第六話
季節の移り変わりは早いもので、少し前まで暑さに悩んでいたのに今ではもう一枚上着を着ないと寒くて外にはいけません。
夏服から衣替えを終え、再びブレザーを着る季節になりました。
夏休みに合同で撮影した映画は、休みの間に編集作業を終え新学期が始まってまもなく完成お披露目会をしました。といっても映研の作品だけですけど。僕達の作品は、大事な機密情報なので本番までシンヤ先輩が厳重に保管するといって見せてもらえませんでした。結局、どんなモノになったのか……。
夏から二ヶ月が経ち、十月となりました。本番の文化祭までそろそろ大詰め! 周りから一掃の騒がしさを感じます。我ら推研は? いつも通りです。ショートムービーを撮影する以外は特に出来ることがないので、いつも通り小説読んだり、勉強したり、馬鹿話に花を咲かしたり。
「シンヤ先輩のクラスは何するんですか?」
健吾! よくぞ聞いてくれた!! いきなり立ち上がり、小芝居じみたことを始めるシンヤ先輩。ミカ先輩は同時にそっぽを向いた。
「我がクラスは、普通の! フ・ツ・ウ・ノ! 喫茶店だ!」
何故か言葉に気迫がこもる。
「クラスで何をやるか決める時、特に意見が挙がらないから俺がとてもいい提案したんだよ! 聞いて喜べ! クラスの女子が全員スクール水着で接客する『スク水喫茶』だ!」
――それは、通りませんよシンヤ先輩。ミカ先輩が背中で怒ってます。
「先輩! 俺行きたいっス! スク水喫茶行きたいっス!!」
健吾がかなりの食いつき方をしている。これはいつものノリではなく本気なんだろう。
「たがしかし! こんなにも素敵な喫茶店は敢え無く幻になってしまったのだ! クソー! この世の中には神も仏もいないのか!!」
シンヤ先輩と健吾が二人で男泣きをしながら、ミカ先輩の後ろに陣取る形をとってのアピール攻撃。
私に言われても知りません! どう見てもクラスの総意でしょうが!
「バッキャロー! スクール水着ってのはな、学生のみが着用を許された『レア装備』だぞ! しかも! 合法的に着れるのは高校生が最後なんだよ! なら高校三年生である俺達じゃあ今年で最後じゃないか! スク水いつ着るの? 今でしょ~!」
そういう趣味の人は学生じゃなくても着る機会はまだあるだろうけど、シンヤ先輩の言っていることは何気に正論だ。だからといって同調するわけではないけど。
「そんな道理を女子にだけ押し付けないでよ! そんなに見たいなら男子が着なさい!」
ごもっともだ。
「そんな喫茶店は客が来ないで警察が来るわー!」
「少なくとも女子に接客されたいですよ! ミカ先輩!」
健吾まで乗っかってくると更に収拾が……。
でも、そろそろミカ先輩がお怒りに……。
「二人共、いい加減しなさい!」
シンヤ先輩との追いかけっこスタートです、今日は健吾も一緒に逃げ回っています。
先輩達との『いつもの日常』。これを続けられるのはあと少しなのだと思うと寂しい気持ちが湧き上がる。
――そして、文化祭が始まった。
僕達の出番は、最終日の三日目。
それまでは、クラス展示をこなしたり。皆でお店回ったり。生徒数が多いと、それだけお店も出し物も沢山あるわけで、見て回るには時間は足りないくらいでした。
バタバタと準備に駆け回る推研と映研部員。機材などは映研部員にお任せして、僕達は会場準備で椅子を並べたりチラシ配りに勤しんだり。こんな時ほど、健吾の大声が役に立つことはない! とは本人には言いませんが、本人は普通に声を出していると思っているので。
まずまずの客入りで映画がスタート。映研の作品は、自分達が出演してることもあり、嬉しいやら、恥ずかしいやらであまり直視は出来なかった。これが終われば推研の出番となります。
スクリーンとプロジェクターはそのまま使用するため現状維持。会場の椅子を全て片付ける。僕達の場合は、映画は楽しんでもらうのではなく戦いなのだ! とはシンヤ先輩の言葉。まさに戦いだ、我がクラブの未来をかけて! その気持ちは、続々集まる各クラブ部員達も同じなのだろう。
ステージ下、左の壁側には長机と椅子を並べ生徒会用の席が用意されている。生徒会は今回の企画の立会人である。そろそろ時間だ、会場の扉が締められる。途中入場の規制なんてしてるわけではないが、とりあえず、である。
シンヤ先輩がステージに上がり、マイクのスイッチを入れた。
「皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。それでは、始めさしていただきたいと思います。」
マイクを手に、真剣な顔で話すシンヤ先輩。こんな顔を見るのはいつ以来だろう?
