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 空気が重い。


 昭島さんはお代わりしてきたオレンジタルトをものすごい勢いで食べ尽くすと、コーヒーを一気に飲み干してテーブルに置いた。

 ぽかんとしながらそれを見ていると、


「……悪い? アタシが甘党じゃ」


 じろりと俺を睨んで昭島さんが言う。

 あ、甘党なんだ。

 そりゃそうか、わざわざケーキバイキングに来てるくらいだし。


「何も言ってないって!」


 それに別に甘党が悪いとも思ってない。

 まあ、すごい食べっぷりだとは思ったけど。


「あ、あのー……、お兄ちゃんのお知り合いの方ですか?」


 そこでユウミが口を挟んできた。


「別に、こんなの、知り合いじゃないわよ」


 昭島さんは不快そうに眉を寄せる。

 こんなの呼ばわりされた。

 まあいいけど。

 変態呼ばわりよりかはいくらかマシだ。


「なんか今のセリフ、ツンデレっぽいですね」


 ユウミが面白そうに言う。

 おい、言うに事欠いて昭島緋南がツンデレとかねえよ。

 ――と思っていたのに、


「だ、だ、誰がツンデレよ!? 名前も知らないのに!!」


 昭島さんは真っ赤になって反論した。

 そしてなぜかまた俺を睨む。

 ただし赤面してるせいか、さっきより迫力がない。

 さっきのが敵を見据えるライオンの目だとすれば、今回は縄張りを守ろうとする野良猫くらい。


「そういや、名乗ってなかったっけ。俺はC組の瀬川拓真。こっちは妹のユウミ」

「瀬川ユウミです! よろしくお願いします」

「別に、アンタたちとよろしくする必要なんてないし」


 昭島さんは目を逸らしながら言う。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」


 ユウミが俺に向かって言った。

 そして昭島さんをフォークで指す。

 やめなさい、行儀悪いから。


「この人すっごいツンデレ」

「俺に振るなよ! 空気読めよ!」


 こいつ、今のところ昭島さんの矛先が俺に向いてるから、茶化して楽しんでるんじゃねーだろーな……?


「ツ……っ、ツンデレじゃないって言ってるでしょ!!」


 昭島さんも、そういう反応するからからかわれるんだよ……。


 それにしても、ユウミの空気を読まない――あるいは空気を読んだ上での発言のせいで、昭島さんの弱点がものすごく良くわかった。

 多分、ユウミも気づいていると思う。


 すなわち――恋愛話(コイバナ)に弱い。


 さっきからユウミにツンデレだのとからかわれて顔を赤くしてるが、別に昭島さんが俺のことを好きだなんてことはないだろう。

 向こうも一応顔は認識していたようだけど、今まで特に接点もなかったわけだし。


 要するに、そうやってからかわれること自体に耐性がないのだろう。


 ――なんてことを考えていたら、


「昭島緋南よ」

「へ?」


 昭島さんが低い声でぽそりと言うので、思わず変な声が出た。


「何よ。そっちが名乗ってるのに私が名乗らないなんて、失礼でしょうが」

「あ、はい。そうでしたか」


 ……この人本当にあの(、、)昭島緋南なのだろうか。

 けっこう常識人に思えるんだけど。


「昭島緋南さんですね、可愛い名前!」


 この姿では初対面ということにはなるけれど、ユウミのセリフが一々白々しい。

 しかも、よりにもよって昭島緋南に対して可愛いだと?

 いや、決して昭島さんが不細工だとかそういう意味ではない。

 だけど彼女の場合、綺麗――いやむしろ、格好いいという表現が一番似合う気がする。


「か、か、可愛いとか言うなぁッ!!」


 案の定、昭島さんはまた真っ赤になる。

 誤魔化すように席を立つと、ケーキのお代わりを持って帰ってきた。

 そのまま無言でこちらを無視するようにケーキを食べ始めた。


 俺とユウミは目を見合わせると、同時に空になっていた皿を持って立ち上がった。



 ケーキのお代わりを持って帰って来た俺たちを一瞥すると、昭島さんはコーヒーを一口飲んで、


「まったく、アンタらアタシが怖くないわけ?」


 ため息交じりにそうぼやいた。


「や、最初は怖かったけど……」


 これだけ幸せそうにケーキを食べてたり、ユウミにからかわれている様子を見せられて、何をどう怖がればいいと言うのだ。


「それにしても、なぁ……」


 どうして俺はこう、知らないほうが幸せだったような他人の秘密を握ってしまうのだろうか。


「言っとくけど、誰かにバラしたら殺すわよ」

「分かってるよ。そもそも、鬼の昭島緋南が実はスイーツ大好き乙女のヒナちゃんだなんて、誰が信じるかよ」

「ヒナちゃんって呼ぶなぁっ!!」


 ヒナちゃんは激怒した。

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