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1 部屋雑談

 1 部屋雑談



――コンコン


 扉をノックされる音に気付き、自室で書類の整理をしていた青年、クーデノムは机上から視線を上げた。

 

淡い茶色の短髪が動きに合わせて揺れる。


「…クーデノム? 寝たか?」


 返事がないことに少しためらいがちの声が扉の向こうから聞こえてきた。


 声の主はよく知っている友人のもの。


「あぁ、どうぞ開いてますよ」


 その言葉に従って扉を開けて部屋へと入ってきたのは同じ年頃の青年。


 濃い茶色の長い髪をひとつに束ねた、なかなかの美男子。


「まだ仕事してたのか?」


「大丈夫です。急ぎの仕事でもないから」


 そう言いながらクーデノムはペンを置くと、机に散らばった幾つもの書類を重ねて片付ける。


 23歳という若さでありながら、数年前から王宮の国王近くに務める文官として、忙しい毎日を過ごしている。


「それよりどうしたんです? 相談か?」


「……相談というよりも、雑談だな」


 彼、マキセはそう言って慣れた仕草で部屋のソファへと腰を降ろした。


「あれから1ヶ月、まだ何のウワサも聞こえて来ないなぁ」


「……あぁ、そのことですか」


 クーデノムは棚から取り出した軽めの果実酒をグラス2つに注ぎ、ひとつを彼にすすめて向かいのソファに座った。


「皆さんは、王子探しをやってますか?」


「そうだな。過去の王の足取りを追って、あっちこっちと使いを出してるようだ」


 たいして興味なさそうな口調だが、楽しんでいることは明白だ。


「王子が見つかるのは時間の問題でしょうかね」


「さぁ、どうだろうなぁ」



 ● ● ●


 ここは南大陸の南中にある『賭博の国・クスイ』と呼ばれる小国。


 1ヶ月程前に突然、王宮に仕える臣の文官・武官を集めて国王から告げられた言葉。


 それが現在の王宮の騒ぎの元になっている。


 賭博の国と呼ばれるこの国は、元々ひとつの領地が独立した小さな国だ。


 何もなかった土地に賭博で人が集まり、栄えて大きくなり自治権が与えられ、ひとつの国として認められるようになった、まだ歴史の浅い新興国。


 そのため王家だの貴族だのと堅苦しい身分の風習があまりないという、気ままな国であるために、国の統率者である王の後継者は王が独断で決定する。


 それは親族でも他人でも、誰でも構わない。


 もちろん国を治めるためにある程度は武官、文官の高官たちからの支持も必要になるが。


 そして現国王マカットの言葉は皆の意表をついていた。


「先に、次期後継者を決めておこうと思う」


 在位10年程しか経っていないマカット王は、笑みを浮かべて楽しそうに言った。


 まだ50代ということもあって、まだまだ在位を維持できる年齢だ。


「それでだ。実は私には血の繋がった息子がおる」


 集まった王臣の誰もが初耳!という驚きの言葉を表情に顕していた。


「それが私と違って学もあってよくできた息子なんだよ」


 ふっと国王としての表情を崩すも、複雑そうな笑みを浮かべる。


「しかし、そいつは王の後継者になるのを拒んでおる」


 ざわざわとざわめきが広間一杯に広がっている。


「今から三か月の間に、息子を説得して王になることを承諾させた者には、次期王の側近の位を授けよう」


「・・・ご子息はどこにおられるのですか!?」


 少しでも情報を得ようと質問をする臣下達だが、


「内緒だ」


「は?」


「息子にもこの話は伝わっている。三ヶ月の期間で、彼を見つけ出し説得してみろ」


 楽しそうに告げる王に皆、毒気を抜かれポカンとするばかりだ。


「その間で説得できなければ・・そうだな・・・」


 王の側に控えていた文官長の側にいる青年文官に目を留めると、笑った。


「このクーデノムを側近にして次期王を選ばせることにしよう」


「王!? 何を……」


 彼の驚きと抗議の声は広間に沸きあがったどよめきで消されてしまった。


 満足そうに声を上げて笑う国王に何も言い返せないまま、クーデノムは大役を押しつけられてしまったのだった。



 ● ● ●


「毎回、いろんな方法で王を決めているとは聞くが、今回は皆、意表をつかれたようだな」


「現王は勘の良さを先王に認められて王になったと噂で聞きましたけどね」


「さすが『賭博の国』といったところか」


「そうですね」


 クスイは小国ながら王都は栄えていた。


 それは一攫千金を求めて各国から人が集まってくるからだ。


 賭博の国。


 合法的に国が管理した賭博が日常に行われているのだ。


 様々な遊戯施設が存在し認められている。


 しかし国の利益として入るのは掛金ではなく、訪れる客の宿や食事といったサービス業のみ。


 掛け金は全額遊戯者へ還金される。


 悪質な賭博を行った者は厳重な罪として処されるので、遊びに来る者も安心して遊べる環境が整っていた。


 そんなクスイの国では遊び心や賭けの勝負を楽しむという、国民性が根付いていた。


「王もコレをするために子供の存在を隠していたのかな?」


「・・・あの王ならありえるかもしれませんね」


 1か月の間に、マカット王から王子に関するいくつかの情報を臣下たちは聞き出していた。


 マカット王は王位を継いでから単身、家族と離れて王城で生活していた。


 家族は元の土地に残していたらしいが、数年前に引っ越しして現在は王都に住んでいるとのこと。


 成人した男性であること。


 たくさんの噂話が飛び交うが、確実な情報をつかみどう行動していくのかも、王宮に務める官吏たちのいろんな実力を知るいい機会。


「で、クーデノムはもう決めたのか? 誰を王に選ぶのか」


「・・・いえ」


「突然、誰かを選べなんて、面白いこと考えるよなぁ」


 ソファでくつろぎながら、それでもちょっと楽しそうではあるマキセ。


「また何で俺が選ぶのか・・・」


 苦笑交じりでぼやくクーデノムに笑いながら、それでも目は本気でマキセは言う。


「それは王から信頼してもらってるからだろ」


「信頼? 押付けのような気もするが…」


「今までの仕事でも、無理難題をきちんとこなしているからこそじゃないか」


 下町の役所の手伝いから実力で認められて推薦され、王城の文官になったクーデノムの経歴は、官吏の専門学校出身が多い文官の中でも珍しい。


 今でも、文官長ハイニの補佐官として従事している。


「そういう所はしっかり見てるよなぁ」


「誉めてもコレ以外は何もでないよ」


「あはははは 今日はコレだけで我慢するよ」


 果実酒の入ったグラスを軽く持ち上げカチンとぶつけると、二人は喉を潤した。





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