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三つ目のプレゼント  作者: 里井雪


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母への悔恨

 あなた! そこの、あ・な・た。そう、そうよ、あなた。まったく、なんなの、天上天下唯我独尊、この女神様の呼びかけをシカトするなんて、無知蒙昧なブタ野郎が、いい根性してるじゃないの!


 う、ううーーん、ああ、ちょっと言いすぎたわね。って、なに、そのニヤけた顔は? 「ブヒー! ブヒ、ブビ、美少女に罵倒されるが夢だった」って、ねぇー、へ・ん・た・い!


 でもね、よく見えてご覧なさいよ、自分のこと、あそこに姿見あるでしょ?


 ほら、ほら、ほら、ほら、ほら……。


 そう、そうよ、あなたは女性、それも妙齢のね。昨日買ったピンク系のシャドウがよく映えるブラウンの瞳、ビューラーの使い方も上達してきてアイメイクは完璧。流行りを意識した、少し太めの眉、なかなか決まっているわよ。


 二十五歳、ちょっと身長が低いことを気にしているけれど、ダイエットを意識するほど太ってもいない、まぁ、まぁ、見た目は悪くないと思っている、あなた。そして何より、昨年結ばれた生涯の伴侶。辛いこともあったけど、今は、彼と二人、幸せな日々を過ごしている。


 そうよね。いろいろあったわね。あれは十年前だったかしら。




「なに、これ! こんなのいらない!」


「えーー、このコート、この間、いいって、言ってたじゃない! 駅前のRumineで、歳末の半額セールしてたから」


「違う! 同じデザインだけど、私が欲しかったのはピンク色の方、レンガ色? ダッサイ色だから売れ残ってただけじゃない。こんな変なコート、恥ずかしくて着て歩けない!」


「そ、そう……」


 そうよね。こう言いながらも、あなたは自らの言葉に、とてもとても後悔していた。あなたが生まれてまもなく離婚して、シングルマザーとなったお母さん、多忙を極める看護師の仕事をこなしながらも、一生懸命、あなたを育ててくれた。


 だけど、裕福とはいえない、母一人子一人の生活。あのコート、半額だったとしても、家計にとっては痛い出費であったには違いないわ。お母さんは清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちで、買って来てくれたんだと思う。


「じゃぁ、仕方ないわね。RUMINEは八時までやってるから、返してくるわ。レシートもあるし、バーゲン品でもすぐなら返品受け付けてくれるでしょう」


 この時のお母さん、我儘なあなたを叱るでもなく、とても落胆していた、肩を落としていたこと、気付いていたからしら?


 でも、振り上げた拳をどう降ろしていいのか、分からなくなっていた、あなた、プイと背中を向け、無言で自室に入ったのよね。


「じゃいってくる」


 それが、あなたが聞いた、お母さん最後の言葉だった。コートを返品をした帰り道、自動車の暴走事故に巻き込まれ、お母さんはこの世を去ったのだから。


「なんで、あの時、あんなことを言っちゃったんだろう?」


「もし、私が素直にコートを手にしていたら、お母さんは返品に行かず、事故に巻き込まれることはなかったはず」


「それに、それに……。喧嘩をして『ごめんなさい』も言えないまま、お母さんは逝ってしまった……」


 苦い苦い悔恨の念に、あなたは苛まれた。


 それから、あなたは、お父さんに引き取られる。既に再婚し、連子もいる家庭に入った、あなた、虐められることはなかったけれど、肩身の狭い思いは常にあった。


 因果応報、これは、私がお母さんに酷いことを言ってしまった報いに違いない。そう思って、あなたは、それから何年も俯き加減に過ごした。


 あのね、でもね、人生っていうのはね、たくさんの後悔という重荷を背負い、遠き道を行くもの、それが普通なのよ。


 母の後を追い、看護師への道を選んだ、あなた。戴帽式の日、蝋燭の揺らめきをながめていた時、なぜか、あなたの中で、現実を受け止め、前向きに生きる決意が芽生えた。


 そんな考えを持ち始めた人、私が見捨てるはずないでしょ?


 だから、こうして、あなたの元に来てあげたんじゃない? 彼氏との出会いだって、私がセットアップしてあげたんだからね。感謝しなさいよ!


 そうそう、そういう感じ、口角を上げて、その笑顔、それでいいのよ? 


 うんうん、よくできました。とってもとっても頑張った、あなただから、天国のお母さんから、ささやかなプレゼントを三つ預かってきたわ。


 どんなの? ですって。ウフフフ……。それはねぇー ひ・み・つ♪

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