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二人でできるゲームということで、用意したのはアーケード対戦格闘ゲームの移植版だ。
大分前にやった時、優馬はコマンドも覚えてなくてボロ負けしたゲームだが、それでいいと言うのでその通りにした。
「ずいぶん腕を上げたな」
何回か対戦したが、戦績は五分五分だった。
まあ、飲み込み早いもんなこいつ。
「うん、がんばった。ねえ、お兄ちゃん、せっかくだから賭けしない?」
次の試合のキャラセレクト画面を見ながら、ユウミがそう提案してくる。
「賭け? 何を?」
「んーとね、勝ったほうが敗けた方の言うことを一つ聞くっていうので」
「……あんまりひどいのはナシだぞ」
「大丈夫、分かってるって。バグ技使用はナシね」
「ああ、いいぞ」
俺はにやりと笑った。今までは一番得意なキャラを使ってなかったからな。
賭けとなったらガチンコでやらせてもらおう。
ふははは、甘い気持ちで賭けを持ち出したことを後悔するが良い。
『ラウンドワン ファイッ』「おらっ」「えいっ」「ちょ」「やっ」「待」「とりゃー!」「こ、この」「ええええい」『ぐああー!』『K.O.』
『ラウンドツー ファイッ』「今度こ」「おりゃー」「え、ま」「いっけー!」「おいやめ」『ぐああー!』『K.O.』
……甘い気持ちで賭けを受けたことを後悔しています。
「汚ねぇぞ。手抜いてたのかよ……」
はい。
瞬殺されました。2ラウンド目なんかパーフェクトくらいました。
『見てから余裕でした』をリアルに見ることになるとは思わなかったよ……。
このゲームは結構自信あったのになあ。
俺が床に突っ伏して落ち込んでいると、
「ご、ごめんね、お兄ちゃん。でもこうしないと賭けに乗ってくれないと思ったの」
ユウミがそう言った。
謝ってんのかそれ?
計算ずくかよ……。
「まあ……嘘ついた訳じゃないもんな。悔しいけど」
実力を隠していたことは糾弾できまい。
俺だって前哨戦は手を抜いてたと言えばその通りだし、勝てると思ったから勝負に乗ったわけだし。
浅はかだったよ……。
まあ、これは今に始まった話じゃない。
昔からこいつは何でも俺より良くできたもんな。
それでよく兄弟ゲンカにもなったものだ。
「それにしてもお前、いつ練習したんだ?」
このゲーム機は俺の部屋にしか置いてないから優馬はあまり触らない。
ゲームをやるなら自分の携帯機か、リビングに黒い箱とか置いてあるし。
「ゲーセンでだよ」
「ああ、なるほど」
確かにこれはアーケードゲームの移植で、筐体はまだゲームセンターに行けば置いてあるのだから、練習はできるか。
それでもゲーセンのコントローラーとこっちのコントローラーじゃ勝手が違うだろうに、良くできるな。
「お前もゲーセンとか行くんだな」
あんまりそういう話は聞いたことなかったけど。
「前に私、お兄ちゃんにコテンパンにされたでしょ? 悔しかったから、こっそり練習しようと思って」
ああ……、なるほど……。
こいつは昔からこういう部分がある。
負けず嫌いで、誰かに負けたら特訓して誰よりも上手になる。
身につかなかったのは料理ぐらいだ。
「それで、賭けの賞品だけど」
「ちっ、忘れてなかったか」
「忘れてるわけないでしょ! 何のために賭けって言い出したと思ってるの?」
何のためとか知らねえよ。
まあ、俺にやって欲しいことがあったから勝てる賭けを持ちだしたってのは分かるけどさ。
少々まどろっこしくないか?
「分かった分かった。俺に何をさせたいんだ?」
「えっと、ね。お願いがあるの」
そう言うとユウミは上目遣いで俺を見る。
そういう表情、動悸が走るから本当やめて欲しい。
そのたびにこいつは男で弟だと言い聞かせてる自分が若干キモいんだよ……。
「今度の土曜か日曜日、付き合ってくれない?」
「あ、うん、いいけど……」というか拒否権はないけど。「何をするんだ?」
「んー、それはまあ、当日のお楽しみ、ってことで」
なんだろうな、何か嫌な予感がするんだが。
「よーし! じゃあ次の試合やろっか!」
「俺結構心が折れてるんだけど」
「大丈夫、手加減してあげるから」
「それはそれでムカつく」
「ふっ、ならば私を倒せるぐらい強くなれ、勇者よ」
「なんで急に魔王になったの!?」
結局その後、本気を出したユウミに俺は一試合も勝てなかった。
くそう、この魔王め……。




