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 凄く甘いものを食べすぎた後に物すごく濃いブラックコーヒーを飲んで、ほっと落ち着く様な。

 明との今のやり取りで、何故かそんな気分になって落ち着いた天川夏海である。

 ブルマを履いていることはまあ見えないし、なんだろう明さんが少し怖かった事が良い意味で彼女の恥ずかしいという気を紛らわせてくれたというか。

 実際一拍遅れて、本当にコーヒーが目の前に置かれた時には、夏海は思わず苦笑した。

「夏海さん?」

「ああ、すみません。何でも無いんです」

 親友と女主人は、今別室で各種書類と格闘中。

 彼氏君との関係ですでにブロンズ・ポーンであった水橋女史。しかし主として学内の情報収集が主だった為、実務補助関連への移行――要は護身グッズ貸出しの名目の為、諸所の直筆署名が必要な書面が数多く。

 一方カッパー・ポーンの夏海の方は、すでに焼肉会食時に全て終えている。

 故に明と夏海の二人切りという珍しい状況になっていた。

「ついで申し訳ないのですが、夏海さんに一言ご忠告を」

「はい」

 自然に背筋が伸びる。制服に着替え終えて、落ち着いていたものの。夏海の好みからしても、整った顔立ちの青年の、真剣な眼差しは新たな緊張をよぶ。

「貴女の瞳に宿った道返の玉。奥津鏡が混じった未来予知の霊視力です」

「はい」

「でも万能では無いのはご存知ですよね」

「はい。春ちゃんから色々聞いていますので」

 視力がメインな故に、建物や人物や物体の後ろの霊は、見る事が出来ない。

 知覚出来るのは、視界前方のみ。そして目の届く範囲のみ、加えて遮蔽しゃへい物が有れば見えない等。そのようないくつかの制約があった。

「身体の身のこなしや、経験がそもそも足りていないのは当たり前です。今回礼田さんの観察を貴女方お二人に依頼することなりますが、何かあったら必ず俺たちに連絡下さい。

護身具各種の使い方のレクチャーは、先ほど簡単に済ませて、マニュアルもお渡ししましたが、あくまで用心の為。むやみに事態に飛び込もうとしませんように」

「はいっ」

 いい返事だった。

                      ◆◆◆


 とっぷり日が暮れて。執事めいた青年は時間があると言い、わざわざ梅田駅まで地下鉄使い見送ってくれた。

 私鉄梅田駅二階改札口。その真下は大型書店で有り、大きな階段か、エスカレーターを下るとその入り口となる。

 エスカレーターで下りてゆく青年の背中視る親友に向かって、親分さんはふと言葉をもらす。

「惚れてしもうた?」

「っ! ちっ違うよ!! 良い背中だとは思うけど。格好良いと思うけど。ぼくじゃ駄目だよ。トモ姉さん居るし」

「トモ姉さんには行方不明の彼氏さんが居るんやって。その彼氏の従弟が明さん。行方不明の彼氏さんを二人で捜しているんやって。だから違うみたいやわ」

「ホント!」

「ほええ、やっぱうれしそうやん」

「ちっ違うって」

 JR駅に移動中。帰宅する為の路線が異なる二人。その路線で別れるまでの短時間。そんな時間を楽しむ日常のヒトコマ。

 二人は護身グッズに加えて、多量の高級菓子を貰っていた。

『クイーンの立場上よく貰うのよー。明くんと二人じゃ食べきれないんで、良かったら助けてくれないかなーー』

 事件なんて無ければ良いのに。少女二人はそう思う。その願いが叶ってか、数日は何も無かった。けれども。台風の目に入れば無風になる様に。嵐の前の静けさに他ならない。                  

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