第七話
………三
……二
一
カウントが入り、カタカタと映写機が回る音する。
―暗転―
照りつける太陽、うるさいセミの声。真新しい建物の前に集まっている男女八人。
部長「おーし、皆集まったな。」
二年佐野「部長、まだ副部長が来ていませんが?」
部長「副部長は今日都合悪いから、明日合流する。だからこれで全員だ」
セミの声がさらに大きくなる。
夏合宿の為、学校の合宿所の前に集まった演劇部の八人。
部長「じゃあ、手続きしてくるから少し待っててくれ」
そう言い残すと、小走りに建物に入っていく部長。
一年椎名「ねぇねぇ、アレ持ってきた?」
一年笹島「持ってきた、持ってきた!」
二人だけにわかる会話で楽しんでいる一年生女子二人。
部長が再び小走りで戻ってくる、あまりいい顔をしていない。
部長「みんな、悪い話と悪い話。どっちから聞きたい?」
二年深山「部長、普通は片方がいい話の時に使う言い方だと思うんですけど……」
二年田中「部長ー、じゃあ先の方の悪い話で!」
一年白井「そうゆう分け方なんだ……。」
部長「じゃあ、先の方から。ウチのおっちょこちょい顧問が合宿の日取りを間違えていたようで、今日からではなく、明日から宿舎を押さえてくれました!」
一年杉崎「じゃあ、今日の泊まる場所は!?」
部長「ありません!」
部長を除く一同「えーーーーーー!!!!」
一年椎名と笹島「じゃあ! 今日はどうするんですか!!」
二人の声が見事にハモる。
部長「そこは、俺の交渉で旧合宿所を使えるようにしてきた」
二年佐野「それなら、とりあえずいいんじゃないんですか? もう一つの悪い話は?」
部長「『旧合宿所』なので冷房設備がありません! 扇風機で耐え忍べ! という有難いお告げをいただきました、素敵な顧問に感謝!!」
部長は明後日の方向に敬礼をした。
部長を除く一同「えええーーーーー!!!」
再びの悲鳴を上げる部員達。
部長はこの悲劇に別段動揺することなく動き出す。
部長「さぁ! きびきび歩け!」
皆は文句を言いながらも、部長の後に続き歩く。
真新しい合宿所の横をすり抜け、さらに坂を登る。
その足取りは重い。
坂を登ること数分、少し古びた建物が見えてくる。
部長はその建物の玄関口にて立ち止まる。
部長「今は管理人とかはいない。必然的にメンテナンスはされていない! さぁ! どういう意味でしょう!?」
二年深山「掃除からしないといけないってことですか?」
部長「ハイッ! 深山さん正解!!」
部長が二年深山に指を差し、クイズ番組の司会者のようなマネをする。
部員達にもう叫ぶ元気はなかった。
部長「使用する教室だけでいいから、食堂、風呂、トイレに空き部屋二つ。あっ、先に扇風機見つけないとな……」
部長の指示で行動を開始する一同。
二、三人のグループを作り掃除をしていく。
掃除して、暑さに耐えかね休憩、そして扇風機の風の所有権争い。
終わった頃には夕方になっていた。
部長「よし、大体いいだろう。それじゃあ、晩ご飯の買い出しに行くぞ」
部長を先頭に動き出す部員達。
二年深山「あの、まだ気になるところがあるので私はもう少し掃除しておきます」
部長「ん? そうか、じゃあ頼む。それでは皆の衆! 出陣じゃ~~!」
部長の冗談に笑い合い、和気あいあいと外へ出ていく。
二年深山は一人、再び掃除を始めた。
―暗転―
夜のとばりが落ちる。
買ってきた材料を皆で調理し、食事を取る。
食後の練習はそこそこに。
消灯時間を迎えた。
部長「皆、楽しんでる所悪いが消灯時間だ。」
一年椎名「え~、まだいいじゃないですか~どうせ私たちしかいないんですから!」
