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 あのあと予定を確認して、ユウミのお願いの実行日時は土曜日に決まった。


 それ以来優馬はずっといつも通りで、お互い大した会話もせずに前日になった。

 優馬(にちじょう)ユウミ(ひにちじょう)を切り替えているのだろうけど、こちらとしてはいつ爆弾が投下されるのかと、気が気でない。


 その爆弾が炸裂したのは金曜日の夜で、優馬が四日ぶりに俺の部屋に来た時はやはりユウミになっていた。


「お兄ちゃん、明日の朝、六時半まで起きちゃだめだよ」


 部屋に入って開口一番、ユウミはそんなことを言う。


「何で? つーかお前、今は父さんも母さんもいるんだから、その格好は……」

「だいじょーぶだよ、隣の部屋なんだから。お父さんは風呂だし、お母さんも晩飯の片付けやってるでしょ? 廊下に誰もいないのは確認してるから」


 本当だろうな?

 なーんか危なっかしいんだよなこいつ……。

 そもそも、俺にバレてる時点で油断してるとしか思えないんだけど。

 色々できるくせになんで時々抜けてるんだろう?


「お兄ちゃん、なんか失礼なこと考えてない?」


 で、なんでこういう時は鋭いんだよ。


「考えてない考えてない」

「本当~?」


 ユウミは少しじとりとした視線を俺に向けたが、俺が目を見返すと「まあいいか」とため息を落としつつ呟いた。


「で、何で俺は明日六時半まで起きちゃだめなんだ?」


 俺は朝食を作る関係もあって、朝は五時半、遅くても六時には起きている。

 休日だから多少寝過ごしたところで問題ないとは言え、早く起きてと言うならまだしも、起きてはいけない理由はなんだ?


「ひみつ」


 ユウミはそう言ってにこりと笑う。

 こいつ、絶対変なこと企んでやがる。


「明日は私に付き合ってくれる約束でしょ?」


 くそ、それを言われると弱い。

 というか、もしかして俺、明日いっぱいこの言葉に振り回されるのか?


 軽い気持ちで賭けに乗ったことを再び後悔しつつ、俺はユウミの要求を呑んだ。



 そして翌朝。


 俺はいつもと同じ五時半に目覚めた。

 ぼんやりと枕元の目覚まし時計を掴んで、なんで鳴らないんだ? と思案する。


 ……ああ、六時半に仕掛けたんだっけ。


 寝返り一つ。

 せっかくだから、たまには惰眠を貪ろう。

 二度寝なんて久々だ……。


 ベッドの中でぬくぬくと転がって、意識が次第に薄くなっていった頃――、


 突然布団が引剥(ひっぺ)がされた。


「お兄ちゃーん、朝だよー!」

「な、何事だ? 敵襲か!?」


 思わずそんな戯言(たわごと)が口を付いて出た。


「どんな夢見てたの?」


 そんな声を聞いて上を見上げると、薄明るい部屋の中に、ユウミが立っていた。


「…………いやいやいや、何? 起きるなって言ったの、お前だよね?」

「起きるなとは言ったけど、起こさないとは言ってない!」


 ぐっ、と親指を上に立ててスマイル。

 うぜぇ……。


「どういう理屈だよっ!」

「ぶっちゃけ、『朝お兄ちゃんを起こしに行く妹』がやってみたかった」

「それだけ?」

「うん、それだけ」


 ほう……。


 頭の中で変なスイッチが入ったような感覚があった。

 擬音にするなら、カチーン。


「俺に起きるなと言って、そのくせ朝っぱらから俺のこと起こして、その理由が『やってみたかったから』?」


 俺はベッドからゆらりと立ち上がった。


「う、うん」


 ユウミが一歩後ずさる。


「……お前最近、少し調子に乗ってるんじゃないか?」


 低い声でそう言って、両手を体の前に構える。


「ご、ごご、ごめんなさい、お兄ちゃん」


 更に一歩引き下がろうとしたユウミの腕を掴んで引っ張り寄せた。


「ひゃ、やめ――、」


 ユウミの顔が絶望に染まった。



「いはひゃひゃひゃは、お兄、ちょ、いひひひゃはははは、待っ、きゃはははは――!」


 こいつの弱点は、知り尽くしている。



 ……まあ、その気で抵抗されればどっちにしろ俺じゃこいつには勝てないんだけどな。

 自分に非があると思ったのか、ユウミは為すがままだった。


「ひ、ひー、はー……」


 くすぐり攻撃を終えてベッドの上のユウミの状態を確認すると、苦しそうに息を吐きながら、びくびくと震える(見た目)美少女が一人。


 あれ、なんかとんでもない絵面じゃありませんこと?


「……すご、かったぁ……」

「やめろ、その発言止めろ」


 我に返って、自分の行為が引き起こした結果にドン引きしつつ俺は言う。


「朝メシの支度して来るから、ちゃんと着替えておけよ」


 ユウミにそう言い捨てて、俺は廊下に出る。

 情景だけ見ると俺が鬼畜男みたいじゃないか、とか、何で俺が自分の部屋から逃げなきゃいけないんだ、などと心中でこの世の理不尽を嘆いた。


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