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斯くて雌羊は血に餓えぬ  作者: 空烏 有架(カラクロ/アリカ)
序章 斯くて女は血を求む
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0-05 その剣は振るえない

 鳩尾に一撃を喰らったアトレーゼは気絶した。

 いかに不死身のごとき身体でも斬られれば血を流すし、内臓が揺れれば意識も失うものらしい。


 ヴィルは抱えていた女の身体をその場に下ろすと、これからどうするかを考えた。


 戦えば勝てる。

 女は少なくともヴィルよりは強くないし、見たところ人並みに焦りもすれば、疲労を感じないわけでもなさそうだ。

 やり込めることは可能だが、しかし延々と付きまとわれてはたまったものではない。


 しかし改めて見ると、やはりいい女だった。

 顔の造りは個人的な好みがあるとしても、整っていることは事実だし、何よりそれ以上に魅力的なのは首から下のほうだろう。


 抱えたときに感じた肢体の柔らかさと、布越しにもわかる肌の張り。

 そして今は引き裂かれたドレスの胸元から、半ば零れてしまっている豊かな双丘の、木漏れ日に照らされるその白さと艶めかしさがひどく眩しい。

 敢えて下衆な表現をするなら、ぜひ一晩お相手願いたい身体の持ち主である。


 殺せないなら弱味でも掴んで脅すか、などと腹黒いことを考えながら、ヴィルはおもむろに傍に転がっていたアトレーゼの大剣の柄に手を伸ばした。


 これほど大きな剣は初めて見たし、引退したとはいえ戦闘技術者としては興味が引かれたのだ。

 女が扱えるのだから軽い造りになっているはずだが、さきほど打合った感触では見た目どおりの重量を持つようだった。その矛盾がどうにも気になる。

 それにこの女をどうこうするのなら、まず武器を取り上げておくに越したことはない。


 果たして、ヴィルは剣を持ち上げることができなかった。

 もはや重い軽いという問題ですらなく、動かすことさえ不可能だった――まるで地面に杭で打ち付けてあるかのようにびくともしないのだ。


「なんだ……?」


 わけがわからないが、そういえば、この剣は女の身体から飛び出してきた。

 不死身の肉体を持つ女から。


 さすがにぞっとしたヴィルの無骨な手の上に、そっと、白くほっそりとした女の手が伸びる。


「……あなたに、それを扱うことはできません……」


 もう起きたのかと驚愕するヴィルを後目に、アトレーゼはこともなげに大剣を引き寄せると、それを杖のようにすがってその身を起こした。

 ヴィルは即座に剣を構えるが、アトレーゼは動かない。

 というか、さすがにもう立つので精一杯のようで、彼女の脚は震えている。


「おい、おまえ一体……」

「また後日、お伺いします。本日は失礼いたします……」


 かすれた声でそう告げ、律儀に会釈までしながら、アトレーゼはふらふらと帰っていった。



 追うべきだったのかもしれない、とヴィルが思ったのは彼女の姿が完全に見えなくなってからだった。

 本当に教会の人間だというならそこに彼女を送り込んできた者がいるのだろうし、乗り込んで直談判するべきなのではないか、と。


 いやしかし、恐らくそこには不死身の女が複数待ち構えているはずだ。何人いるかは知らないが、ヴィルでも一度に全員を相手にするのはさすがに骨が折れるし、危険だろう。

 それにそもそも、あんな異常な刺客を寄越してくる相手に話が通じるとも思えない。


 いい方法が思いつくまでは都度アトレーゼの相手をするほうが安全だ。

 それにものは考えよう、定期的に若い女が訪ねてくると思えばそう悪くない、……のかもしれない。


「もうちょい愛嬌のある女ならもっといいんだがな」


 などと考えてへらへら笑えてしまうあたり、まだヴィルには余裕がある。


 もちろん対策もした。

 彼女が来たらすぐわかるように、畑の周囲には獣避けの鈴をちょっと改造したものを取り付けてある。


 それに、負ける気など微塵もないとはいえ、万が一を考えて、久しぶりに剣を振るようになった。

 傭兵時代は日課だった素振りも、もうしばらくやっていなかった。それを再開したのだ。

 どんな達人でもやらなければ腕は鈍るし、どんな名刀も、磨いてやらなければ(なまくら)の鉄片になってしまう。


 そうしてヴィルが万全の態勢を整えたところで、やはりあの女はもう一度やってきた。



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