部長「そうもいかんさ、とりあえず電気は消さんと見回りが来るからな」
一年笹島「電気さえ消えてればいいってことですか?」
部長「ゲフン、ゲフン」
この咳払いが答え、のようだ。
一年椎名、笹島「はぁ~い! おとなしく寝まーす!」
聞き分けのいいフリをして、楽しそうに顔を見合わす二人。
男女分かれて寝室へと向かう。
一年笹島「覗かないでくださよ! セクハラですからね!」
一年椎名「ですからね!!」
二年深山「で、ですよ!」
二年深山だけが少し恥ずかしいそうにしている。
乗っかってこない二年佐野は呆れている。
二年田中「そういうことは、もっと発育してから言うんだな!! ね! 部長!!」
問いかけた二年田中以外、部長並びに一年生も首を横に振る。
二年田中「裏切りモノ~~!」
ぼんやりとした月明かりと暗闇に包まれた室内を、扇風機のカタカタという音だけが響く。
二年田中「あっっつい!!」
暑さに耐えかね起き出す部員達。
二年田中「部長、外で涼んできてもいいですか?」
部長「いいけど、学校の敷地から出るなよ。出来ればこの施設の周りに居てくれ」
二年田中「了解です、自販機までは行っていいですよね?」
部長は手を振るだけで意志を伝える。
一年白井と杉崎「僕らも行きます」
二年田中に続いて、一年白井と杉崎も同行する。
廊下へと出ると、同じように暑さに耐えかね涼みに行く一年椎名と笹島の後ろ姿が見える。
外に出て、玄関前の階段や手すりに腰掛ける三人。
一年白井「自販機行ってきますけど、何欲しいですか?」
二年田中「のどが焼けるようなヤツをダブルで!」
一年白井「コーラっすね。杉崎は?」
一年杉崎「同じでいいよ」
一年白井「じゃ、行ってきます」
二年田中「君の勇気ある行動に感謝! 健闘を祈る!」
敬礼をして後輩を送り出す二年田中。
一年杉崎「僕はちょっとトイレ行ってきます」
二年田中「うむ!」
敬礼のまま体を一年杉崎に向ける。
二年田中に見送られ中へと戻る一年杉崎。
二年田中を一人残し、静寂が辺りを包む。
―暗転―
暗がりの室内に一人眠っている部長。
眠りにはついたものの暑さで寝返りを繰り返している。
扇風機の音がカタカタと鳴り響く。
沈黙……。
……!!!?
突然、闇を切り裂くような悲鳴が合宿所全体に響いた。
浅い眠りにあった部長は飛び起き
辺りを見回し付近には異常がないことが分かると出入り口へと駆け寄った。
扉を開き、左右を確認する。一箇所だけ明かりが漏れているのを見つける。
部長「シャワー室……か?」
一筋の光を追って駆け出す部長。
同じく、悲鳴に驚いて廊下に顔を出す二年深山の顔が見える。
明かりが漏れる扉に手を掛け勢いよく扉を開く。
扉を開いた先に見えたのは
背中から心臓の位置に包丁が刺され血を流し倒れている一年杉崎。
そして、その傍らでへたり込み、手を握り合い震えている一年椎名と笹島の姿があった。
―暗転―
画面が切り替り簡素なスタッフロールが流れ出す。
登場人物・出演キャスト
部長:新谷真太朗(推研)
副部長:配役なし
二年佐野:佐野真美(映研)
二年深山:深山実花(推研)
二年田中:田中健吾(推研)
一年白井:白井裕太(推研)
一年椎名:椎名優子(映研)
一年笹島:笹島恵(映研)
一年杉崎:杉崎駿一(推研)
撮影・撮影補助
兼田謙二郎(映研)、映画研究会一同
演出・脚本・監督
新谷真太朗
製作
推理小説研究会&映画研究会
END
―暗転―
内容が「劇中劇」的な感じなのでこの話のみ、脚本風にしてみました。他との差別化の意味だけです。あくまでも(脚本風)なので鋭いツッコミはしなでくださいね^^