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 現実世界――淀屋橋十字路。


 青年はスマホの画面をタップする。忍者が印を組むアイコン。

隠形の術。居ながらにして存在を消す呪術の一種。

 小道具で――今回の場合スマホアプリで――それを増幅し、お手軽に使う。

 それがNGガジェットと呼ばれる技術系統の根幹だと、明とトモ姉のコンビは聞いている。

 正午をいくらか過ぎて、目立つ二人の気配を消して、さらなる作業に取り掛かる。


日野明(ひのあきら)作業員、第13次運用試験に入ります」

 義姉の起動させたICレコーダーのRECのランプを確認しつつ。あくまで事務的に淡々とことをすすめる。 彼女もこの場に至っては不機嫌な表情を殺して、ビジネスライクに作業を補佐していく。

 二台目のスマートフォンを取り出して、日野明に手渡す。

 上下関係は無いが、外交上上司役の望月巴(もちづきともえ)女史から、備品を受け取る様は、やや緊張が見受けられる。

「系統外呪物、プレ・ガジェットNO.8 BLADE OF YATUKA 514番、起動認証許可を願います」 

 そのスマートフォンの画面には、アイコンは無い。ただ何も無い画面上に数字の8を描いてから……それを指で両断した。直後、指で描いた軌跡が時間差で光の線となって画面上を走る8の字。さらに遅れて日野青年の全体像を投影。

 それが拡大し、画面上を飛び出して、半透明な三次元グラフィックとなり彼に重なった。

 …………一見それ以上の変化はなさそうに見えたが。

 剣士が何もない左の拳を握りしめる。と、光で出来たカタナの様な物を握りしめていた。

「認証許可受諾済み。明くん、グットラック!」

 義姉の声援を受け、ただいつも通りあまり表情崩さずに、親指立ててその答えとする。

 サムズアップ。幼い頃のめり込んだ変身ヒーローの、決めポーズ。

 彼の様にはなれないけれど。そうありたい心の証。

 両手で光の剣を握る。スッと背筋を伸ばし。中段正眼の構え。その教科書通りの正しい姿勢で放つのは。けれんみの無い大きく振りかぶっての、面打ちの軌跡!

 何も無い中空を切り裂いたのにも関わらず、ナニカが裂けた。そしてその裂け目の中には? 色彩の無い……


                                             ◆◆◆


 白黒灰色。無味乾燥。空気までも嘘で塗り固められた様。

 夏海の目の前の超弩級な門扉は、それでもココにあって彼女に立ちふさがる。

(ゲームとかだと、どっかにカギあったり。呪文書いてたりしてそれがヒントになるとかーー)

『異界のホスト役というか、主人たる人間も、何でも好き勝手に出来るという訳では無いのです』

(……ある一定の法則を作って、そのルールのワクの中でってお話が春夜ちゃんセンセーの教えだった。……という事は『門』の形をしている以上開けることはできるはず)


 襲われる可能性は想定内。だから注意深く警戒しつつ、門扉をぐるりと歩いてみた少女である。門の反対側はツルツルの御影石の様な質感。表面が超古代日本みたいなごてごてした門であるのと、対照的に。

(情報を得る。考える。究極的には頼り過ぎてはイケナイけれど、ボクの視界ってある種特別性だから見る事に関してと、それに感じた直感? は結構頼りにしても良いって事だったよね? 真正面の門の模様が『入口』。どうやって入るの? さて)

 色々観察しつつ。観察前、リュック奥からある物を取り出している。武器ではないが、こんな時に使えそうな唯一の物。

 防犯ブザー。

 それをしっかり握りしめ。いざという時鳴らせるように。使い方はすでに学んでいる。

 学校でも、お父さんからも懇切丁寧に。

 『呪術を扱う者であっても、人間には変わりません。それを違法に犯罪に転用するような人も、尚更です。必ず効果がある状況とは限りませんが、対人間仕様の防犯グッズの類は効果が意外にあるものなのです』

(犯罪者は強い光を嫌う、大きな音を嫌うだったよね!)

 そう準備して、心構えして。そうやって観察しつつ門扉正面に向かう。……白黒灰色の世界であるのを除いても。うん、シュールだ。

 住宅地の風景から明らかに浮いている。

 さあどうやって入るかと、再思考する間もなく。唐突に扉は音を立てる。

 音。物理現象――何か物体が動き出したから起こる、空気の振動。

 ぎぎぎ。

 そう鈍い音たてて開き始める門扉。

「ありゃ」

 少女は吐息にも似たお間抜けな声がもれる。門扉の向こうから垣間見える、ナニカ赤黒い空間。

 ぎちぎちぎち。

 等身大。身長差でいうと目測夏海よりもかなり長身の人影が見えた。

 それは一体?

 一体。

粘土質のを高温で焼いた様な質感の鎧武者、それも古代の。それがぎちぎち音たてて、迫りくる。そんなのが人間のわけはない。

「はにゅわ」

 長い事水分補給をおこたっていたので、噛んだ。天川夏海中等部生徒会書記の、知識からすると等身大の埴輪だ。ちなみに地元もご当地マスコットキャラの、元ネタだった気もする。

 古墳時代の桂甲と呼ばれる鎧に、両刃の剣を装備。あまりにも予想外で、一見RPGゲームの画面の様に「埴輪怪人が現れた!」というメッセージウインドウが幻視されたくらい。

「ぐぎぎぎぎごご」

 声では無く、音を口らしき部位から発しつつ、無造作に彼女に切りつけた!


