二人
この世界は誰かの夢の余韻のような代物なのかもしれない。
長く長く続いた夢の、エンドロールのような、エピローグのような、もしかしたらあとがきのような。そんな、物語の本筋とはあまり関係のない、言ってみればオマケのような世界。本来なら登場人物だって必要としないはずの世界。
だけど、そんなあとがきのような世界に俺達は二人ぼっちで佇んでいた。
目の前には不自然な程に綺麗な夏の海が広がり、足元ではやけに白い砂がさらさらと風に舞っていた。同じリズムで打ち寄せてくる波はいつも同じ場所で姿を消し、遠く向こうに見える入道雲は貼り付けられたようにそこでじってしている。
あの入道雲の先には、きっと何もないのだろう。
俺にはそう思えて仕方がなかった。
あの張りぼてのような入道雲の向こう側には、ただただ真っ暗なだけの空間が広がっているに違いない。いや、或いはそんなものすらそこには無くて、そこには俺達の理解の及ばない『無』のような空間が永久に続いているのかもしれない。
結局の所、俺達の目に映るこの景色だけがこの世界の全てなのだと思う。あの水平線の先にも、見上げた空の果てにも、世界は続いてなんかいない。俺達の目の届く範囲でこの世界は完結しているんだ。そもそも、この世界には『その先』なんてのはありはしないんじゃないだろうか――。
「ねぇ、イヨ君。おなかすいちゃったよ。何か食べ物探しに行こうよ」
隣に座っていたトトが勢いよく立ち上がってそう言った。彼女の表情には不安の色は見えない。これっぽっちも見えない。
「そうだな」
俺はズボンについた砂を手で払い、ゆっくりと立ち上がった。そして、背後に広がる幻想の世界を見て大きな大きなため息を吐く。
俺達はサービス終了したオンラインゲームの中で、世界の終わりを待っていた。