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十六 ギムナジア《ロディス》1/2

 ここのところ晴天が続いているので、ギムナジアは毎夕、美しい黄昏に包まれる。この地方では、四季の中で秋が一番美しい。

 そして、この時期を過ぎるとあっという間に昼が短くなってしまうので、少年たちは明るい時間を惜しむように、放課後を思い思いの場所で過ごすのだ。

「ふっふっふ、甘いなアキーム。ここで僕の作戦が……」

「王子、そのユニット、沼地には進入できませんよ」

「ええっ」

「マニュアル読んでやりなよ」

「分かってないな、ロディ。マニュアルを読まねばならんよーなゲームは欠陥品なのだ!」

「ロディ、騎馬隊を出そうよ騎馬隊」

「馬を戦争に使うのはよくないよ」

 机の上に出した小型のコンピューター・ゲームを皆で囲む。それはアキームが持ち込んだ最新型で、対戦をしている者と順番を待ちながら覗き込む者で、必要以上に賑やかだ。

 いつの間にか日が沈み、薄暗くなりはじめた教室の明かりをつけて続行する。皆、このままいよいよ夕食に間に合わなくなる時間まで遊び続けるつもりだった。

 しかし、そんな教室に、飛び込んできた者がいた。

「ユーリ! ロディス!」

 ジルだった。

「ジル、どうしたの? 珍しい……」

「大変なんだ!」

 ロディスの声を悲痛な悲鳴が遮った。見ると、ジルは慌てているだけでなく、真っ青になって今にも泣き出しそうだ。

「誰……?」

 レフが不思議そうに目を細める。それはそうだ、ロディスとユリウス以外は、ジルのことは知らないはずだ。

「僕らの知り合いなんだ」

 詳しく説明している暇は無さそうだと、ロディスはゲームをアメデオに代わって席を立つ。ユリウスもそれに続いた。

「ジル、外で話、聞くよ」




「アリサが……アリサが……」

 廊下に連れ出すと、ジルは待ちきれずに声を上げる。よっぽどあちこち走り回ってきたのだろう、小さな肩が荒い息をついていた。

「落ち着いて」

「ごめん……でも、アリサがいないんだ。待ってるって言ったのに……このままじゃ……アリサが死んじゃう!」

 死、なんていう非現実的な言葉は、口にした途端恐ろしさを増す。ジルの大きな青い目が、みるみる絶望の色に満ちていった。

「彼女、苦しみだして、薬が無いって……ホテルに忘れたから取りに行って欲しいって言われたから、行ってきたんだけど……話が通じなくて、部屋にも入れてもらえなくて……」

 ジルは、恐ろしい事情を必死で説明する。

「学校で先生に言った方がいいかもって思って戻ったら、アリサがいなくなってて……探してもいなくて……どうしよう……」

「手分けして探そう」

 間髪入れずユリウスが答える。

「そうだね」

 ロディスも同意する。青ざめたジルは、肩からさげた大きな鞄を抱えるようにして、硬直した面持ちのまま二人の言葉に頷いた。

「アリサが病気だなんて、全然知らなくて……私……」

「きっと大丈夫だよ。病気はだいぶ良くなったから、今回ここに遊びに来たって聞いたし……」

 ロディスは、混乱したジルを力づけようと、小さな手をとる。走り回っていたようなのに、彼の手はとても冷たかった。


 教室にいた皆にも事情を話して、手分けして彼女を探した。

 アリサがいたという場所に三人で行ってみたが、やはり、彼女の姿はなかった。苦しい身体で、どこかへ行ってしまったんだろうか。

「かなり苦しそうだったんだよな?」

「う、うん……」

「じゃあ、この近くである可能性が高いだろう。その辺の茂みとか、暗いから見えにくいし……」

 ユリウスの言葉に、弾かれたようにジルは走り出す。確かにこの辺りには低木も多いので、アリサのような小さな少女が倒れこむと、すっかりみえなくなってしまう場所が数多くある。日も暮れて辺りは薄暗い。

 皆で必死で探した。

 しかし、アリサの姿はない。

「王子!」

 彼らと他の場所へ走っていたアキームが駆け足で戻ってきた。

「門を回って、聞いてきたんですけど、それらしい子は見てないって……」

 校内への人の出入りは警備員が管理しているから、アリサが学校を出ていれば分かるはずだ。

「じゃあ、やっぱりまだ校内に……」

 ユリウスが首をひねる。

「おおい! ロディ!」

 教室で遊びに加わっていなかったマルクを呼ぶと言って寄宿舎に行ったレフが、ロディス達を見つけて手を振る。

「マルクもいないんだ。寮にはまだ戻ってないって……」

「ええっ……?」

 冷静だったロディスが、思わず声を上げる。あんなにアリサを大事にしているマルクが、妹を置いて消えるというのは奇妙だ。

「どうしよう……」

 高くのぼった月の下で、ジルは涙ぐんで俯いた。どこを探しても見つからない気がして、だんだん、心にどす黒い影が降りてくる。

 けれど、それを唐突にかき消したのは──

「ジル!」

 他ならぬ、少女自身の明るい声だった。


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