                                               ◆◆◆


 灰色グラデーションの中を青年剣士は駆ける、駆ける、駆ける!

 左手に輝く刀身。いつの間か右手には起動中のスマートフォンが握られている。動きづらいはずの、ネクタイ背広姿の不自由さを感じさせない。スプリンターの様な無駄のない走り。

 いったん画面で何かを確認した後、その親指で器用に画面をタップした。数瞬後内ポケットに機器を仕舞う。

 彼に奇妙な現象が起きていた。

 手のひらサイズの三頭身人形。それが彼の右肩にちょこんと座り、ときおり方角を指差しているのだった。それもいつの間にか。

 その指差す方向に微妙に進行方向を修正しつつ。

 息を切らさずかなりの速度で疾走続ける。移動し続けると、目まぐるしく景色が変化する。

 それは夏海が通った思い出の風景の数々。

 それらを追い越し、それらを背にして彼は風となる。

 間に合わせる!


                                               ◆◆◆


「ラノベみたいな展開はいやーーー」

 台詞はふざけている様に見えて、危なげながら避ける様は、まだ余裕があるのか天川夏海。

 彼女の特別製な眼は、数秒前に斬撃予想範囲を正確に彼女に伝える。

 それでもって避ける事は、運動能力平均的女子中学生よりやや劣る彼女にも、たやすい所業。

 夏海の両の瞳は淡く赤く輝いている。彼女の視界では剣を振りかぶる埴輪兵と、赤い輪郭で

 縁取られた半透明な埴輪兵が「剣を振り下ろした姿」が重なってみえている。振りかぶる前

と振りかぶられた結果が事前に見えれば、避ける難易度は低くなる。

 でもそれは一回や二回と、少ない数限定のお話だ。

「だからといって18歳禁止のグロイパニックホラーみたいな展開もご勘弁んんーーー」

 鈍重そうなのは見掛けだけ。まるでヘイストの呪文にかかったような。もしくはDVDの早回しの様な素早い切りつけ。

 その威力はアスファルトらしき地面を難なく破砕していた。

 真正面から切られれば、グロイ展開も確かにあり得るだろう。

 またそうやって足場が悪くなる上に、相手にスタミナ切れは望めない。一方人間な夏海にはそれがある。

 その意味で何回避けきれるかは、時間との闘いでもある。

 ほら、今の斬撃彼女のスカートの裾を、切り裂いた。

「ラッキーでスケベな展開はもっと嫌ーー。かっこいい彼氏もいないのに、裸に向かれてイヤーンな展開はお断りしますううう」

 ……結構まだまだ余裕がある様な気もする。激しい運動量に対しても、この声量。

 本人に自覚は無いが、日々日用品の購入に商店街を両手のレジ袋もって右往左往する。そのスタミナにバランス感覚。結構鍛えられたのか? 大昔のカンフー映画のごとく、修行の基本は日常の中にアリみたいな。

「げげががごごご」

「なんでそもそもガ行しか話せないかなーー」

 突っ込むところはそこかい! てな突っ込んでくれる大阪的相方もここには居らず。

「だからこその悪あがき!」

 何がだからなのかは、言った本人にも分からない。ブザーのスイッチを押そうとする。

 彼女のブザーのスイッチは二系統。ヒモを引き抜くのと、スイッチを押すのと。ヒモを引く選択をしないのは、何らかの理由ですぐブザー音を止める可能性を想定してだ。埴輪兵対策というよりも、過去の経験則からだ。

 押した。

 耳障りな音が周囲の空気を汚す。

 『大きな音は犯罪を犯す者にとって避けたいと思う要素です。ただいたずらで使う物では無くて、あくまでも身を守る為の防犯グッズですよ。でもいざと言うとき、ちゅうちょ無く使いましょう』

 小学生高学年、コレを持たされた講習時聞いた話が確かこんな感じだったか?  

 キュルキュルキュルとの耳障りな音。100デシベルの大音響の暴力。丁度電車が高架を通る時その真下――ガード下での音に匹敵するとのこと。

 埴輪兵は剣を取り落として両耳部分を押さえた。

 しめた!

 開きっぱなしの扉の向こうへと駆けだそうとする。多分あの中に竜王庶務さんは居る! と、夏海の足が止まる。足に違和感。ひも状のもの。

「なにこれ!!」


 素焼きの質感で出来たひも状の物多数。蛇。ミミズ。ムカデ。他似ているニュアンスのものは何だろう? それが足に巻き付いていた。

 素焼きで出来た無数の触手たち。ムカデの様な無数の節があって、前後左右フレキシブルに曲がる。 それが夏海の足を這い上がって這い回りはじめる。

「いやーーーーっ」

 18禁エッチ展開も嫌なんて、軽口は流石に出ない、余裕ない。嫌悪感に包まれる。余裕が無いから気がつきもしない。 


 その触手群は、天川夏海だけをターゲットにしたものでは、無いのであった。

明日の18時に投稿予定。

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