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3 部屋呑み雑談


3


「ほんともう当てずっぽうだな。俺の所にも『貴方が王子ですか?』と何人か来たぞ」


 期間終了まで後十日という切羽詰った状態。


 相変わらずクーデノムとマキセは我関せずと雑談していた。


「私の所にも来ましたよ」


「お前のとこにもか」


「えぇ、でも内容は『誰を王に選ぶつもりですか?』と」


「もう諦めたか、次期王に取り入るための算段かな?」


「そうですね…考えてみたら臣の方って、王の子を探すより私に意中の者を選ばせる方が楽なんじゃないですかねぇ?」


「ん? なんかあったのか?」


 なんか愚痴っぽい物言いに、いつものクーデノムらしくないのを感じて、マキセが問う。


「ここ数日、やけに出くわす方がいましてね……」


「へぇ、文官? 武官?」


「いえ、女性ですね…名前は言ってたかもしれませんが、忘れました」


「ひでぇ」


「これでもかと着飾って、偶然を装って近づこうとして角で待ち伏せしているようなんですよ」


「クーデノムの勘違いじゃなく?」


「彼女が振っている匂いのキツイ香水の香りが漂ってくるので…」


「……クーデノムに恋心を持った娘さんかもしれないじゃないか」


「『さぁ、声をお掛けなさい』とばかりの態度で、もしそうだとしてもイヤです」


 はははとマキセは苦笑した乾いた声を漏らす。


「私は無視していたんですが、警備の者が不審者? としてか声掛けをした時に、どこかかの武官役職の令嬢とかなんとか言ってたようです」


「あぁ、クーデノムに探りを入れに来たか、今のうちに仲良くなってあわよくば縁戚にという類か」


「たぶんね」


 いつの間にか無くなっていたグラスに果実酒を継ぎ足す。


「ふーん、クーデノムの女性のタイプって知らないなぁ」


「そうですね。私もコレと言ってないですから…でも、化粧オバケ…いや、妖艶なのは苦手ですね」


「わははは」


「そういえば、マキセも女性の噂は聞きませんね、モテるでしょうに」


「うん、それは否定しない」


「…そうですか」


 クーデノムが野暮なこと言ったと呟いて果実酒を一口飲み、マキセも飲む。


「これ、うまいなぁ」


「北陸のリサニル産。軽くて果実の甘味もしっかりあって、最近のお気に入りなんです」


「今の所、王の子息を見つけたという話は聞かないな」


「ですね。文官の財務官とか、武官の警備官とか、下町や王の故郷とかに使いを出しているとは聞きましたけど」


「若い武官共は、面倒なヤツが成らなければいいやって思っているけどな」


「あはは」 


「王になりたくないんだから、真正面から『王のご子息ですか』と言われて『はい』と返事する訳ないだろうになぁ」


「そこは聞かれたら素直に認めないと、賭けにならないと思いますよ。説得するのは難しいでしょうけどね」


「やっぱりこの国に生まれた勝負師の血が騒ぐのか?」


「かもしれませんね」


 くすくすくすとクーデノムは楽しそうに笑う。


 果実酒を二人で一本空けてほろ酔い気分。


 北陸のリサニル産高級果実酒の酔いは穏やかでついつい飲みすぎてしまう。


「マキセは探さないんですか」


「知らないヤツを王にして側にいるのもなぁ……」


 不意に真剣な表情でクーデノムがマキセに問う。


「マキセ…王になる気はないですか?」


「あははははは……ないよ。俺なんかじゃ務まらんだろ」


「そうですか? 誰に対しても物怖じしない態度は向いてると思いますけどね」


 武官として腕も立つが、仕草や立ち振る舞いも普通の庶民に比べて綺麗なのに気付いている。


 商人などの護衛として必要で身についた部分もあるだろうが、平民から官吏になる者が多いクスイ国にとって、必要な人材だと思っている。


「クーデノムこそ」


「え?」


「王の子を説得出来なければお前が選ぶ。誰もが王や側近になれる可能性があるが、クーデノムが王になれないじゃないか」


「私にその気がないから別にいいんですよ。今のままで充分なんですが。でも現状の様子だと側近になる可能性は高いですね……」


 複雑な苦笑いを浮かべる。


「そうだけどな…クーデノムが王の子なら説得して側近になるのもいいかも知れないんだが」


「…その言葉、そのままお返ししますよ」




 ● ● ●


 今の所、『誰も貴方が子息ですね』と面と向かって言ってきた者はいない。


 気付かれていないと安堵するものの、当日まで気が抜けず気分は重い。


 父の真意は文官、武官の高官達の繋がりを把握することだろう。


 誰が側近の地位を求め、誰に情報を渡すのか。


 貴族がいないクスイでは、国政を官吏が行っているため、一代限りの役職権利だ。


 家ではなく、人同士の結びつきのため、見えにくい部分がある。


 賭博の国として国を発展させるために、しっかりとした法整備を狙ってのこと。


 自分の利益だけを求めるような者が増えると、内政崩壊は避けられない。


 その意見には賛同するが、面倒なことを押し付けないでほしい。


 父が王になってからも、気づかれず変わらず平民として生活してきたのに。


 ため息をつく。


 定期連絡。


『まだ説得はされていません』とメモを書き、王に提出する書類に潜ませる。


「期限は明後日か……」



次が最終話です

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