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小さな竜と大きな収穫



 ルナルディの屋敷から戻った翌朝。リアは妙な気配に目を覚ました。耳に届くのは、鳥の囀りではなく、何かが割れるような激しい音。重く湿った空気の中に、何かが焦げたような匂いが混じっていて、胸騒ぎを誘った。


 寝巻きのまま立ち上がり、窓の外を覗くと、見慣れた中庭の向こうから立ち上る細かな土煙が見えた。嫌な騒めきと、鋭い声。誰かが叫んでいる。屋敷の中も浮き足立っていて、誰の姿も見えない。全員が、その何かに引き寄せられるように、場を離れてしまったかのようだった。


 ――外に、何かあったのだろうか。

 そう思ったリアは、恐る恐る身支度を整える。外出を制限されている身ではあったが、全員がそこに集まっているなら、自分一人で動いても問題はないはず――そう判断して、リアは音のするほうへ向かった。


 屋敷を出た瞬間、目を奪われた。中庭が荒れていたのだ。

 花壇は無残に引き裂かれ、古木は半ば折れかけ、彫像のひとつは地に落ちて粉々になっていた。空気はひりついていて、焦げた草の匂いが辺りを満たしている。


「おいコラ、人ん家で暴れてんじゃねぇ!!」


 そしてその中心にいて、ギルフォードから怒声を浴びせられているのは――暴れる、一体の銀色の竜だった。

 体長は大人の男よりも大きく、翼をばたつかせて咆哮を上げる姿はまさに圧巻だった。鱗は陽を反射して淡く光り、尾が振るわれるたびに地面が抉れる。周囲にはギルフォード、エルマー、レオンハルトが立ちはだかっていた。


「リア、危ないから来ちゃダメだ!!」


 レオンハルトの叫び声が、普段の彼からは想像できないほどの緊迫感を帯びて響いた。


 けれど、それでもリアは足を止められなかった。

 なぜなら――その銀の竜から、確かに聞こえたのだ。震えるような、かすれた声で。


『……痛い! 目が、痛いよぉ……!』


 心の奥に直接届くような、そんな声だった。


「待ってください! なんか、その子……その子、目が痛いって言ってます!」


 思わずリアは声を上げていた。三人が一斉にこちらを振り返る。


「はあっ!?」


 叫んだのはエルマーだった。竜が、人間に分かる言葉を発するはずがない――その常識が一瞬で揺らぐ。


「えっと、砂をかけられて……それが目に入って痛いって……!」


 リアの言葉に、銀の竜がもう一度、ぎゅっと目を閉じて呻いた。


「おい、アルバン!! マジで目が痛ェだけか!?」


 ギルフォードが吼えるように問いかけると、銀の竜――アルバンと呼ばれた竜が、小さく呻きながら、くぐもった声で応えた。


『うん……目が痛いぃ……っ』

「えっと、やっぱり目が痛いそうです!」

「はぁぁ!? そんだけでこんなに暴れてんじゃねえ!! 庭、めちゃくちゃじゃねえか!!」


 怒鳴りつつも、ギルフォードの声には焦りが滲んでいた。頭を抱えるように、荒れた髪を片手でかき上げると、素早くエルマーに目を向ける。


「エルマー! リーゼロッテんとこで、竜型用の目薬もらってこい!」

「了解!」


 その瞬間にはもう、エルマーは飛び出していた。羽ばたくような速度で屋敷を出て、広場の奥の薬屋へと消えていく。残されたギルフォードとレオンハルトは、暴れる竜を警戒しながらも、ゆっくりと近づき、声をかけ続けていた。


「大丈夫だから暴れんな! すぐ治してやっから!」

「ほら、アルバン! もう少しで楽になるから、ギルの言うことを聞くんだ」


 ギルフォードとレオンハルトの、どこか兄弟のような声音。リアは少しだけ胸を撫で下ろした。アルバンという名前の彼が、知っている顔ぶれに囲まれていることが、辛うじて事態を鎮めていた。


