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木曜日も何事も無く。


そして……金曜日早朝。


鳳雛学園近く、天川家在住マンション駐車場、ワゴン車内にて。

「おっかさん、おかゆができたわ」

「ナツミン、いつもすまないねー」

「それはいわないやくそくでしょー」

「……お二人とも最近の時代劇でも、そんなやり取りはないです」

「夏海ちゃんノリ良すぎてうれしくてー。あといつもいつもご飯の差し入れ、ありがとね」

「いえいえ」

 ワゴン車での張り込みももう三日目になる。深夜には近くのコイン駐車場に移動して車中泊。着替えは大量に持ち込み。食事は出来合いを買い出し。

コンビニも近いし、少し歩けばスーパーも近いこの立地。張りこむには最適とは、望月巴の談。風呂・トイレは天川家に借りれるし。朝食夕食の差し入れはあるし。

 何事も無く金曜日が終われば……三人が三人とも思う事である。

「あのさ夏海ちゃん、毎日礼田さんのスマホを確認する必要は無いんだよ。確かに確認するに越したことは無いけれどさ、人間関係も大事だし」

「……ボクが嫌われても、弓子ちゃんが傷つくよりは、はるかにましですから」

 朝食渡し、少女が立ち去ったあと。やり手OL兼地区担当のクイーンは、心配げにその背中を見る。

「ままならないな。正しい事をしてるだけなんだけど」

「いつもの事ですよ。呪いとかおまじないの類は悪意が付きまとう事が多いです。それに正しい事なんて、立場によって変わります。トモ姉、俺たちの今までの行動が全て無駄だったと思いますか?」

「そんなこと無い、あってたまるか! あ痛!」

 狭いワゴン車の椅子の上で、仁王立ちなぞ、するものではない。 

                                             ◆◆◆ 


 同日金曜日。まだ朝の7時半。ここ数日天川夏海は、礼田弓子の事が気になって早めに登校している。どうせ朝ごはんは、トモ姉と明と早めに食べるのだし。

 早朝の予習の方が何となくはかどるし。

「おはよー」

「おはようございます」

 いつも一番先に登校の弓子。相変わらずこちらへの対応は固い。けれども、怯えとか怯みとかの負の要素は薄れつつあるような。

 そんな見立ての夏海。気のせいかなー。

 どこの学園でも、ある意味教室内のレイアウトはあまり変わらないであろう。黒板側を正面と規定すると、窓側にテレビとAV機器の配置。真ん中に教壇。

 夏海の席は、最後列。霊視以外でも、左右視力2.0の彼女。ここは本来弓子の席だったが、最近視力が落ち始めた弓子と、席を変わったのだ。担任にはもちろん了承済み。

 クラスメイトの面々も文句を言うはずも無く。弓子の背中をじっと観察できる位置にいるのは元からだけど。

(居心地わるいなー)

 ふと思い目を反らし。TV台の真横。学内でスマホ充電用に用意された、複数ソケットのある電源コンセント。それにスマートフォンが刺さっているのを目にする。

 校則違反では無い。スマートフォン、ガラケーともに休み時間なら使用可能。ただ授業中は電源を切ること。ゆるい校則ではあるが、しめるところは〆る。当たり前ではある。

 と、ここで夏海は違和感を感じる。

(充電、朝から? 弓ちゃんが?)

 おっとりした外見ではあるが、しっかりもの。クラスメイトになり9ケ月足らず。忘れ物無し。無遅刻無欠勤。スマートフォンの充電タップも、学内で特例措置として、認められたものである。名目上スマホもガラケーも、親子の緊急連絡ツールとして。それがいざという時バッテリー切れでは不具合だと。

 ただタップの差込口はクラス全員分あるはずも無く、夕べ充電し損ねたクラスメイト用の、名目だ。朝から弓子が充電しているのを、初めて見る夏海。

(昨日のお昼にも充電してなかった? 弓ちゃんのスマホって使い始めて一年たっていないよね)

 ネット接続のパソコンにせよ、スマートフォンにせよ。動画や画像の重いサイトを見まくればその分バッテリーは消費される。弓子は、家族とのメール以外小説サイトとニュースサイトくらいしか基本使い道が無いといってなかったか?

 呪術とは関係ないはずなのに、夏海の脳裏には嫌な予感が頭をもたげる。

 意を決して弓子にたずねようとしたが、他のクラスメイト達が登校しだして、タイミングを逃す。強引に聞くことも出来なくはないが。

(そもそも何をどう聞き出せばいいの? ……独りよがりで行動しちゃダメだ。水のんとトモ姉・明さんと相談してからでも遅くない)

 竜王学院の庶務少女を救えなかった時とは、違う。今天川夏海には、頼れる人たちがいる。 

                                             ◆◆◆ 


「ん? 何か進展有ったのー? お昼休みとは言え電話で直接とはめずらしー」

『トモ姉さん。スマートフォンで急激にバッテリーを消費する、ガジェットソフトってありますか?』

「どういう事?」

 ワゴン車内。夏海からの電話。水曜日・木曜日ではメールで済ませた定時連絡が、電話であることにやや驚く望月巴。明は昼食の買い出しである。

 事情を聴き、しばし。

「基本複数ガジェットを立ち上げて仕事させてもバッテリーの減りは早いわ。でも一見弓子ちゃんスマホの画面上に、アイコンは一切無かったんでしょう? …………ねえ夏海ちゃん、服部半蔵の半蔵くんガジェットを使った事ある?」

『ボクは無いですけれど、大地仁くんがよく使ってくれてます』

「そか。あれってデフォルト設定はスマホの所有者の行動が、目立たなくなる隠形術のガジェットソフト版なんだけどね。設定をいじるとスマホ画面上のアイコンや使い魔も隠したりも出来る。とゆーか、これ一部不届き者たちの常とう手段なんだけどね。あくまで可能性だけど。……放課後、学園校門前の公園に、礼田さんを呼び出せる?」

『あっ、はい。大丈夫です。ただボクだと弓ちゃ――礼田さんに警戒されるかもなので、早織がその役目を買って出てくれているのですけど、いいですか?』

「……霊的防御力じゃ装備品的に夏海ちゃんも早織ちゃんも変わらないしなーー。……ごわごわして申し訳ないけれど、二人ともジャージ上下着て制服をその上にとか着れるよね。

ブルマとTシャツのインナーは無くても良いので、二人とも着ておいて。あと礼田さん接触直前に、ガード・アバターも立ち上げておいて。夏海ちゃんのガラケー用も使い方教えたわよね?」

『はい! 分かりました。あと細かい所は――』

「あとで早織ちゃん夏海ちゃんそれぞれの携帯にメール送る。休み時間に見てて」

 電話を切って。

「さーて、鉄火場の正念場だわね」

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