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サービス終了したオンラインゲームに取り残された二人の話  作者: 十兵衛
第一章 最後の戦い、始まりの戦い
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第2話 週末の過ごし方



『おはよう。起きたよー。今どこにいる?』


 ゲーム内のメッセージを読んで朝だと気が付いた午前五時過ぎ。画面の左上には『トトさんがログインしました』というメッセージが表示されている。気が付いたら朝、こんな休日を何度繰り返してきたことだろう。


『おはよう。グレノア砂漠でレベル上げしてる。北の石像近くの、いつもの狩場』


 俺はモンスターを倒す手を止めてトトに返事のメッセージを送った。その時にふとシステム欄のカレンダーに目をやってみると、いつの間にか日付が変わって八月三十日の土曜日となっている事に気が付いた。


「そうか、もう三十日なのか」


 思わずそんな言葉が口から零れる程に、時の流れは速かった。



 それから少しして、パチパチと弾けるような音と共にトトがやってきた。彼女は炎の翼を背中に生やし、晴れやかな笑顔で空を飛んでいた。俺を見つけて「おはよぉ」と気の抜けた声を出してるあたり、本当に起きてすぐだったのだろう。普段から柔らかい印象のトトなのだが、今日はいつにも増してふにゃりとしている。


「おっとっと、おーい、イヨ君。今日もやってるね」


 少し離れた所に降り立ったトトがこちらに向けて大きく手を振っていた。俺は目の前にいたミイラ型のモンスターを蹴り飛ばし、小さく手を振り返す。


「そっちに行くね!」


 と、トトが言う。しかし、その声と炎の翼の魔力に反応したのか、俺の周りを取り囲んでいたモンスターの数体がトトの方へ体を向けて駆け出した。


「トト! ――あ、いや、まぁ、大丈夫か」


 俺は咄嗟に大きな声を出してしまった。しかし、そんな必要は全く無かったのだ。だって、トトだから。トトなのだから。

 案の定、トトは迫り来るモンスターの攻撃を悠々と、そして器用に躱しているようだった。大きなモンスターが壁になって向こうがどういう状況かは分からないが、時々モンスターの頭の上を楽しそうに跳ね回るトトの姿がこちら側からでも見えた。


「おはようイヨ君、レベル上げは順調?」


 巨大な猪型のモンスターの陰から現れたトトが言う。トトの背中で揺らめいていた炎の翼はすっかり小さくなっていた。そして、俺が見ていた時にちょうど、ポッという短い音を残して消えてしまった。


「おはようトト。まぁ順調だよ」


 俺は苦い顔をして答えた。俺はあとどれだけレベルを上げればこの天才に追いつく事が出来るのだろうか。


「それは良かった。あ、そうだ。イヨ君、ドーナツ食べる? ここに来る途中に買ってきたんだ。すっごく美味しそうだよ」


「いや、いらない」


 俺は短く返事をして、トトを追ってきたサソリ型のモンスターを斬った。


 トトは月並みな言い方だが、可愛らしい女の子だった。肩まで伸びる銀色の髪の毛に、柔らかな顔つき。着ている白のローブからは細くしなやかな手足が伸びていた。このゲームのキャラメイクは自分の容姿をベースにして作成するか、自分で一から作成する事が出来るのだが、トトはどっちなのだろうかと俺は少しだけ気になっていた。さすがに現実世界の日本で銀髪は珍しいだろうし。



 そのトトは、今日も今日とて戦う気など一切無い様子だった。呑気にその場に座り込み、どこからか取り出してきたドーナツの小箱を嬉しそうに開けている。


「どーれーにーしようかなー。おっと? この抹茶クリームは新作かな」


「トト、そのドーナツ今から食べるのか? ここで?」


 抹茶ドーナツを手に取ったトトを横目で見て、さすがに口を挟んだ。


「そうだよ」


 トトは「当たり前」とでも言いたげな顔でこちらを見る。

 俺はその大胆不敵というか自由気ままな態度にため息を吐いた。仮にもこの辺りは高レベルモンスターの出現地帯なのだ。その危険地帯のど真ん中で、普通はドーナツなんて食べない。ましてや防御魔法も使わずに。


「こんな所で食べないで向こうのモンスターがいない所で食べろよ。それか、せめて防御魔法を使え。俺がヒヤヒヤする」


「向こうに行ったらお話できなくなるし、防御魔法は疲れるからイヤだ」


 今日のトトはどこか意地っ張りな感じがした。いつものトトならもう少し遠慮があるはずだ。機嫌でも悪いのだろうか。


「それに、イヨ君が守ってくれるから平気だよ」


 トトはそう言うと、口を大きく開けてドーナツを丸ごと一つそこに詰め込んだ。そして、もう話す事は無いと言いたげに大袈裟な咀嚼を始める。やっぱり今日のトトはどこか少し変だ。


「攻撃が当たっても知らないからな」


 俺はそう言い添えてから、次々に襲い来るモンスターに視線を戻した。


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