 やがて、息を切らせたエルマーが戻ってくる。その手には、見慣れない透明の瓶と、細いガラスの棒があった。リーゼロッテが、薬草の匂いを漂わせながら後ろから続いてくる。


「アルバン、これ……沁みないから、大丈夫よ。少しだけ目を開けてね」


 竜の眼前に進み出たリーゼロッテの声は、風のように優しく、そして強かった。暴れていた竜は、不安げにぎゅっと目を閉じていたが、やがて観念したように目を細く開けた。透明な薬が一滴ずつ、ゆっくりと竜の瞳に垂らされていく。


 一瞬の緊張。竜の翼がびくりと震えた――が、その直後、静かに、力が抜けていくのがわかった。アルバンはぱちぱちと目を瞬かせた。


『……見える、それに……もう、痛くない』


 そして――。


 竜の身体が、音もなく震え始めた。鱗が淡く輝き、その輪郭がゆらゆらと揺れたかと思うと、次の瞬間には眩い光が中庭を満たした。


「下がれ!」


 ギルフォードの声に、反射的に後ろへ退く。光が収まったとき、そこに立っていたのは――まだ幼さの残る、一人の男の子だった。年齢で言うと、五歳くらいだろうか。銀色の髪に、涙で濡れた丸い頬。瞳は濡れた石のように澄んで、ぽろぽろと涙を溢している。


「……おい」

「うわぁぁぁん!! ギル、ごめんなさぁぁぁい……!」

「だぁっ、泣くな!! 俺が悪いみてえだろーが!!」

「怖かったぁぁーーー!!!」


 ギルフォードががなるが、声はどこか呆れていて、けれど優しかった。


 男の子――アルバンは、ギルフォードの足元に抱きついて、わんわんと泣き始めた。その小さな肩を、ギルフォードならば剥がすかと思いきや、やれやれと片手で撫でる。そうしながらも、リアの方へちらりと視線を向けた。


 何かが、少しずつ変わっていく予感がした。

 竜の涙の匂いと、陽に濡れた草の匂いが交じる中庭で、リアはじっと、その光景を胸に焼き付けていた。


 アルバンの嗚咽がようやく小さくなり始めた頃、森の木々を分けて現れたのは、他ならぬ竜族の長老・ルナルディだった。彼女の足元には白銀の鱗が僅かにきらめき、風にたなびく長衣が威厳をまとっている。


「――アルバン」


 静かな、けれど凛と張り詰めた声が、空気を変えた。

 瞬間、アルバンの身体がビクリと跳ねて、小さな体がゆっくりと振り返る。銀の髪の先が、涙でしっとり濡れている。その目に、ルナルディの姿が映った。


「……お、おばあちゃ……!」

「また、勝手に里を抜け出したね? それでこの騒ぎと言ったら、もう縛りつけとくしかないかのう」


 ルナルディは一歩、前に出た。優しさを内に秘めながらも、表情は険しい。彼女からの真っ直ぐな青の眼差しが注がれると、アルバンはプルプルと震え出した。


 そして、次の瞬間――


「おばあちゃん、ごめんなさいぃぃぃ……!」


 ぴょん、と跳ねるように一度体を揺らし、ギルフォードの背後に隠れたアルバンは、再度その脚にしがみついた。ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、しがみついたまま「ごめんなさい」を連呼している。


 ギルフォードは、思わず渋い顔になった。


「だから、なんで俺なんだよ」


 小さく呟いたその声に、リアは思わず笑いを噛み殺す。そしてその視線を、改めてルナルディへと向けた。


 ――おばーちゃん、って。そういうこと?

