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――夕方の少し前。今週火曜日、鳳雛学園中等部一番のキワモノクラス、一年A組の放課後はあわただしく、けたたましく終える。

「せんせー、せんせーホームルーム終わったわな、終わったわな」

「……そりゃ終わったが、水橋。何をそんなにあわてて」

「ナツミン、準備は?」

「大丈夫だよ。スミマセン、先生。ボクたち早引けします」

「天川、早引けって……ホームルームは今終わったし。早引けも何も、キチンと授業全部受けたじゃないか」

「あー、ボク生徒会役員のお仕事をお休みするって事でえ」

「ああ、遠縁のご親戚のご不幸とかだってな? ちゃんと聞いているぞ。そういや水橋もその手伝いとか? それも伝わってる。そもそもその件は、バタやんからちゃんと聞いているぞ」

「おっしゃ、報・連・相はバッチリなんやね! 夏海! 急ぎや、今からやと早いのに乗れるー!」

「あいよ、おまえさん!! な~んてねっ! センセイさようならー」

「おおっ、気をつけてなー。危ないから廊下もだが、外でも走るなよーー」

 そんな担任教師とのやり取りを置き去りにして。

「女将さんと親分の門出を祝ってええ」

「「「「ばんざいーい、ばんざーい、ばんざーい!!!」」」」

 悪ふざけのクラスメイトたちのやり取りを、精神衛生上スルーして。何気に担任教諭もまじっているのは、ご愛敬。

 廊下は走らず、でも出来るだけ速足で。階段下りて、校門を通って、外に出よう。

「さようならーー、いつもおおきにっ」

「いつもありがとうございます」

 気持ち良い敬礼をしてくれる校門門番の、警備員小父さん――いやおじいさんかな? に軽く挨拶し、下校する二人。

 (つきかげけいびほしょー。そう言えば明さんと同じ会社なんだよね?)

 警察官に制服に似て、でも明らかに違うと分かる。薄い灰色の警備服。夏海には、その制服に見覚えがあった。

 月影警備、NGプロダクツ社と並んでNGガジェット関連事件解決を担う中核とも、夏海は聞いている。

 特に何がと言う訳でないが、親しいヒトの欠片を見つけて、彼女はちょっとうれしい。

「夏海、どないしたん? 急ぐで」

「えへへへ、分かった」


 JR駅を目指す。夏海はすぐ近くからの自宅通いだから、JR駅に向かうのはおかしいが。

 学園校門を出て直ぐに陸橋。その大きな階段を昇ると、JR駅と地続きになっている。雨の日などは屋根が有るから便利だ。

 今日はオフィス・ツーペアにおよばれ、しているのである。


           ◆◆◆


――親分と女将さんという嵐が過ぎ去った、1―Aの教師にて。

「弓ちゃん? なんか嬉しそうだね」

「……そう……かな? いつも通りですよ」

「……ふうん……」


           ◆◆◆


 制服の上から、学園指定の紅葉色のコート。袖口の赤いラインは一年生の印。

 その二人の少女がJR駅を目指して、陸橋をゆく。

「弓ちゃん、大丈夫……かな?」

「一応クラスの何人かには、それとなく様子見しといて……とは言っといたんやけど。やり過ぎは監視と変わらんから、まあほどほどに、やね」

「そか。そうだよね。ごめん、変な風に気を使わせちゃって」

「気にせんといてー。何にも無いのが一番やけど、夏海のそういう勘が当たって助かったってのも、一度や二度やないやんか。念のためねんのため」

 そんな事を話しつつ、改札を通り。夏海と早織の二人はホームへ。学園から駅まで彼女たちの足で15分とかかっていない。最高の立地と言える。



 ウメダに着いた。女子中学生二人組は、大阪梅田周辺百貨店のデパート地階にて手土産を買い求めると、すぐ地下鉄にて移動。

 たった一駅。淀屋橋。地上に上がる。

 メインストリート御堂筋を一本道をそれて、そして南方向に歩いてゆく。



 連なるビルディングたち。夕方の陽射し浴びて、林立する巨塔たち。その中には沢山の大人たちが飲み込まれていて、日々明日の為の糧を稼いでいる。

 その当たりの事は頭で理解しつつも、夏海には今一つ実感が無い。

 一方家業の会計を手伝う早織の方はと言うと、そんな当たり前の事に想像をめぐらす事も無い。ただ事前にプリントアウトした簡易地図を片手に、目的のマンションを目指す。 

 あともう少しで大人たちが吐き出される時間だが、人通りのまばらな通りを不思議に思う、鳥羽根少女。

「夏海、ちょっと分からへんねんけど、どのへんやった?」

「ん~、ちょっとボクはショックで呆けてたから……こっちかな?」

 学校指定カバンは、いくつか選択できる。四角い箱型のを背中に背負うタイプか、手提げバッグか、スポーツバック風か。デザインはともかく背負うタイプはランドセルみたいで、不評な為選ぶ生徒は少ない。

