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第1話幸せだったんだ

最初に…


超絶イライラ胸糞悪い話です!!

めっちゃイライラします!!

なんでこんな話になったのか分からんぐらいイライラしてます!!

ハァァァ!!!


















俺には最高の彼女が居た。

柚木さん。

柚希さんは、俺のことを「可愛い」って言う。


 こっちは真剣に、ずっと前から好きだったっていうのに、彼女はたまに子供扱いするような目をする。


でも、それが嫌じゃなかった。


 むしろ、嬉しかった。


 その視線の奥には、ちゃんと“愛されてる”って確信があったから。


 ──俺たち、ずっと一緒にいられるって。

 疑う理由なんて、ひとつもなかった。



「んー、悩むなあ。直哉はどんな部屋が好き?」


 駅前のカフェで、柚希さんはソファに体を預けながらスマホの画面を眺めていた。


 家具の通販サイトをスクロールしながら、さらっと言うもんだから、思わず飲んでたアイスコーヒーをむせそうになった。


「部屋? どういう意味?」


「いや、そのまんまの意味だけど? 新居」


「ちょっと待って。何その急な新婚感」


 笑いながらツッコむと、柚希さんはニッといたずらっぽく笑った。


「だってさ、将来一緒に住むなら、インテリアの趣味くらい合わせなきゃでしょ」


 照れてるのか、カップを唇に寄せたその仕草がやけに大人びて見えた。

 こういうとこだよなって思う。俺が彼女に惚れた理由。


「俺は……柚希さんが選んだ家具なら、何でも好きだと思う」


「そーいうとこ。かわいいって言ってんの」


 まただ、そうやって頭を撫でるの。


 なんかちょっとバカにされてる気もするけど、不思議と嫌じゃない。

 彼女の手はあったかくて、包み込まれるような安心感があった。


「私さ、恋愛って“支え合う”のが大事だと思ってるんだよね。どっちかだけが頑張る関係は続かないし」


「うん。俺もそう思うよ」


「だから、あんたが疲れてる時は私が支えるし──逆の時は、頼るから」


 その言葉が、まるで予言みたいに胸に残っていた。



 帰り道、駅前のロータリーを歩いていた時だった。

 向こうから、黒塗りの高級車が音もなく滑るように停まった。


 助手席から降りてきたのは、朝倉蓮司。

 医療法人グループの御曹司で、柚希さんと同じ学部の先輩。

 成績も容姿も完璧、社交性もある──まさに“絵に描いた王子様”。


 ただ、噂には“執着が深い”と一行ついて回る。

 柚希さんが「何度か告白されて困ってる」と笑って話してくれた相手は、たぶんこの人だった。


「やあ、柚希さん。またね」

「……」


 蓮司は柚希さんにだけ視線を向け、俺には一瞥もくれない。

 表面だけを撫でるような笑み。温度のない丁寧さ。

 柚希さんは「無視していいよ」とでも言うように、俺の袖をつまんで歩き出した。


 指先は細くて、温かい。

 ……はずなのに、そのときだけ、わずかに冷えているように感じた。



 その夜、柚希さんからLINEが来た。


《今日はバイトが長引きそうだから、先に寝ててね☺️》


 文末の顔文字で肩の力が抜ける。

 俺は検索履歴に「二人暮らし 家具 最低限」と打ち込み、

 ナチュラルウッドの食卓や狭いキッチンでも置ける棚の画像をスクショしてはニヤけた。


 未来の設計図は、スマホの中ならいくらでも広げられる。

 そう思っていた。


 ……通知が鳴る、その瞬間までは。



 夜の十時過ぎ。

 知らない番号からの着信。切り替わったSMSの差出人を見て、手の中のスマホが急に重くなる。


『朝倉総合医療センター』


 胸の奥が妙にざわついた。

 朝倉。──朝倉蓮司。

 たしか、柚希さんが言っていた。朝倉家は大きな医療グループの本家で、跡継ぎが同じ学部にいるって。


 届いた文章は、事務的で短かった。

《秋月柚希さんが交通事故に遭われました。現在、当院で治療中です。ご家族の方は至急ご連絡ください》


 意味を理解するより先に、足が動いた。

 駅まで走り、改札を抜け、タクシーに飛び乗る。

 街のライトが流れるたび、胃のあたりが重く沈んだ。



 病院の受付で名前を告げると、きっぱりと遮られた。


「面会はできません。ご家族以外の接触は医師の判断で制限中です」


「俺、恋人なんです。……お願いします、少しだけでも」


「申し訳ありません」


 淡々と、冷たささえ感じない口調で返される。

 その一点だけを線引きされた感覚に、言葉を失った。


 どうして、こんなに遠いんだ。

 ほんの数時間前まで隣で笑っていたのに。


 そのとき。


 廊下の奥から足音が近づき、彼が現れた。


 朝倉蓮司。


 白壁の光を背負って立つその姿は、舞台の照明を浴びた役者みたいで。

 俺の視線を受け止めると、ゆっくりと微笑んだ。


 ──けれど、目は少しも笑っていなかった。


 ただ、冷静に俺を測るように。

 この場所が自分のものだと、黙って伝えるように。


 何も言わず、軽く会釈してすれ違う。

 それだけで、足元の空気が変わった気がした。



 帰宅してからも眠れず、ベッドの上でスマホを握りしめていた。


 未読のままのトーク画面を遡る。

 笑顔で送られてきた写真。

 「おつかれさま」のスタンプ。

 そして──数日前のメッセージ。


《直哉は、ちゃんと休めてる? 無理しないでね。私はいつだって味方だから》


 その文章を読み返して、胸の奥に温かいものが広がった。

 彼女は優しくて、頼れて。俺にとって唯一の支えで。


 だから大丈夫。

 きっと明日には会える。声を聞ける。


 ──そう信じながら、目を閉じた。


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