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俺は少女を――優馬を?
何と呼ぶべきなんだろうな――まあとにかく、部屋に入れて勉強机の椅子に座らせた。
俺自身はベッドに腰掛ける。
「……本当に優馬なのか?」
再確認。
見れば見るほど女にしか見えなくて、自信がなくなってくる。
「――うん」
「本当に?」
「うん」
「本当の本当にか?」
「しつこいよ! 何度言わせるつもり!?」
「良かった、ちょっと素が出たぞ」
こいつ大分固くなってたからな。
俺がにやりと笑うと、優馬は面食らったような表情になった。
「……そうだな、どっからでもいいから、話せるところから話してくれ」
「聞いても……嫌いになんない?」
しかし、まだ普段の弟からは考えられないくらいに弱々しい。
「……嫌いにはなんねぇよ、安心しろ」
まあ、例えば俺の事が好きだったと告白されたとしても“嫌い”にはならないだろう。
気持ちには応えられないけど。
「じゃあ、言うけど……、好き、なんだ」
ってマジかよ!
言っとくが俺はノンケだぞ!
いくら見た目が女でも、っていうかそもそも兄弟だし、――そういやこいつの性別って今どっちだ?
まさか既にニューハーフ化してたり……。
こいつ天才だし自分で性転換手術ぐらいやってのけて、いやいや無いから。
いくらなんでも無いから。
俺がいい感じに混乱していると、優馬は言葉を継ぎ足した。
「――女装が」
女装。
女装か。
ああ良かった……。
女装かぁ。
脳内に展開された最悪の予想よりは大分マイルドに聞こえる。
俺があからさまにほっとしたのを感じ取ったのだろう。
優馬はくすりと笑った。
なにこれ可愛……待てこれ男だから!
しかも弟だから!
いやわかってる。
女装も十分アブノーマルだとも。
だけどさ、それなりに、個人の趣味の範囲で片付く問題だと思わないか?
いや、待てよ?
「あー、えっと、もしかして、性同一性障害とか……」
「あ、違う、違うよ! 私は――、あー、うん、“私”は女だけど、“僕”は男だ」
なんだそれは?
俺が眉を顰めると、優馬は慌てたように、
「あ、って言っても、二重人格とかそういうのでもないよ! ただ、この格好するときは、女の子になってるから……」
分かるような分からないような事を言った。
「……とりあえずこれだけははっきりさせておきたいんだけど、恋愛対象は、女なんだよな?」
「うん」
迷いも見せずに優馬は頷く。
「要するに……、なんて言えばいいんだろうな、女の子をロールプレイしてる?」
「あ、それ近いかも」
優馬は手のひらを軽く胸の前で打合わせた。
そう言えば、胸が膨らんでる。
「……どこ見てんの」
優馬は胸を押さえる。
芸が細かいなオイ。
「さっきのニセチチ、付けてんだなーと思って」
「…………やっぱり気持ち悪いとか思う?」
優馬は若干思いつめたような声音で訊いてきた。
「…………あー……」
言葉に詰まる。
どうだろう。
これが例えば忍○学園の山○先生のような女装だったら間違いなくキモいと言えるんだが……。
俺が考えていると、その間を悪い方向に受け取って、
「……思ってるんだ」
優馬は俯いて言った。
こいつ今日はずいぶん感情のアップダウンが激しいな。
不安定になってるんだろうとは思うけど。
「違うそうじゃないって! いや意外と似合ってるし、むしろそこらのアイドルより可愛いし、むしろこいつ女に生まれてきたほうが良かったんじゃねとか思ったせいで何と言おうか迷って――」
そこまで言って俺は口をつぐんだ。
慰めようとしてとんでもない事を口走った気がする。
「そっか、良かった」
優馬は脱力したようにため息をつく。
少しリラックスした表情がこれまた――オイ待て!
「――で、俺はどうしたらいい?」
これ以上続けると色々とマズそうな思考を打ち切って、俺は優馬に尋ねた。