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[5話]

火曜日。

結構日当日。

月はまたあの忌まわしき家の前にいた。

だが今までとは違い、今回は鹿金が隣にいる。


計画の成功率は恐らく60%ほど。

これに失敗すればここら一体に近づくことすら許されなくなるだろう。


心臓の鼓動がだんだんと早くなっていく。

あぁ、これだ。

喉に心臓が移動してしまったかのようなほどの昂ぶり。

全身が熱に覆われて、未来を羨望するこの感覚…!


「俺は今!最ッ高にハイってやつだ!」


「うるさい。早くしろ」


「あ、ハイ」


鹿金に冷たい目線を向けられ、萎縮する。

インターホンを押し、聞き慣れた音が響いた。

いつもより長い間を開けて後、ピッという音が鳴った。


「…また来たんだ」


「その声は…海か」


白髪の少しミステリアスな雰囲気をまとうあの子。

天か冥じゃなくてひとまず安心だ。


「なんのよう…?私以外誰もいないけど」


「いや、いてもいなくても結構。だって」


次の瞬間、バゴォン!と破壊音が地域一体に響いた。


「!?」


海が音の鳴った方へ走って見に行く。

そこにあったものを見て海は絶句した。


「…こんにちは」


「…なに…してんの」


そこには内側にぶっ壊され、みる影もないひしゃげたドアがあった。

そこから月が入ってきていたのだ。


ドアが壊れた理由。

それは鹿金が一撃で蹴り飛ばした。

単純明快ただそれだけだ。


「…じゃあ俺は帰るぞ」


「ん。ありがとね〜」


一昨日はあれほど乗り気だったのに、なぜ今日はこんなにテンションが低いのかというと、


『なに?強行突破は俺が乗り込んで6人全滅させるのではないのか?』


『そんなわけないだろ!?そんなことしたら家庭教師なんてできるわけないだろ!!』


『ドア破壊ぐらい自分でやればいいだろ』


『出来るわけないだろ!?』


と言った感じで戦うと思っていたらしい。

恐らく冥がどれほどのものか興味があったんだろう。

なんだかんだドア破壊はやってくれたからありがたい。


「…こんなことして…よかったの?」


海は表情を崩さず淡々と聞いてくる。


「この家の持ち主には許可とってるから」


「えぇ…?」


海が「なんであの人許可だしたんだろう」みたいな困惑とドン引きを交えた顔を見せてくれる。


「たしかこう言ってたな…」



『家庭教師するためにドア壊してもいいですか?』


『…?どんな理屈かわからないけど、失敗しないのなら許可してあげよう』


『ありがとうございます』



「…今思えばよく許可してくれたな」


「…本当にその通りだと思う」


やはりあの人はレベルの違う金持ちなんだろう。


「なんで昨日は来なかったの?」


海が首を傾げて聞いてくる。


「なぜかわからんが昨日は天敵がいる気がしてな」


「…正解。昨日は天も冥も家にいた」


「やっぱりな」


金曜にも俺が来ていたことを知っているなら、月曜にも当然来ると考えるはずだ。

だから月曜日には行かなかった。

今日いる可能性もあったから、ここは本当に博打だった。


…というか天敵って言ったのになんで天と冥ってわかってるんだろ。


「…それで、家には私しかいないけどどうするの?」


「そうだな…」


今は他に人がいるかなんて考えることじゃない。

ここからは本当の博打。

俺が考えれる余地は一切ない。

ただ覚悟と本意を姿勢に見せるだけ。


月は玄関の石畳の上にスッと手を置いた。

そのままゆっくりと姿勢は下がっていき、最上級の懇願を見せるポーズをとった。

いわゆる土下座だ。


「どうやったら俺を家庭教師だと認めてくれる。頼む教えてくれ…!」


「…」


海は困惑しているのかわからないが、少しの間黙っていた。

顔が見えないからどんなことを考えているかも予想がつかない。

数秒間の静寂の後、海が口を開いた。


「…なんで家庭教師をやりたいの?」


「…それは…金のためだ!」


月は臓器のことは言わなかった。

それは同情につながる。

そんなもので認められたくないという小さなプライドが邪魔をしたのだ。


「いくら貰えるの?」


「…3年で1千万円だ」


嘘ではない。

価値としては一緒だ。


「…理由はそこそこだね。突っぱねる理由もなかったら受け入れる理由もない」


「…そうか」


是とも非とも取れない一言。

頬を伝う汗が石畳にポツリと落ちた。


「…だからわたしはあなたを試すね。ちょっと待ってて」


海はタタタタタと部屋の中へ小走りで向かっていく。

奇妙な機械音や何かを置く音など無数の雑多音がすること数分。

彼女は戻ってきた。


「…まだその体勢のままだったんだ」


「一応な」


いまだ揺るがない月の姿に驚いた様子を見せる。


「顔を上げて」


月が顔をあげると海の手には一枚のプリントがあり、それを渡される。


「…これはなんだ?」


「超名門私立高校の過去問」


「…これを解けと?」


うんうん。と頷く海。

チラリと見えたがだいぶ難しい。

けどネットを駆使すれば…


「自分の力だけで頑張ってね」


「さいですか…」


ネットはダメらしい。


「認められたいなら有用性を示して。わたしはこんなこともできない人から教わらない」


「厳しいこと言うな…でもこれが解けたら俺を家庭教師として認めてくれるんだな?」


「他の人は知らないけど、わたしだけは認めてあげる。これは絶対。約束する」


そう言って小指を出してくる。


「…お、おう」


月も同じように小指を差し出す。

2つの小指が絡み合い、海が歌い出す。


「…ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲ーむ、指切った」


海はふふふと柔らかい笑みをこぼして指をスッと離した。


「…頑張ってね」


「あぁ、ありがとう」


手を振って海は見送ってくれる。

月はその場をあとにして帰路に着いた。

帰ってからプリントを見ていたがやはり複雑で難解すぎる。

…これは一から全て学び直さないとダメか。




その日の夜。


「海!?なんで扉こんなことになってるのよ!?」


帰ってきた天が海に詰め寄る。

海は少しの間を開けた後こう答えた。


「…わたしが帰ってきた時にはこうなってた」


そう言いながら海はふいっと顔を背ける。


「この家の持ち主の人がやっちゃったらしい…だから近くのホテルで今日は泊まりなって」


「本当?あんなことになるなんて一体なにをやったのかしら…」


「なにやったんだろうね…ほらこのホテル」


そう言って海はスマホに映る今日泊まる場所を見せた。


「えっ!?ここって超いいところじゃない!!早く行かないと楽しむ時間が減っちゃう!みんなの服とかも用意しといて、帰ってきたら一瞬で行くわよ!!」

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