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 同日、24日金曜日の放課後。


 初等部に中高に大学のキャンパスの、一貫校。鳳雛学園。

 大学の校舎がメインで他の校舎は小規模。校庭・運動場と体育館、プールなどの施設は共有で。

 小規模故に各学年は2クラスしかない。ただ大学のキャンパスはここだけでなく、関西圏数か所に点在する総合大学という内訳になっている。

 丁度学園校舎の前は公園になっている。そこは晴れた土日には、子供を遊ばす家族連れが居るほど、そこそこの面積が有る。さらにその前に陸橋。その陸橋は、JR駅へと通じている。


 初等部中等部に高等部と、様々な年齢の学生たちが校門から、吐き出される時間帯。

 伯父の、直接確認の機会がほぼ無くなった、礼田弓子。しかしメールでの随時確認はある為に、とくに用事の無い今日もいつも通り足早に帰宅しようと思い、彼女なりの早さでJR駅に

向かおうとして。

「ゴメン、弓ちゃん。ちょっとお話あんねんけれど。えぇかな?」

 クラス委員長に呼び止められる。学園指定のコート姿。冬場の帰り支度なので弓子の格好もほぼ同じである。そこに不自然は無いが。

(ズボン?)

 早織はスカートの下にジャージを着ているからだが、やや恰好悪いだけで運動部女子はよくやる姿。又寒すぎる時防寒具代わりにやるものも居る。

 クラスの親分さんだし、と。弓子はその疑問を取り消して。

「何の御用ですか? 急ぐんですけれど」

「5分もかからへん、話やけど。他の人には聞かれたくないしなー。ちょこっと、そこの公園で」

「……5分くらいなら……」

(確かに夏海の言う通りかもな。警戒心強すぎるしい。ちょこっとオビえとる)

 早織と弓子邪魔にならない位置に移動する。早織、防寒コートと制服の更に下には、防弾防刃対霊ジャージ装備。指示通りガード・アバターは起動済。起動し実体化したアバターそのモノは、コート左右のポケットと、コートの胸元に待機済み。

 夏海は距離を置いて弓子の背中側に待機。ステルス・アバター・ガジェット――別名半蔵くんガジェットを起動し、存在を目立たなくしたワゴン車は近くに停車している。ちなみに事前に位置を教えられてている夏海には、この車が灰色の半透明に見えている。

(さてと、細工は流流、あとは仕上げを御覧じろ……やね。頑張れ、うち)

「単刀直入に聞くで、弓ちゃん。スマホにこっくりさんガジェットを再インストールしたやろ!」

 確信を持った決めつけの問い。

 弓子の表情がくしゃりと、ゆがむ。膨れ上がる霊力。ワゴン車内備え付けの霊力系統の検査機器、その計器の針が最大値に振り切れる。

「まずい! 明くん!!」

 ワゴン車から明が飛び出す!

 膨れ上がる霊力は、弓子由来のモノにあらず。導き出される結論は?

 突風。

 舞い上がる土埃。

「きゃあ!」

「なんだなんだなんだ」

 常人には見えない景色。夏海の目には、半透明の妖狐と魔狼と怪狸が、弓子の周囲を守っているのが見えた。アバターを起動済の早織にも、微かに良くないモノが見えた。霞か霧の集合体の四つ足のケダモノ。

 魔狼は早織に飛びかかり。光の壁に阻まれる。二重。ポケットから飛び出したアバターの取り出した看板の変形したソレとは、早織には分からない。それほど急速な対応。

 妖狐の方は、身体を低くして身構え、いつでも飛びかかれる様で。夏海への備え。

 飛び出た明が、弓子に迫ろうとした瞬間弾かれる。怪狸の尻尾。受け身取って明が立ち上がる頃には、術の起動を終えていた。

 何の?

 『門』。

 3匹が弓子の周囲を回り始め、公園の地面を削り、空間を歪めて門となす。

 明がとっさに胸ポケットに手を入れ、スマホを起動させようとするが、飛礫によって弾かれかなわない。回転する使い魔の一匹が仕掛けたのか。

 弓子の色彩がぼやけていく。赤み青み黄みが抜けて、白黒灰色の味気ない物に。そして消え去ってしまった。

 一連の騒動に帰宅途中の学園生たちは気がつかない。突風と舞い上がった土埃に、難儀したなあ。せいぜいその程度の感想。

『夏海ちゃん、早織ちゃんワゴンに乗って。最大限の準備整えてから異界に侵入しても遅くない!』

 事前に二人の片耳にはイヤホンの装備。プロフェッショナルの指示には素直に従う。事態はまだ終わっていない。

                     ◆◆◆                                                     


 ここでは無い場所。

 今では無い時。

 礼田弓子は目覚める? どこで? 自宅の部屋で。白黒灰色の世界。当たり前だ。気にもしない。

 はやくご飯食べて、出掛けなさい。今日から中等部でしょ。

 そんな母親の声に背中を押され、食事終え着替えて外に。

 家の近くに桜の木がある。花びらが風に舞って美しい。

[おはよう、弓ちゃん]

「……誰ですか?」

 知らない男の子から声をかけられた。いや……見覚えがある気もする。同じ学校の制服だし。あいまい。

[僕だよ、僕]

「……ああ■■くん。ごめん寝ぼけてました」

[めずらしいね]

 ああ近所の男の子の――。なんで忘れてたんだろう。弓子は疑問に「正解」を上書きして、学校目指して歩を進める。今日から二人とも同じ中等部の、一年生だ。

 2回目の一年間とは気づかずに。オカシイ事に気づかずに。

                                                           ◆◆◆ 


「夏海ちゃん」

「準備は出来ています」

「系統外呪物、プレ・ガジェットNO.8 BLADE OF YATUKA 514番、起動認証許可を願います」 

「起動承認! 夏海ちゃん、明くん無茶は駄目だよ」

「夏海ぃ、気をつけて! 明さん、夏海をよろしゅうお願い申し上げます」


                     ◆◆◆ 


 5月。5月? 5月に間違いない。上書き。

 弓子たちは個性的なクラスメイトに翻弄されつつ。でも楽しい! 親分にオカアサン。脇役くん一号二号。みーちゃんによっくん。個性的な面々。

 6月7月に8月の夏休み。クラスメイトにお姉ちゃんと呼ばれてしまいました! それも恥ずかしいけれど嬉しいね。

 ■■くんもそばに居てくれる。わたしにお兄さんが居たら、きっとこんな感じなのかなあ。いつも静かに。でもにこにこして。          

                    ◆◆◆ 


「夏海さん、これは」

「明さん、……たぶん弓ちゃん視点の、この9ケ月の思い出を混ぜてます」

 異界に侵入出来た日野明と天川夏海の二人。完全装備ゆえ、防弾防刃ジャージの上下の上に袖なしダウンジャケットの姿。

 明の手には光の剣が握られており、夏海の両の瞳は淡く赤く輝いていた。そして、異界の周囲の景色は。

 一歩も進まないのに、勝手にめまぐるしく景色が変わる。

 みな1年A組の皆が体験した学校行事とその場所だと、夏海にはすぐ分かる。

「攪乱ですかね?」

「分かりません。でも……うちのクラスにあんな男の子は、居なかったはず」

「……あそこに合流出来ますか? 無理なら俺が他の手を考えますが」

「……なんとかやってみます」

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