 口には出していないはずだった。けれど、驚きを隠しきれなかったのだろう。ルナルディがため息をひとつ、深く吐いた。


「まったく……こんな失態を、来たばかりの人間に晒してしまうとはの。すまないね、リア。こやつは、わしの孫でな」

「えっ……えっと、そうなんですね。全然大丈夫ですので、そんなにお気になさらず……!」


 リアは慌てて頭を下げる。心の中で、ひっくり返りそうな驚きが渦巻いていた。あのルナルディ様に、こんなに小さな孫がいただなんて。


 だが次の瞬間、その小さな竜の子はギルフォードの脚から離れて、ヨロヨロとリアの足元へと移動してきた。


「リア……? も、ごめんなさい……」


 ぽふり、と頭がリアの膝に当たる。

 リアは、恐る恐る、その小さな頭を撫でた。震える銀の髪が、手のひらの下で小さく揺れる。


「いいえ、もう泣いてなくて偉いですね。目薬も、よく頑張りました。アルバンさん」

「え……? へへ……」


 撫でられた途端、アルバンは顔をくしゃっとさせて、にっこりと笑った。その笑顔は夜明けのように清らかで、あたたかかった。

 可愛い――自然とそんな感想が胸に浮かぶ。


 そのほのぼのとした空気を、ひとつの声が切り裂いた。


「おい、お前。さっき竜型の時のアルバンと喋ってたよな?」


 ギルフォードが、不意にリアを見た。リアはきょとんとしたまま、こくりと頷く。


「はい。多分、私の力で……」

「だとしても、竜型とは普通喋れねぇんだよ」


 ギルフォードは、近くにあった木に寄りかかり、リアの隣に目線を落とした。


「竜族は人型にも竜型にもなれるが、竜型の時は身体がデケェし言葉も通じねぇ。だから基本、こうして人型で過ごす」

「さっきみたいに、勝手に変身しちゃうこともあるんですか?」

「感情が激しく揺れりゃ、意思とは関係なく変身しちまうこともある。さっきのアルバンみてぇにな」


 ギルフォードは肩をすくめた。リアは黙ってその言葉を飲み込みながら、アルバンの頭をそっと撫でる。

 竜の子供。人の姿と、竜の姿。どちらも、確かに同じ命なのだと思った。


「……私、まだ知らないことだらけだなぁ」


 溢したその呟きに、ルナルディが口元を綻ばせた。


「ふむ……リアの『動物の声が聞こえる』力というのは、竜も含まれておったのじゃな」

「え? あ、確かに……」


 リアが顔を上げると、ルナルディは微笑を浮かべていた。その目には叱責ではなく、穏やかな驚きと、どこか喜びに似た光が宿っている。


「おぬしの力、やはり興味深いの。よい収穫じゃ」

「こっちは大損害だわ! 修理代寄越せよ、ばーさん!」

「なんと、小さい男よのぉ」

「ハァ!?」


 リアは、なんと言っていいか分からずに、ただアルバンの髪を撫で続ける。小さな竜の子がくすぐったそうに笑う、その柔らかな感触が掌に残った。


 そして彼女は思う。ここは、自分の力を薄気味悪がられたり、否定されない場所なんだ。この屋敷でなら、きっと、もっと自分のことを知っていける。

 事実が、胸の奥を静かに温めていた。



 アルバンの涙が乾き、笑顔を周囲に振り撒くようになってきた頃、ルナルディがそっと膝を折り、小さな孫の肩に手を添えた。


「さあ、帰るよ。今度は門番たちの目を盗んで出て行っても、ちゃんと捕まえるからの」


 口調こそ穏やかだが、その声には祖母らしい静かな威厳があった。アルバンは一度こくりと頷いたものの――リアの裾を握ったまま、動こうとしなかった。


「……やだ」

「アルバン?」


 ルナルディが顔を覗き込むと、アルバンはぐるぐると首を振り、リアの足にしがみついた。


