(26)
同日、24日金曜日の放課後。
初等部に中高に大学のキャンパスの、一貫校。鳳雛学園。
大学の校舎がメインで他の校舎は小規模。校庭・運動場と体育館、プールなどの施設は共有で。
小規模故に各学年は2クラスしかない。ただ大学のキャンパスはここだけでなく、関西圏数か所に点在する総合大学という内訳になっている。
丁度学園校舎の前は公園になっている。そこは晴れた土日には、子供を遊ばす家族連れが居るほど、そこそこの面積が有る。さらにその前に陸橋。その陸橋は、JR駅へと通じている。
初等部中等部に高等部と、様々な年齢の学生たちが校門から、吐き出される時間帯。
伯父の、直接確認の機会がほぼ無くなった、礼田弓子。しかしメールでの随時確認はある為に、とくに用事の無い今日もいつも通り足早に帰宅しようと思い、彼女なりの早さでJR駅に
向かおうとして。
「ゴメン、弓ちゃん。ちょっとお話あんねんけれど。えぇかな?」
クラス委員長に呼び止められる。学園指定のコート姿。冬場の帰り支度なので弓子の格好もほぼ同じである。そこに不自然は無いが。
(ズボン?)
早織はスカートの下にジャージを着ているからだが、やや恰好悪いだけで運動部女子はよくやる姿。又寒すぎる時防寒具代わりにやるものも居る。
クラスの親分さんだし、と。弓子はその疑問を取り消して。
「何の御用ですか? 急ぐんですけれど」
「5分もかからへん、話やけど。他の人には聞かれたくないしなー。ちょこっと、そこの公園で」
「……5分くらいなら……」
(確かに夏海の言う通りかもな。警戒心強すぎるしい。ちょこっとオビえとる)
早織と弓子邪魔にならない位置に移動する。早織、防寒コートと制服の更に下には、防弾防刃対霊ジャージ装備。指示通りガード・アバターは起動済。起動し実体化したアバターそのモノは、コート左右のポケットと、コートの胸元に待機済み。
夏海は距離を置いて弓子の背中側に待機。ステルス・アバター・ガジェット――別名半蔵くんガジェットを起動し、存在を目立たなくしたワゴン車は近くに停車している。ちなみに事前に位置を教えられてている夏海には、この車が灰色の半透明に見えている。
(さてと、細工は流流、あとは仕上げを御覧じろ……やね。頑張れ、うち)
「単刀直入に聞くで、弓ちゃん。スマホにこっくりさんガジェットを再インストールしたやろ!」
確信を持った決めつけの問い。
弓子の表情がくしゃりと、ゆがむ。膨れ上がる霊力。ワゴン車内備え付けの霊力系統の検査機器、その計器の針が最大値に振り切れる。
「まずい! 明くん!!」
ワゴン車から明が飛び出す!
膨れ上がる霊力は、弓子由来のモノにあらず。導き出される結論は?
突風。
舞い上がる土埃。
「きゃあ!」
「なんだなんだなんだ」
常人には見えない景色。夏海の目には、半透明の妖狐と魔狼と怪狸が、弓子の周囲を守っているのが見えた。アバターを起動済の早織にも、微かに良くないモノが見えた。霞か霧の集合体の四つ足のケダモノ。
魔狼は早織に飛びかかり。光の壁に阻まれる。二重。ポケットから飛び出したアバターの取り出した看板の変形したソレとは、早織には分からない。それほど急速な対応。
妖狐の方は、身体を低くして身構え、いつでも飛びかかれる様で。夏海への備え。
飛び出た明が、弓子に迫ろうとした瞬間弾かれる。怪狸の尻尾。受け身取って明が立ち上がる頃には、術の起動を終えていた。
何の?
『門』。
3匹が弓子の周囲を回り始め、公園の地面を削り、空間を歪めて門となす。
明がとっさに胸ポケットに手を入れ、スマホを起動させようとするが、飛礫によって弾かれかなわない。回転する使い魔の一匹が仕掛けたのか。
弓子の色彩がぼやけていく。赤み青み黄みが抜けて、白黒灰色の味気ない物に。そして消え去ってしまった。
一連の騒動に帰宅途中の学園生たちは気がつかない。突風と舞い上がった土埃に、難儀したなあ。せいぜいその程度の感想。
『夏海ちゃん、早織ちゃんワゴンに乗って。最大限の準備整えてから異界に侵入しても遅くない!』
事前に二人の片耳にはイヤホンの装備。プロフェッショナルの指示には素直に従う。事態はまだ終わっていない。
◆◆◆
ここでは無い場所。
今では無い時。
礼田弓子は目覚める? どこで? 自宅の部屋で。白黒灰色の世界。当たり前だ。気にもしない。
はやくご飯食べて、出掛けなさい。今日から中等部でしょ。
そんな母親の声に背中を押され、食事終え着替えて外に。
家の近くに桜の木がある。花びらが風に舞って美しい。
[おはよう、弓ちゃん]
「……誰ですか?」
知らない男の子から声をかけられた。いや……見覚えがある気もする。同じ学校の制服だし。あいまい。
[僕だよ、僕]
「……ああ■■くん。ごめん寝ぼけてました」
[めずらしいね]
ああ近所の男の子の――。なんで忘れてたんだろう。弓子は疑問に「正解」を上書きして、学校目指して歩を進める。今日から二人とも同じ中等部の、一年生だ。
2回目の一年間とは気づかずに。オカシイ事に気づかずに。
◆◆◆
「夏海ちゃん」
「準備は出来ています」
「系統外呪物、プレ・ガジェットNO.8 BLADE OF YATUKA 514番、起動認証許可を願います」
「起動承認! 夏海ちゃん、明くん無茶は駄目だよ」
「夏海ぃ、気をつけて! 明さん、夏海をよろしゅうお願い申し上げます」
◆◆◆
5月。5月? 5月に間違いない。上書き。
弓子たちは個性的なクラスメイトに翻弄されつつ。でも楽しい! 親分にオカアサン。脇役くん一号二号。みーちゃんによっくん。個性的な面々。
6月7月に8月の夏休み。クラスメイトにお姉ちゃんと呼ばれてしまいました! それも恥ずかしいけれど嬉しいね。
■■くんもそばに居てくれる。わたしにお兄さんが居たら、きっとこんな感じなのかなあ。いつも静かに。でもにこにこして。
◆◆◆
「夏海さん、これは」
「明さん、……たぶん弓ちゃん視点の、この9ケ月の思い出を混ぜてます」
異界に侵入出来た日野明と天川夏海の二人。完全装備ゆえ、防弾防刃ジャージの上下の上に袖なしダウンジャケットの姿。
明の手には光の剣が握られており、夏海の両の瞳は淡く赤く輝いていた。そして、異界の周囲の景色は。
一歩も進まないのに、勝手にめまぐるしく景色が変わる。
みな1年A組の皆が体験した学校行事とその場所だと、夏海にはすぐ分かる。
「攪乱ですかね?」
「分かりません。でも……うちのクラスにあんな男の子は、居なかったはず」
「……あそこに合流出来ますか? 無理なら俺が他の手を考えますが」
「……なんとかやってみます」