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最終章 へへへっ…、いつも通りだんべよぉ
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翌八日……。
浦東国際空港に向かうタクシーの中で、施川が一枚のメモ紙をモジモジと取り出しながら、ポツリと呟いた。
「峪口ぃ~、悪いけどがっかりすんなよ。実はな、麗ちゃんから……」
「うん、麗ちゃんがどうした?」
「こ、これ……」
と一枚のメモ紙を差し出した。
「なにこれ……? えっ!」
峪口も財布からメモ書きを取り出し、
「実はな、俺も……」
と言って、施川に見せた。
「なんだよぉ~? 麗ちゃんがどうしたンだよぉ~?」
互いのメモを交換して読んだ二人は、同時に大笑いをした。
「なにが可笑しいンだよぉ~。俺ぁにも見せろよぉ~」
「ほら」
峪口が渡したメモに目を通した邑中が、大声をあげて笑い出した。
「へっへへへ……、笑っちゃうべよ。これが笑わずにいられっかよぉ~。そっちもおんなじか、どれ……。へっへへへ……」
こうして峪口と施川の儚い夢は、いつもどおり淡雪のように消え去ったのだった。