 両手が開くので、これを選んだ水橋女史。右手に地図、左手に夏海の手を引いて扇動しつつ先へ。

 一方放課後に食料品買い込みが週数回の天川書記も、背中にカバン。右手をやや強引にひかれつつ、左手にはカステラの紙袋おみやをお共にあとへと続く。

 呆けていても、元々感覚が鋭く、夏海は記憶力も悪くはない。見知ったビルをいくつか見つけ、迷わず進む。

 どちらかと言うと地図を読むのが、苦手のおかっぱ少女。その彼女に先導されていたのが、気が付くと夏海の方が先導していた。

 夏海たちは、前へ前へと進んでいた。勢い良く! 

 けれども。目的地が近づいて、まず間違いない高層マンションの外観が見え始めると、次第にその勢いはゆるやかに。夏海だけでは無くて、早織もそうなる。気おくれ。

「夏海ぃ。はよ、いこうや。あのマンションなんやろ? 間違いないし、時間に遅れたら失礼やろ?」

「まっまだ、時間は十分にあるよ。親分はこういうの慣れてるでしょ? ボクはこんな高級なとこ入ることめったと無いしっ」

 装飾過多という言葉がある。その言葉とは全くの逆さまな、おさえた装いの建物。上品。白に黒に金色に。窓ガラスが、銀色に輝いて夕日を反射するビルディング。

 勢いはゆるやかでも、確実に進む以上ちゃんと目的地に、たどり着く。

 立派なエントランスホールは、今二人の居る入口――自動ドア隔てて目の前だ。

 内扉の自動ドアの横。数字を入力し、用事ある部屋へのインターホンにつなげてくれる機器、テンキーボード。これにも夏海は見覚えがあるにはある。

 でも……ここまでオカネモチっぽかったかな? しり込み。

「で、でもそれはご本家はんのからみで何度かついてっただけやし。うちは、まあそのーなんや、付き添いやったさかい……って夏海は一度入っとるから大丈夫やろ? だから先に先導してや」

「でもでもーあの時は呆けてたけど。でも高級マンションだよ! 金ピカだよ! しかも成金趣味とかでは無くて品が良いんだよ!! そんなボクみたいな貧乏人が、入るには敷居が高すぎるよお~~」

「そやかて。うちの家は、アンタのとこん一族みたいに、カクシキあるわけや無いやん。没落貴族か貧乏旗本みたいな旧家なんやろ? 成り上がりの商家上がりの、しかも外様みたいなうちの家よりは――」

 インターホン前どころか、入口付近で目立つ容姿の少女二人が、居る。それも漫才めいたやり取りをしている。

 非常に目立つ。漫才に夢中になり過ぎて、一人の青年が近づいたのにも気が付かない。

「水橋さんのご実家は、東大阪にて不動産業を営われている名家、とお聞きしておりますが」

「ひゃっ!」

「やんっ!」

 彼が元々気配を消すのに、長けていた事を差し引いたとしても。明らかに驚きすぎだろう。

 ちなみに少年っぽい反応が夏海で、あとの少々色っぽい反応は早織である。




「大地くんの話通りの反応に、近いでしょうか?」

「ん? 夏海、このイケメンさんが?」

「えーっと、明さん、こんにちわ」

「日野明です。お待ちしておりました。早いおつきですね。さて、お二人ともアイス最中はお好きですか」

 ジーンズに、灰色で無地のトレーナーというラフなスタイルにも関わらず。長身で引き締まった体の、日野明が着ていると様になる。

 でもそんなことよりも、少女二人の視線は彼の左手に下げた白い袋に、そそがれる。

「日野さん!! ひょっとして買いに行かはったんですか!!」

「大阪出てきてもあんまり食べる機会無いです。……意地汚いのは自覚してますが、ボクはちょっと期待しちゃいます」

「……へえ、夏海が日野さん相手にボクっ子アピールをするなんて、なあ」

「ち、違うよ。お父さんの親友みたいな人だしー」

「冬場ではありますが。アイスが溶けてしまうので、お二人とも気おくれせずに、中にお入りください。こちらです。アイス最中はお二人のご期待の品ですから、ご心配なさらずに」

