先輩の手で回答が七つに絞られた。七つのクラブ、代表の七人がステージに呼ばれる。
「皆さん、ご参加ありがとうございました。これから名前を呼びますので、呼ばれたクラブ代表者はステージにお願いします。」
「まず、野球部、サッカー部に柔道部。」
運動部らしい野太い歓声があがる。
「農学研究部、戦国史実会、サブカルチャー研究会、最後に……文芸部。」
歓喜の声と落胆のため息が会場内に入り混じる。
「呼ばれなかった人達はすみません、残念ですが不正解ということで。残った七人には解答をステージの上で発表していただきます」
七人の代表が各々のクラブでまとめ決まった解答を手に、呼ばれた順番にステージに並んでいく。
最後に呼ばれた文芸部の部長が、一番シンヤ先輩に近い場所に立ち、何かを話している。マイクをオフにしているので会場に会話が漏れることはないが、顔を見れば何か文句を言っているとわかる表情だ。これはクラブ同士というより部長同士が仲が良くない。理由はよく知らない、今更だけど……。
「それでは、クラブ名、代表者名そして解答を発表していってください」
坊主頭に日焼けした肌が印象的な野球部主将。スポーツマンらしからぬ顔立ち、つまりイケメンだ。
「えーと、野球部、主将の梅木です。犯人は『二年佐野』さんだと思います、理由としては凶器の包丁を持ち出しやすい位置にいた事と、食堂なら被害者が通りすぎるのが見えるので行動しやすいかと思ったからです。」
この辺りは皆の予想の範囲内か、特に反応がない。
「犯人は田中だ!! 被害者の行動を分かっていたのはコイツしかいないんだ! 間違いない!!」
フライング気味に叫びだしたサッカー部キャプテンをシンヤ先輩が静かに諌める。
「サッカー部、クラブ名と名前も言ってください」
「ああ、そうだった。サッカー部キャプテン小竹だ!」
会場に少々の笑いが起きる。
「柔道部一年、今野です。柔道部の意見は、第一発見者の一年椎名と笹島の二人が口裏を合わして共謀したという意見でまとまりました」
一年生を代表として行かせたのは、あの厳つい主将だろうか?
「農学研究部、野坂です。犯人だと思うのは『二年深山』です。買い出しの時に一人残っていたので、その時に犯行の準備をしたのだと思われます」
「戦国史実会、森野。戦国時代にも色んなミステリーが存在している、その数ある中で――」
「戦国史実会、時間がないので要点だけでお願いします。」
明らかに長くなるであろう話を始めたので、すかさずシンヤ先輩が割って入る。少しくらい喋っても、って顔をしていたがシンヤ先輩に睨まれて諦めたようだ。
「犯人は部長ですね。部長は被害者が出ていったこと、戻ってきたことが確認できる! 寝ていたという証言が何より怪しい!」
戦国のミステリーがどうとか言ってた割に、特にひねりのない解答のような気が……。
「サブカルチャー研究会、東城です。こういう時に一番最初に疑うべきは被害者自身! 被害者が死人を装い誰かに罪を着せたいと見た!」
誰に、という大事な部分は……? 呆れてため息をついた文芸部部長の牧野先輩。マイクを奪い取り話し出した。
「文芸部、部長の牧野です。皆さん、見えるものにだけ囚われていませんか? この事件の犯人は、その場にいない副部長です! 副部長は顧問への連絡を請負い、わざと間違った日付を教えた。それによって他に邪魔者がいない旧合宿所に行くように仕向けた。そして当日は休むフリをして犯行の機会を覗っていたのです! 合宿が始まる前から計画されていた犯行、犯人は副部長です!」
この意見には、会場から驚きの声が上がった。今までで一番考えられた解答だった。 全員の解答が出揃った、後はシンヤ先輩の答えを待つばかり。シンヤ先輩は……荷物をまとめ始めている? 先輩は仕分けによって残った紙を束を持つと、僕に近づき紙切れとマイクを渡し囁くように一言残して去っていった。
会場中の視線が自分に集まる。
「えーっと、解答なのですが、後日、新聞部の号外にて正解者と解答を発表……だそうです。」
……はいっ? 理解が追いついているものは険しい顔、それ以外の人は豆鉄砲でもくらったような表情で視線を真っ直ぐ自分に向けている。この緊急事態にいち早く行動を起せるミカ先輩、さすがです。推研部員四人を集め作戦タイムに入る。
「ユウくん、シンタロウはなんて言ってたの?」
「うまく逃げろよ。って言い残していきました」
「どういう意味?」
わからない。という問いかけであるが、もう薄々分かっているのではないかと思われる。ミカ先輩の表情が物語っていた。ミカ先輩より深くため息が漏れる。
「ユウくんはケンくんと一緒に横の出口。私とシュンちゃんはステージ裏の出口から出るから。いい? 三、二、一で行くよ。サン……二……イチ!!」
推研部員、離脱! 二人づつ、二手に分かれ走り出した! 僕達の背後で、怒声が上がったようだが気にせず走る。片付けを任してすみません、映研の皆さん。苦情は全てシンヤ先輩にお願いします! 背中で謝っておく、届いていないかもしれないけど。
先輩達と過ごせる残り少ない時間。最後のイベントだというのに、逃げる為に全力疾走。とんだ思い出だ。
そう、考えながら走っているが心臓が脈打ち、心が躍る。いつのまにか笑顔が溢れていた。
まだ解決しません。させません。この時点で答えがわかったあなたは相当なヒネクレ者かもしれませんね! わかったあなたも、わからないあなたも、さぁみんな!モヤっとボール持って待機だー。