『ふわふわの魔法』
✴ひだまり童話館・「開館10周年記念祭」参加作品です。
✴「ふわふわな話」のお題で書かせていただきました。
ある森の中に、くまさんの親子が住んでいました。
お父さんくまさん、お母さんくまさん、お姉ちゃんくまさん、そして弟のくまくんの仲良し四人家族です。
春になってある日のこと。
その日は太陽さんさんのとってもいい天気でした。
お家のお庭でお母さんくまさんは洗濯物を干していました。
パンパンパッン!
パッパッパン!
リズムよくお母さんくまさんは洗濯物を次々と干していきます。
「お天気がいいから、お布団も干しましょう」
お家からみんなの布団をよいしょ、と物干し竿にかけます。
「ついでにシーツやブランケットも洗いましょう」
ザブザブ、ザッブン。
ぐーるぐーる。
洗濯機は今日は大忙し。
色々綺麗に洗って干してとお母さんくまさんも忙しいですが気分はるんるんです。
その洗濯機の前でお姉ちゃんくまさんと弟のくまくんは洗濯物がぐるぐると回るのを眺めるのが好きでした。
お母さんくまさんが「そんなにじっと見てると目が回らない?」と心配になるほど二人は洗濯機の前に一緒になって座っているのです。
「さあお姉ちゃん、くまくん。ブランケット洗うから自分の持ってきてね」
「はーい!」
「……う、うん」
お母さんの掛け声にお姉ちゃんくまさんは元気よくお返事をして自分の部屋に走っていきます。
でも弟のくまくんは何だかもじもじしててなかなか自分の部屋に行きません。
洗濯機の前でお母さんくまさんは花の香りの洗剤を持って準備しています。
「はいお母さん、お願いね」
「はいはい任せてね」
お姉ちゃんくまさんはブランケットをお母さんに渡しました。
弟のくまくんはまだもじもじしています。
「どうしたの、くまくん」
「えっとえっとえっと、あのね」
くまくんの眉はきゅ~っと寄って口は「へ」の字です。
「ぼくの、ブランケットは今日は洗濯しなくていいよ」
「まあ、どうして。今日はこんなに天気がいいのよ」
お母さんくまさんは頬に手を当てて困ったと思いました。
そこでしゃがんで、くまくんの目を見て理由を聞いてみることにしました。
すると、
「だって、だってね。ぼく、あのブランケット大好きなんだもの。嫌なんだお洗濯が」
「お洗濯が嫌いなの」
お母さんくまさんは目をぱちくりさせました。
それから何を聞いても、くまくんはその度に違う理由を言ってなかなかブランケットの洗濯が始まりません。
そこでお母さんくまさんは良いことを思い付きました。
「ブランケットを洗ったら『ふわふわの魔法』がかかるのにな~。残念ね」
「魔法?」
くまくんのお耳がぴくりと動きました。もじもじが止まって、そろりとお母さんくまさんの方を見上げてます。
「そうよ天気のいい日には洗濯物に魔法がかかるの。くまくんのブランケットにも『ふわふわの魔法』がちゃんとかかるか、試してみない?」
「やる、やってお母さん! 今持ってくるから!」
そうしてくまくんのブランケットは洗濯機でぐるぐると洗われて、お外の一番太陽が当たる場所に干されました。
「魔法まだかなー」
「まだまだ」
窓からお外を見てくまくんはそわそわ。
お母さんくまさんは本を読みながら答えます。
「魔法、まだー?」
「まだまだ」
三時のおやつを食べながら、くまくんはお母さんくまさんに聞きます。
ビスケットを食べながらお母さんくまさんも答えます。
「ねえねえ、もういいよね?」
「ええ、そろそろ魔法がかかってるわよ」
時計を見て、お母さんくまさんはにっこりと笑って言いました。
「やったー! 魔法かかってて!」
くまくんは一番にお外に飛び出していきます。
高い所に干してあるので、お母さんくまさんがよいしょ、と取ってくれました。
お母さんくまさんから受け取るとふわり、とブランケットからはお日さまのいい匂いがしました。
くまくんはほうっとしました。
何だかとっても心がホッとする匂いです。
そして。
「すっごい! とってもふわふわだ!」
お母さんくまさんの言う通り、それは魔法みたいにブランケットがふわふわです。
ぎゅ~っとするとふわふわに包まれているみたいです。
「お母さん! すごいね! 本当に魔法だ!」
「良かったわね、くまくん」
くまくんはまたブランケットをぎゅ~っと抱き締めました。
その日の夜、ふわふわのブランケットで眠ったくまくんはふわふわの雲に乗って冒険する夢を見ましたとさ。
~おわり~
お読みくださり、本当にありがとうございました。