 手に下げた小さめのビニール。その中の白い大き目の紙袋。

 量販店の既製品のはずの服装。そんなマイナス要素てんこ盛りでありながら。何でやり手の執事めいた案内が、出来るのだろう。

 エントランスホールを通り、コンシェルジュさんに挨拶しつつ、階上のオフィス・ツーペアにいざなわれる。

 日野明の、たくましい背中を見ながら、二人は進む。

「なんなんだろうなー、あの迫力は……あの背中の存在感は、ふつう明さん世代に出せないよ」

 思わず小声で、うっとりとつぶやいてしまった、残念鳥羽根少女に。

「夏海ってば背中フェチなんやね、相変わらず」

 無残に切り捨てゴメンな、おかっぱ少女のヤジが飛ぶ。一応こちらも、小声。

 くすり。コンシェルジュさんが微笑みで会釈する。

 目尻がやや吊り上がった様な眼鏡。それを柔和な笑顔で打ち消して。

 二人とも小声で聞こえないとは単なる思い込み。その微笑ましい? やり取り聞いてこぼれてしまった笑み。

 母親世代くらいの品の良い――女性コンシェルジュの笑みは、慈愛に満ちたものだ。営業的微笑みでは無い。

「義姉もお二人のご到着を心待ちにしておりました」

「そおなんですか」

「ありがとうございます。ボクうれしいです」


           ◆◆◆


 二人の漫才は微笑ましい。言外に明もそう言っているが、遠回し過ぎて分からない。

 明。エレベーターのボタンを押す。二人を奥にいざなって、自分はエレベーターのコンソール近くに立つ。

ごく自然に。大昔――デパートを百貨店言う時代にはエレベーターガールなんて職業があったが。その男性版? それほど優雅に。

 玄関先では、アイドル然とした小柄な女性が、待ち構えていた。

「いらっしゃい!」

 満面の笑み浮かべた望月巴の笑顔は、破壊力があるという。先入観、警戒感、不信感。そんなモノをぶち壊してするりと、相手の心に潜りこむ。

 何で芸能界に行かなかったのか? 各方面からそう言われて、彼女自身スカウトもされたが、見向きもしない。

 その道を選ばない理由がちゃんとある。

 この笑顔を見て、親分さん――水橋早織は「この人出来る」と直感した。互いに挨拶交わしつつ。

「どうぞどうぞ、あがってえ。明くん、最中の用意お願いね」

「はい」 

 先に奥に引っ込んだ執事さんに変わり、女主人自らオフィス・ツーペアの中枢部へといざなう。

 マンションの一室、黒檀のテーブル。加えてソファ、事務机・デスクトップパソコンなどOA機器を備えた応接間。

 天川夏海は、落ち着いた精神状態で、改めて品の良さに感心し。早織は不敵な笑みを深くする。

 と、一拍遅れて、番茶特有の香ばしい香りがその部屋にただよい始める。

 明だ。お盆に番茶とアイス最中を乗せての、登場だ。真っ白な最中。ここの最中は白いのだ。それが一人につき、二つ乗っている。

「定番のヴァニラと苺だけどそれでよかったかな? 暖房で溶けちゃうし、まずは食べましょ」

 巴はそう言って一瞬明に目配せする。弟は苦笑で返す。

 夏海も早織も目ざとく、それに気が付いたけれど。その意味まで分からない。

 とりあえず、まず食べる事にしてしばし無言の時間。


 控えめな甘さのアイスクリームに、歯ごたえ有る白い最中生地があわさる。最中なのにサクっとした、乾いた軽い歯ごたえがある! その味が、強行軍してきた少女二人の苦労をねぎらい。

