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二十  右手

 見つかったのは、右手だけだった。

 早起きの教師が、昨夜準備が終わらなかった課題のプリントを用意してしまおうと、東の通用門をくぐった時のことだった。

 ゴロンと無造作に落ちていたそれを、丸太か何かと勘違いしかけたという。

 何の気なしに近づいてひょいと覗き込み、朝もやの中悲鳴をあげることになった。

 落ちていたのは木ではなく、がっしりとした男の腕だった。

 土色の皮膚は老人のものではなく、少なくとも中年以前の若い男のものと思われる。薪を割るように適当に切り落とされた切り口は乾いて赤黒く変色していたが腐敗はしておらず、また、周囲に血痕のようなものも見られなかった。

 前の晩も東門を通った者はいたのだから、それは深夜のうちに、何者かによって置かれたものだと考えられる。

 ひとつ奇妙なのは、無骨な腕に、妙に艶めかしい光を放つ、両刃の細いナイフが深く刺さっていたことだった。

 ナイフ、というには刀身が細くて薄い。柄の部分が極端に短くて、飾り気はない。捜査に当たった者に、他に同じような刃物を見た事がある者は無かった。


 第一報を受けた地元の警察は、事件を公表せず、モスクワの中央警察に話を伝えた。腕の置かれたギムナジアが、大統領の一人息子、ユリウス=ノーマ・バートの通う学校であったからだ。

 そもそも、右腕だけでは、この腕の持ち主が生きているのか死んでいるのかもわからない。殺人、という可能性の他、何らかの脅迫、もしくは警告であることが予想されていた。

 発覚が早朝であり、生徒に事件のことが伝わらなかったのを幸いとして、捜査は、ひとまず内密に行われることになった。


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