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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏から

作者: 浅井湯舟

夏から





僕は冬がずっと好きでした

外の銀世界、雪が乱反射して眩しい朝の登校時間、クリスマス。何よりお風呂上がりに外へ出て、オリオン座を探す時間が僕のルーチンでした。

でもあの出来事から夏も好きになったんです。


僕が中学生の時だった、よく言われる中だるみと呼ばれる二年生の夏でした。

学弁にも精が出ず退廃した毎日を過ごしていました。

授業では寝て過ごし、先生に下敷きで叩き起こされよく喧嘩していました。

「いってーな何すんだ!」

「誰に口聞いてんだ馬鹿野郎」

そんなやりとりを見てみんなは苦笑していました。そんな僕にも学校へ行く理由があったんです。部活と、そしてガールフレンドでした。しかし私が入っていたのはスケート部で夏は本当にすることがない、毎日トレーニングとダッシュ、

週一で近くの運動場を借りて、ローラースケートでした。氷と違って、硬い地面をローラーで走る感覚は似ても似つかず練習にすらならないような感じでした。

彼女も同じ部活に入っており、トレーニングは男女別れてしまうため、少なからず毎週木曜日が楽しみではあったんです。

でもスケートが好きな身からしたら夏なんて暑いだけの季節、カンカンの太陽、湿った大気のせいで汗っかきな僕は死にたいと言っても過言でない様でした。

花火を見てもなかなか気持ちが盛り上がらず。早くイルミネーションを見に行きたい思いでした。

夏休みに入る前でした。校内で噂が回り始めたんです。転校生が来るらしい。

さらに海外から来る。

急に校内はその話で持ちきりになり、一体どこから来るのか、男なのか、女なのか、髪の色、目の色さまざまな話題が飛び交っていました。ある生徒が先生に聴いた話だと、夏休み中に来ると言うことで、結局9月までお目に掛かれないみたいで、単純な中学2年生は飽き飽きしてしまい、すぐに噂も忘れたみたいでした。

クラスではあちこちから、

「花火大会いつだっけ!」

「海行こう!」

暑苦しい会話がどこかしこから聞こえてきて、言葉の熱に焦がされそうな気持ちで早く家のエアコンに当たりたい。

なんでエアコンが無いんだ!と

叫びたい思いで脂汗が煮えたぎる額を隠しながら、終業式を迎えました。

家に帰り、部活のトレーニングも行く気が無くなり、夏休み中は全てサボってしまおうかと考えていました。

木曜日だけ行こう。一緒に帰るためだけに、遅く行こう。そう考えて初日の日曜日を迎えました。

塾も入らず、お祭りに行く気も起きず、家でチャットのゲームに勤しみ、あっという間に木曜日、せっかくの長期休暇の一週間を消費しかけて居ました。

気だるい思いで木曜日を迎え、寝汗で少し臭う体を洗うために34度くらいのシャワーを浴びて、体感気温34度はありそうな外へ出ました。一週間弱、エアコンの人工的な涼しさに慣れてしまっていた僕は外へ出るともう焼けてしまいそうな思いでした、いや、湿度も高いので茹で上げられると言った方が適当かもしれません。サドルが卵の白身を白濁させれそうなくらい、ホットになっている、そのフライパンの様なサドルに乗って、向こうの陽炎に向かって漕ぎ始めました。「運動場に着けば、涼しい」それだけを考えていました。

運動場に到着し、もうフライパンに腰を下ろすのは勘弁ですので、日陰にハンドルを止め、鍵をかけました。鍵の取手すらも空熱くなっており、苛立ちをさえ感じました。

ようやく涼しい箱に入れると思いドアを開けましたがいつもの18度くらいのエアコンではなく、きっと設定温度は27度くらいだったのでは無いでしょうか。

熱燗からぬるま湯に移っただけでした。

「結局暑いやないかい!」自分の中の近畿地方が叫びましたがもうどうしようもないので、体育館へ向かいました。

そこには彼女は居ませんでした。

僕は忘れていたのです。あいつは昨日から、北海道の知床とか言うところへ旅行なのでした。完全に忘れていました。

なんでここまで自転車を漕いだのだろう。

本当につまらない。

「あいつだけ避暑地へ飛びやがって!

ふざけんな!」

そう感じながら、来てしまったものは仕方がありませんので、とりあえずローラースケートのコーナーへ行きました。

そこにはいつものメンバーが居ましたが、1人見知らぬノッポが駆けていました。

長い金髪、綺麗な青い目、高い鼻、初めて見るその、のっぽに僕は釘づけになりました。なんて、美しいんだ

そう感じました、ガールフレンドがいる。そんな背徳感も感じながら、その美しい人に夢中になっていました。

そんなのっぽが僕に前にとまって

きっと事前に勉強していたんだろうと感じる

下手くそな日本語で話しかけてきました。

「私カールって言う

よろしくねがいします」

僕は日本語が上手と言うことより、

そののっぽの声の太さに驚きました。

彼 は男だったんです。ずっと、女だと思っていたんです。

「僕はしゅうという名前だよ。

宜しくね

ナイストゥミーチュー?」

「はははは!you too.

