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[3話]

「…ダメだと思うなぁ」


またもや来てしまった。

忌まわしきあの家に。


月は彼女らの住む家の前で大きなため息をついた。

パチンと頬を叩き、心を切り替える。

インターホンに狙いを定め、深呼吸の吐く息と同時にそのボタンを押した。

ピンポーンという軽快な音が響く。

数秒の静寂の後、ピッという音がインターホンから聞こえてきた。


「はいはーい…って昨日の家庭教師の人?忘れ物でもした?」


インターホンから恵土の声が聞こえた。


「そういうわけじゃないんだが…説得しに来たというか…」


「説得かぁ…」


恵土はそれを聞くと少し長い間を空けてまた話し始めた。


「今日はあたししかいないからさ、また今度にした方がいいんじゃないかな」


「そうか…全員が揃っている日とか分かったりするか?」


「流石に全員分の予定は把握しきれてないな〜、ごめんね」


「いや、無理なこと言って悪い。ありがとう」


「ばいば〜い」


インターホンからブツっという音が鳴り、声が聞こえなくなる。

その後トットットッと階段を上がる音が響いた。

恐らく恵土が部屋に戻ったのだろう。


「…?」


会話が終わった後、なにか違和感を覚えた。

何かは分からないが何かが胸に引っかかる。

だが少し気に留めながらも深く考えることはしなかった。


「明日は全員いるだろうか」


月は次の日もあの家を訪れた。

同じようにインターホンを押すと、数秒後に同じようにピッという音が鳴った。

そして開幕1番、


「なんであんたがまた来てんのよ!!」


けたたましい怒号が響いた。

一発でわかる。

インターホンに出たのは天だ。


「勉強…する気はないか?」


「嫌よ!あんたなんかに教わりたくない!帰って!」


キャアキャアと金切り声で叫ぶ天。


「そこをなんとか!」


「嫌っ!」


「頼む!」


「しつこいと警察呼ぶわよ!?」


「…それは困る」


「じゃあ帰って!」


「クッ…」


長考の末、月は渋々帰ることを選んだ。

警察に頼られたらこっちは何もすることが出来なくなってしまう。

全員勉強させるため全員いる日に行きたいのに、天がいる日に行けば追い返されるというジレンマ。

…どうするべきか。


次もそのまた次の日もあの家を訪れた。

同じようにボタンを押し、同じようにピッと鳴る。


「…」


「…?」


しかし誰の声も聞こえてはこない。

ピッという音はしたはずだから誰かが見ているのは確実なんだが。


「…忠告しましたよね」


インターホン越しから聞こえたその一言で背筋が震え上がった。

冥だ。


「やむをえない理由がありまして…」


「…そうですか」


静かに、そして淡々とした様子で喋っている。

言葉に重みを感じ、面と向かって話しているわけではないのにとてつもなく緊張してしまう。


「…そこで待っていてくださいね」


トットットッと歩いた音が聞こえたかと思うと、シュッ…と何かが引き抜かれた音がした。

どこか聞き覚えのあるこの音。

包丁を出す時にとこんな音がなったような…


「…まさかな」


ありえないと思いつつも月の脳内に最悪なイメージがよぎる。

またもやトットットッと歩く音が聞こえる。

しかしそれはインターホンからの音ではない。

目の前にあるドアの奥から聞こえてきていた。

近づいてきている。


本能が叫んでいる。

逃げろと。


月は勢いよく走りだした。


「ヤバい殺される!!」


電話の最後に言っていたヤクザの娘ってこの人だろ!

もし捕まったら絶対指を詰められる!


全力疾走を続けること十数秒、月は後ろを確認してから地面に倒れ伏した。


「家庭教師やりたくねぇなぁ…」


命からがら逃げ出したというのにまたあの家に行かなければならない。

なぜなら俺の臓器がかかっているのだから。

行けば指、行かねば臓器。

俺の未来は真っ暗だ。

月は絶望しながらも立ち上がり、ゆっくりと帰路についた。



またもや次の日、月は例の家の前にいた。

ドキドキしながらインターホンを押し、軽快な音が響く。

今日現れたのは、


「ただ今インターホンに出ることができません。ピーという発信音の後に名前と用件をお伝えください。ピー」


「…お前木嵐だろ」


「ありゃ」


どこのオートで流れる声を真似したかは分からないが声の質で彼女だということは丸わかりだった。

そして木嵐だとわかると同時に安堵する。


「まさかわたしの変身の術を見破るとは…」


「誰でも分かるわ」


「誰でもはわからないよ!ちゃんと宅配の人を3回も騙した実績があるんだから!」


「宅配の人を騙すなよ…迷惑だろ」


「…ほんとだ」


「気づくのが遅い…」


最初から思っていたがだいぶアホっぽいな。

高校生じゃなくて3歳児ぐらいの脳みそしてるんじゃないか?


「で、何しに来たの?用もなく来ないでしょ?」


「…そうだったな」


よくわからない小ボケのせいで話がそれていた。


「全員…というか、まぁ…うん、全員いるか?」


冥以外いるか?と聞こうと思ったがどこか忌避感を覚え、結局言えなかった。

冥はもういないものとする。

いたらもうそういう人生だったのだと。

そう考えれば天はだいぶマシな方だったんだなぁ。


「あー…わたしだけしかいないなぁ…今は」


どこかしどろもどろした様子で答える木嵐。


「そうか…明日明後日は休みだが全員忙しいのか?」


「私は両方部活あるから忙しいな〜。他の人は…まぁ…全員…忙しい…よ?」


「…?」


前半ははっきりと喋っていたのに後半はふにゃふにゃとした言動。

どこか引っかかるが…まぁいいか。


「それならしょうがないか…ありがとな」


「…あ、はい!さようなら!」


最後までどこかに気を取られた様子で話していたな。

何に気を取られていたかは知らないが。

しかし土日にこの家に訪れなくていいのはありがたい。

カフェに行く約束を潰したままだったからな。

連絡してみるか。

月は柔と鹿金に連絡をとり、無事日曜日に集まる約束を取り付けることができた。

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