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うちの学園には、学生の部活動参加義務がある。
しかし当然部活をやりたくない学生もいる。
正当な理由があれば特例で免除されるが、そうでない学生は、あまり真面目にやっていない部活に入って、たまに顔を出すのが通例だ。
俺が入っている部もそんな不真面目な所で、名を心霊研究会という。
その名の通りオカルト話を研究する会で、正直なんでこんなのが部活動として認可されているんだろうと思わないでもない。
部員数は二十人を超えているが、実際に活動しているのは五人程度である。
部長曰く「幽霊が多いのはいいことだ」ということらしい。
俺はどちらかと言うと幽霊の方なので、たまに部室に顔を出しに行くと心霊現象扱いされる。
そういうわけで放課後特にやることもない俺は、授業が終わるとすぐに帰途についた。
「ただいまー」
玄関で靴を脱いでると、二階から駆け足で降りてくる音が聞こえた。
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
「ちょ、お前何やってんのっ!?」
現れたのは優馬ではなく、ユウミである。
本日の装備は、ピンク色のふわふわしたスカートと、クリーム色のカーディガン。
それから白のニーソックスだった。
「何って、お兄ちゃんのお出迎え」
「お前そういうキャラじゃなかったよね!?」
「……だって、やってみたかったんだもん」
そう言ってむくれるユウミ。
何を考えてらっしゃるんですかこの子……。
「あー、いいから部屋に戻れ。父さんや母さんが帰ってきたら面倒だろ」
「むー。もっと反応してくれてもいいのに」
「十分リアクションしただろ! これ以上何を望むんだよ!」
「『今日も可愛いな、ユウミ』とか」
「誰が言うか」あと自分で可愛いって言うな。
……いや、自覚してるからこその女装なのか。
俺はため息を一つ落とすと、自分の部屋に戻った。
「なんでお前が付いてくるんだよ……」
現在、俺はベッドの上に座っている。
ユウミは勉強机の椅子に座って俺の前に。
昨日と同じ構図である。
違うのは、昨日は不安まじりで硬かった表情が、満面の笑顔に変わっていることだ。
「勝手に部屋に入るのなんてお互いいつものことでしょ?」
「いや、そりゃそうだけどさ……」
確かに、俺ら兄弟は小さい頃からの慣習で、無断で部屋入ることが恒常化している。
どちらも止めるように言い出さなかったせいでもある。
そりゃ、見られて困るような物は置いてないしいいんだけど。
……置いてないぞ?
本棚の雑多な雑学書の後ろに箱とか無いからな?
まあ、それはいいとしてだ。
「だからって、何の用だよ?」
「用がないと、いちゃいけないの?」
ユウミは小首をかしげながら言った。
そういう仕草やめろよ……。
この妹(仮)がここまで上機嫌な理由は分からないでもない。
昨日カミングアウトしたこと、曲がりなりにも俺がそれを受け入れてやったことで、吹っ切れたのだろう。
趣味が特殊な分、表に出せる場所は少ない。
俺は体の良いストレス発散相手にされているわけだ。
まあ、それならそれでいい。
今まであまり構わずにこいつを放置していた俺にも兄として責任がある。
なんだかんだ言っても、こいつはまだ中学生で、世間一般では子供だ。
なんでも出来る(※料理を除く)とは言っても、内面まで成熟してるとは言いがたい。
「分かったよ、好きにしろ。あー、ゲームでもやるか?」
「うん、やるやるー!」
俺の適当な提案に、ユウミは飛びついてきた。
こいつとゲームか……。ずいぶん久しぶりだな。
俺は今はハードから撤退したゲームメーカーの最後の夢を起動した。