私はねドイツのハンブルクにいた」

ドイツ人だった。

あまり欧米の区別がよく分からなかった阿呆な僕だけどその阿呆とすぐ意気投合してくれました。

毎週木曜日の目的が彼女から入れ替わり、それ以外の日もたまに遊んで、街を紹介したり、牛丼のうまさを教えたり、日本のお祭りや花火の話も教えた。

僕はあまり好きではなかったので、きっとさぞつまらない様に話した筈であったが、彼はその青い瞳を輝かせて、聴いてくれていた。

彼女が、あの避暑地から帰って来たが、彼女はいつも僕が話しかけるまで他の子と滑って、いや転がっているので、僕があのノッポと仲良くしているせいで、全然話さなくなってしまった。

僕は、次第に浮気している、いや、彼

カールという男といる筈なのに、

他の女子と帰っている様な罪悪感を感じる様になっていました。


僕は彼とプールへ行きました。それまでは水浴びなんて下らないと感じていたのですが、彼があまりにも熱心に語るものですから、僕もついて行くことにしました。一緒に着替える時、彼の裸体を見ました。彼は所謂、漢らしい体つきで、腋下や胸には縮れた金色の毛が生え、それに釘付けになってしまいました。

2人で水に入っている間も、彼の肉肉しい体と、腕を上げた時の林と、彼に生えている欧米サイズの、物を見てしまいました。もう僕の頭の中に彼女の影は、有りませんでした。

いつも通りに、僕がローラースケートを転がしていると、彼女から話しかけてきました。

「最近来てくれないじゃん

何か嫌なことでもした?」

「いや、最近楽しそうだから、そうっとしていただけだよ。」

「そっか。あんたさ、スマホもまだ無いんだから。ね」

夏休み明けには彼女とはお別れしました。

夏休み中に花火大会があるとのことで、

あの目を光らせていた彼がどうしてもというので、僕は彼と行きたくなりました。空で爆発するだけの花火は正直気乗りはしませんでしたが。彼となら行く気になれました。その頃には、部活がない日も遊ぶ様な仲になっており、僕は感情を抑えるのに必死でした。

花火大会は夏休み最後の日でした。明日から学校、課題も山の様に残っており、一緒に打ち上げてくれないかと考えながら、支度をしました。その日は夜が冷えるということで、薄めのロンtと、エドウィンのジーパンを履いて、いつもの、待ち合わせ場所へ向かいました。

彼は、袴を着て来ました。僕はもうダメでした。会場に着いた時、彼の袴が死装束になっていることに気がついて、神社の大木の裏で彼の袴を着付け直しました。彼は慣れない和服を着て汗をかいていました、彼の袴の前がはだけて、僕の好きな胸元が見えました。汗と彼の体臭が混ざった匂いがまじまじと感じられて、

僕はクラクラしました。必死の思いで仕立て直して、一緒に歩きました。彼は慣れない雪駄を履いて、足が疲れたというので、僕と足元を交換して彼の雪駄を履きました。少し生温かい感触が僕の肉欲をそそりました。彼と屋台を練り歩き、彼はあるお店の前で止まりましたそれはわたがしでした。

「あれは何!?雲みたいだ」

「あれは綿菓子って言って砂糖で作られてるんだよ?made from sugar」

「並ぼう!」

彼と並んで、綿菓子が彼の白い手に渡されました。白い手と綿菓子、彼の口に綿菓子が運ばれて、口で溶かされて、僕も溶けそうな顔でそれを眺めていたと思います。

「おいしいねわたがぢ!」

「わたが し ね笑

僕も好きなんだそれ」

彼と他愛のない話をしていると、背面で大きな爆発音が鳴りました。

「oh!!なんて美しいんだ」

「うん」

僕は花火を見ていませんでした、花火の光に反射する彼の顔を眺めていました。

金色のロングヘアがさらに輝き、彼の頬はまるで僕の好きな雪の乱反射の様でした。僕はもうダメでした

「僕!、お前のこと好きだよ」

「私も君、好きだよ」

「え、」ドン

僕の感動詞は爆発音によってミュートされてしまいました。僕はなんとも言えない気持ちで帰路へ向かいました。

その夜は彼の返事の事ばかりを考えながら、山積みの課題に勤しみました。

夏休み明けの登校日の朝、朝食を食べながらニュースを見ていました。

海外の日本にはない文化!という名題の特集が組まれていました。

挨拶についてでした

ーーー

「海外の方はとてもフランクに好きや、愛しているを使うんですよね。」

「はーあなるほど、日本でそれを使うと、勘違いが起こりそうですね」

ーーー

僕は戦慄しました。

僕と彼は同じクラスでした

先生は彼を紹介しました。


「私カールといいます。

ドイツから来ました。

日本語ぜんぜんだけどよろしくおねがいです。」


休み時間に入ると彼の周りには人集りが出来ており彼と目が合いました。

僕のところへ行きたいけど、人集りの相手をするのに困った様な目線でした。

僕は少し助かったような気持ちでした。

結局話さないまま帰路につきました。

彼女に呼び止められました。例の話です。

冬の様に寒い帰路でした。

9月、残暑を感じさせないカンカンの太陽は僕を出迎えてくれました。

思い出すと、僕は夏を好きになったのではない、夏の風物詩と共に、異国からやってきた彼の暖かさの中にある冬の様な性質を気に入っていたみたいです。

僕は冬が好き。

彼のことは忘れられません。

もし来日したのが冬だったら。

僕の1番好きな季節は何になるのでしょうか。


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