「まずは、確認としてルール説明をします。今回、我々推理小説研究会の出し物として簡単な犯人当てゲームを用意いたしました。これから見てもらうショートムービーがその問題となります。映画が終わりましたら、十五分ほど時間がありますので答えを考えてください。回答は各クラブで一つ。考えるのは部員並びにその友人など、我が校の生徒であれば誰と協力してもらっても構いません。全ての意見をまとめてご回答下さい。回答は入り口でお配りした紙が回答用紙となっているのでそちらにお願いします。裏面にある見取り図とこの映画の補足情報は自由にご活用下さい。」
シンヤ先輩が会場の生徒達に同意を確認するかのように一呼吸、間をおいた。
「見事、正解を導き出したクラブに新しく建設中の空き部屋の使用権が与えられます。これだけの人が集まって、解答がでない。その時は、我々の勝ちとなり使用権をいただきます。どちらに転んでもマイナスはない! 全くもっていい条件ですね!」
はっはっはー、と笑っているのはシンヤ先輩だけ。身内の僕達ですら笑えない状況です。
「尚、推理小説研究会は勿論のこと映画撮影に協力して頂いた映画研究会にも回答権はありません。これは了承済です。」
そんなところですかね。何か質問は?
少しのざわめきがあったが特に質問はないようだ。
「立会人の生徒会の皆さんもよろしいですか?」
生徒会長、須藤浩平先輩から手が挙がる。
「質問ではないですが、一言。今回は、部室の使用権を景品としての催し物ですので生徒会が立会いました。不正は……できないと思いますが、揉め事が起きた場合は全て生徒会を通して公平に判断し解決にあたります、ご協力お願いします。切り分けできないものですし、一発勝負、恨みっこなしで! お願いします。」
ペコリと遠慮がちに頭を下げた生徒会長。
「それでは、始めます。時間を掛けると回答時間までも削られるだけですからね。こちらとしては大歓迎ですけど!」
軽いジョークが会場の空気を和ませる。とはいかない、集まった人達にとっては今マイクで話している人は敵同然なのだから。
僕達、推理小説研究会はこの会場の全員を欺くことができれば『勝ち』ってことらしい。これだけの人がいるんだ、圧倒的に不利にしか見えない。運動部であっても、この学校で学んでいる人間だのだ、一筋縄ではいかないだろう。シンヤ先輩はそれこそが狙い目だって笑っていたけど……。
シンヤ先輩より、指示が出されプロジェクターのスイッチを入れ準備に取り掛かる映研部長。照明が落とされ、暗闇の中白いスクリーンに光だけが投影される。ノートパソコンを操作している画面がプロジェクターに映し出され、動画再生のプレーヤーに動画ファイルをマウントして準備完了。シンヤ先輩と映研部長が目だけで意思疎通をして、プレーヤーを全画面表示にする。再び、暗闇が会場内を包む。緊張が走る。シンヤ先輩と映研部長以外はそうなるだろう。僕達にできることも後は見守るだけだ。
映画が始まる。僕達、『推理小説研究会』の未来をかけて。
――映画が始まる。
スクリーンに映像が映し出され、カウントダウンの数字が映る。
………三
……二
一
やっと本番突入といった所です。なのでお遊びできるのはこれで最後みたいな気持ちで序盤に余計なもの投入しましたw