 番茶一口飲んで、気持ち切り替えて夏海が主に、早織がときおり補足してまずは報告。事前に内容は、オフィスの二人には知らせていたけれど。

 現状確認と言う事で、やや質疑応答めいた情報交換という形。

「――というのが、ボ、いや私たちのクラスの現状です」

 緊張したんで思わず一人称をボクと言いそうになった天川夏海。出された番茶が冷めてしまった頃には、ここ数日の出来事を、夏海は話し終えていた、

 水橋親分が事前に箇条書きにメモをまとめて、見ながら話すと良い。そうアドバイスくれたので、基本落ち着いて報告出来たといえる。

「えっと、望月さんにお尋ねしたいんですけど」

「自己紹介もすんだし、年齢もさほど離れてないから望月でも巴でもトモ姉も、好きに呼んでね♪」

「……トモ姉……」

「あははは」

 早織、トモ姉、明、夏海それぞれの反応。巴と早織の双方を知る夏海としては、話が脱線しそうだと思って、話を軌道修正を試みる。

「で、水のん。何をおたずねするの?」

「ああ、そうそう。じゃあ遠慮なく。トモ姉さんとお呼びしますが」

「いいよ~♪」

「うちもちょこっとだけ幽霊を見たり出来たりしますけどお。夏海に教えてもらっても、NGガジェットっていうものはよくわからへん。

ネットのガジェットソフトみたいなもの。お札みたいなの。マジック・ソード? いわゆる魔剣みたいなのとか。形あらへんのとか。色々あるんって聞くんやけど」

「ん。全部あるよ~。じゃ説明にならないし。でも詳しく教えてたら時間無いし。簡潔に基本だけいってみようか」

 というと、やり手女史は、どこから取り出したか伊達眼鏡を取出し、かけた。目尻が上がった風に見える変な、フレームの。でも似合おう。

「まじない。のろい。呪術。魔術。占い。おまじない。仏教密教系の真言。神道の祝詞。などなどこれらに一見関連性は無いものの。思いとか願いとかの力で、現実に影響を与える。

大さっぱに乱暴な言い方の共通点だけどね。

 で、実際に行う場合に必要になってくるものがあります。さて、明くん何ですか?」

「……トモ姉、質問が抽象的過ぎます。……まあ話の流れからして行う儀式に必要な人員・道具に最適な場所――聖域とか結界とかを連想出来れば良いかと。最適な時間帯もあり得ますね。

場合によっては、家畜を潰したりなどのいけにえも必要な場合もあります。

 言いかえれば、大きな手間と代償が大きければ大きいほど、効果が大きくなる。願いがかない易くなる。と言えるでしょうか?」

「さんきゅー、明くん。花丸あげちゃう!」

「どうも」

「……いけにえ……」

 クラスの番長様は、らしくなく不安げにそうつぶやく。クラスのオカアサンは、何を思ったのか、表情を硬くした。

「すみませんでした。いけにえ云々はそういう実例あったので出しただけで。他意は無かったのですが」

「ああ、いえいえうちらが勝手に過剰反応しただけで。気にせんといて下さい」

「あははは、ボクもです、はい」

「話を元に戻すね。で、『人を呪わば穴二つ』という言葉があります。夏海ちゃん、どういう意味でしょう、呪術師的に?」

「へ? じゅじゅつしてきに? ですか。…………うーんとですねー。呪いとかはかける場合に失敗した場合の反動あるリスクも、そもそもあるし。かけた相手からしっぺ返しあるかもだし」

「まあそんなトコね。でね、水のんちゃんにナツミンちゃん。コンピューターソフトにお札に魔剣と色々種類はあるけどね。根っこの部分はNGガジェットってのは、その大きな代償を他人や道具などに押しつけちゃえっ! って発想の元作られた技術体系なわけなの」

「たにんに……」

「おしつける」

 こっくりさんガジェットは、中高生を中心に流行りはじめ、否定意見は少なく。おおむね無害とされた。でも。NGガジェットの作成理念がそれならば、いつ何時悪意がまぎれこんでも不思議はない。

「まっ、道具に過ぎないけどねー。包丁は調理器具であって、人刺す道具じゃないし。自動車は移動手段であって、人をひき殺す道具では無いでしょ。

次世代技術体系候補道具類。英語に直してネクスト・ジェネレーション・ガジェットの略称で、NGガジェット。NGはノー・グットの略で、出来損ないって言う人も居るけどねー。

でも実際には、防衛側の私たちも、ガジェット系統を使っている。いや依存してるかな? ソフトウェア系のはスマホ等からの電力を大部分にして、使用者の霊力をほんのちょこっとって割合になってるしね」

「……ほんのちょこっとって、どのくらいなんかイメージしにくいんやけど。例えるとどんな感じなんです」

 番茶で口を湿らせ、そう問うクラス委員長に、女教師めいた巴はしばし黙考。

「うーん、明くん。ノーパソの3番持ってきて。あとお茶のお替り急須ごと」

 女史の指図が何を意味したのか、苦笑をかみ殺した様な表情で明は退室する。

「……トモ姉さん。水のんに危険な事は無いんでしょうね?」

 その夏海の問いかけに、望月巴は笑みを深くするだけだった。

思ったように時間取れない為に、後日完結後、全編まとめて修正かけようと思います。

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