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少女


 さわさわと顔を撫ぜる柔らかな風が心地良い。

 ふと見上げれば木々の間から眩い太陽の光が差し込み、地面に木立と葉の影を描く。

 足元の泉はキラキラと光を反射し、まるで水面に宝石が散りばめられたかのような錯覚にさえ陥る。

 つい、と片足を出し水面につま先を浸してくるくると掻き回す。


「冷たい……」


 ひとしきり足先で水面と戯れた後、もう片方の足もゆっくりと沈めていく。

 足裏に砂利がゆったりと絡み付き1歩踏み出す毎に慌てて逃げ出すのが分かる。

 体の動きに合わせてちゃぷちゃぷと揺れる水面の音が耳に涼しい。


「気持ちいいですわ……本当に……」


 腰まで水に浸かり、手ですくい上げて肩から流す。

 太陽の眩しい視線を浴びて火照った体の表面を、数本の細かい流れとなってするすると下り、水面へ落ちていくつもの波紋となり広がって行く。


 ちら、と泉の岸辺に目をやる。

 そこにはさっきまで自らが身に着けていたローブとサンダルが揃えて置いてあるのみ、ここは城の敷地内、王族のみ入る事を許された庭にある泉なのだから、誰の目も気にする事はないのだがそれを分かっていても無意識に周りを窺ってしまう。


 誰もいない事を確認すると、力いっぱい腕を伸ばし天に輝く太陽を掴まんと掌を大きく開いて体を伸ばす。

 大きく息を吸い込み、ぐ、と息を止めて肺に溜めた息を吐き出す。

 それを2、3度繰り返し一息に頭のてっぺんまで泉の中へ沈み込んで瞳を開く。

 目の前には、さんさんと降り注ぐ光が束となって水流と踊っており、とても美しく荘厳な雰囲気を醸し出していた。

 しばらくその光景を眺めた後、水面からゆっくりと顔を出し濡れた金髪を後ろへ撫でつけ、顔を拭い、両手を小刻みに揺らして飛沫を飛ばす。

 その動きに合わせ、弾力のある肉感のしっかりとした2つの双丘が揺れ動いた、それを両手で隠すように両腕で体を抱きながらぽつりと、

 

「ふぅ、それにしても……どうしてあんなモノを見たのでしょう。神託、などではありませんわよね、私にそんな大仰な力など備わっておりませんし……」


 力を抜くと全身が浮遊感に包まれ、ふわりと水面に体が横たわる。


「クレン……サフィール……」


 瞼を閉じ、その名を口にすると何故か懐かしい気がする、とても大事な、とても大切な、何か。

 それは断片的な夢、白昼夢と言っても過言ではない。

 先程、自室の窓際でお気に入りの伝記を読んでいる最中、うたたねをしてしまったらしく、その際に見たモノが己の頭を満たしていた。


 えてして人は夢の詳細をよく覚えていない、だが何故か、その名前と何度かの戦闘のシーンがはっきりと頭に染み付いてしまい、どうしても離れないのだった。


「ふぅ、それにしても……嫌ですわね、戦いというのは……」


 誰とも無しに呟いた後、しずしずと岸辺に向かい、ローブの脇に置いた長い布を体に巻き付け、冷えた体がまた火照り出さないようゆったりとした足取りで私は泉を後にした。

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