「リアと一緒がいい。だから、おうち帰んない……」


 その声は小さく、けれど確かな意思を帯びていた。リアは戸惑いのまま、ぎこちなく微笑む。


「そ、そんな……お気持ちは嬉しいですけど……」


 そっと腰を落とし、目の高さを合わせる。


「おばあ様が心配なさいますから、アルバンさんはちゃんと帰らないと。ね?」


 しかしアルバンは、ぶるぶると首を振るだけだった。銀の髪がまた涙で濡れ、頬にかかったそれを気にする様子もなく、潤んだ瞳でじっとリアを見上げている。


「やだ! リアが来てくれなきゃ、帰らない!」


 その叫びと同時に、アルバンは彼女の腰にしがみつくように抱きついた。小さな手は力いっぱいで、震える指先がリアの服をぎゅっと握っていた。額を押しつけるように顔を埋め、離れまいとする身体からは、子どもらしからぬ強い執着が伝わってくる。


 ぴったりとくっついて動かない孫を前に、ルナルディはひとつ長い溜息をついてから、額に手を当てて困ったように微笑んだ。


「まったく、次はこうなるとはのう。やはり“縛られて”いた方が、静かにしてくれるかもしれんわ」


 やれやれと言わんばかりの声音に、ギルフォードがぼやくように口を挟んだ。


「クソ……しょうがねぇな」


 ギルフォードは、もたれていた木の幹から背を離し、のそりと体を動かした。腕を組み、スンとした目つきでリアとアルバンの方を見やる。


「ギルフォード様……?」


 リアが声をかけると、彼は片手で頭を掻きながら言った。


「ばーさんが言っても聞かねぇってことは、よっぽどこいつが気に入ったんだろ?」

「うん! ギルもリアも、好きだから一緒がいい!」

「なら俺とこいつで、一緒に送ってってやる。それなら帰れるよな?」

「本当!? やったー!!」


 ぱっと顔を明るくして、アルバンがまるで光が射したような笑顔で叫んだ。その顔を見たギルフォードは、ふっと気の抜けたように笑い、乱暴にアルバンの頭をくしゃっと撫でた。


「わーったわーった。我儘なガキだな」


 そう投げやりに言いながらも、その仕草にはどこか優しさがにじんでいた。


「つーことで、お前もばーさんの家まで付き合え。今さら“無理です”は通じねぇぞ」

「あ……はい。分かりました」


 リアは戸惑いながらも頷いた。戸惑いの裏には、強く握られたままの手の温もりがあった。笑って泣きながらもしっかりと、リアを繋ぎ止めようとするアルバンの指先。その熱を拒む理由など、どこにもなかった。


 こうして、まるで遠足のような帰路が始まった。


 ルナルディがゆっくりと歩き出すと、森の奥へ続く細道を、落ち葉を踏みしめながら進んでいく。頭上には古い枝葉がアーチのように広がり、風が通るたびにさわさわと音を立てた。葉の隙間からこぼれる木漏れ日が、アルバンの銀の髪に注いで、きらきらと光を弾く。


 リアはアルバンと手を繋ぎ、その横をギルフォードが警戒するように歩いていた。彼は無言で辺りを見渡し、どこか落ち着かない様子で耳を澄ませている。その横顔には気を抜かぬ戦士の緊張が宿っていたが、足取りは幼いアルバンに合わせて柔らかかった。


「ねえねえ、リアも、ギルのこと好き?」

「えっ……え? ええと……」


 突然の問いに言葉を詰まらせていると、ギルフォードがやれやれとため息を吐き、薄く笑いながらアルバンへ向いた。


「オイ、なんで俺が話題に出んだよ」


 口ぶりは投げやりで、どこか照れたようでもあった。リアはふと、そんな彼の横顔を見つめて、僅かながら笑みを浮かべた。普段は怒鳴ってばかりのギルフォードが、こうして子どもに対しては優しさを隠さずにいることが、彼の本質を物語っているようだ。

 小さな竜の涙は、大きな収穫のうちの一つだったのかもしれない


 こんなふうに、誰かと並んで歩くのは、いったいいつぶりだっただろう。

 足元に小さな石が転がり、アルバンがそれを蹴って笑った。笑い声が風に乗り、森の奥へと溶けていく。その音に、リアの胸も、少しずつ温かく解けていった。


 遠くに薄らと、ルナルディの屋敷の影が見えていた。日が沈みかけていることに気づいたのか、アルバンが小さくくしゃみをして、リアの手をぎゅっと握りなおす。リアも少しだけ手を強く返してやると、アルバンの表情がほのかに和らいだ。


 そんな静かな空気の中で、不意にギルフォードが口を開いた。


「……そういや、アルバン。砂をかけられたっつってたよな」


 気のないような声だったが、先ほどよりも僅かに低くなっていた。アルバンは足を止め、ぎこちなく笑おうとして、すぐに諦めたように俯いた。


「うん。……里を出て、森の外れに行ったら人間がいたんだ。一人だけ。なんてことない、大人の人。でも僕が姿を見せたら驚いて……そのまま、石と砂を投げつけてきた」


 淡々と語られるその声の裏には、少しだけ震えがあった。リアは心の奥が締めつけられるような気がした。確かに、アルバンの小さな羽根や瞳は、里の誰よりも目立つ色をしている。この子が人間の目にどう映るかなど、想像に難くなかった。


「そんなに当たらなかったから、痛くは無かったけど。……ちょっと、悲しかったよ」


 アルバンはそう言って、リアに向かって小さな目を向ける。その表情には、戸惑いと疑問と、淡い期待が混ざっていた。


 そんな中で、リアは、ある記憶を思い出していた。以前、屋敷の中庭に一人で出ていた時、ギルフォードが立ったままの姿勢で、静かに言ったあの言葉。


『全員が全員、人間を良く思ってるわけじゃねぇんだよ』


 竜族の中に、人間への不信を持つ者がいることを、リアはそのとき初めて知った。でも今――アルバンの話を聞いた今では、その言葉の意味が別の角度から胸に落ちてくる。

 それは竜族に対する人間側も、きっと同じだということだった。お互いに、知らない存在に対する警戒心が、無自覚な攻撃に変わることもある。知らないことは、ときに人の心を狭くしてしまう。


 アルバンが、そんな複雑なことを全て理解しているわけではないだろう。ただ彼の中には確かな悲しみがあって、それが言葉の端々に滲んでいた。


 やがて、アルバンが小さく深呼吸をし、リアを見上げてそっと尋ねた。


「……リアは、僕たちのこと、好き?」


 その問いは、あまりにも真っ直ぐで、リアはほんの一瞬心の奥を照らされたような気がした。――答えは、決まっていた。


「好きでなければ、こうして手を繋いだりしませんよ」


 リアは自然に微笑んだ。言葉に偽りはなかったし、見上げてくるその目を見れば、嘘など付けなかった。


 アルバンの顔がぱっと明るくなる。くしゃりとした笑みが浮かび、リアの袖をきゅっと引っ張るその仕草に、先ほどまでの陰りはもうなかった。

 その様子を、ルナルディは少しだけ離れた場所から見ていて、口元に静かな微笑をたたえていた。春の風を見守る庭木のような、優しい眼差しだった。


「………。」


 一方でギルフォードはと言えば、どこか言葉にしがたい表情をしていた。眉間には皺が寄り、口元もやや渋く引き結ばれている。


 それが、何に対しての感情なのか――リアには、まだ分からなかった。ただ、彼が何かを噛み締めるように沈黙しているその姿は、彼の中に何かしらの思想があるのだと思った。


 夕暮れの光が、屋敷の高台の端を金色に染めている。リアはその光に目を細めながら、アルバンの小さな手をもう一度ぎゅっと握り直した。その手の温もりは、失われてはならないものだと思った。


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