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恋愛カタログ  作者: ぶっかけチキン
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1ページ目 二つの私②

 それから私は探偵になった。


 ストーカーじゃないじゃないよ。探偵だよ。


 そして、数日に渡る調査の結果、彼の名前は青原海斗あおはらかいと、同じ学年で一年生ながらサッカー部のエース、クラスの中でも男女問わずから話しかけられる人気者であった。


 そんな完璧人間だ。当たり前のように彼女は......


 なんと、なぜかいなかった!


 よっしゃああああああ!!


 これまでストーキングしてきてよかったー!


 周りの目を気にしながら、話声が聞こえる距離で後をつけるのは、相当の苦労であった。


 ―R.I.P 捕まった世界中のストーカーさんたち。私は元気でやっているよ。


 収穫はそれだけじゃない。


 なんて言ったって私の本領が出るのは学校じゃないから!


 青原くんはあの日に話していた通り、毎日参拝に来るようになっていた。


 今日もきれいって思ってくれるかな。


 いつも以上に身の回りを気にしてから、彼の前に出る。


 青原くんは目をつぶってお祈りをしている。


 私はそれが終わるのを彼の顔を眺めながらじっと待つ。


「あ、おはようございます」


 私の気が付き、軽く挨拶をする青原くん。慌てて私も「おはようございます」と挨拶を返す。


「今日は......少し冷えますね」


 青原くんは小さくそう言い、頭をかきながら顔を赤くして目をそらす。


 この様子......


 そう! 青原くんは私に照れているのだ!


 だって、そうでしょ?


 この口調......おそらく私のことを年上だと認識しているみたいだし、あの日言ったセリフが嘘じゃないなら、そうに決まっている!


『こんなきれいな巫女さんがいるなら―』


 んんー!! やっぱり、この言葉が!


 ―その時だった。


「きゃ!」


 ヒューーー!!


 小さなつむじ風が吹き、落ち葉が激しく舞う。


「大丈夫ですか!」

「え?」


 温かさに体が包まれ、見える景色が半分になる。


 これって......


 私は青原くんに抱きしめられていた。


 しばらくして風が収まり、私達は離れる。


「す、すみません。じゃあ」


 青原くんは赤くした顔を隠すように足早にここを後にした。


「や、やっぱり、照れてるじゃん」


 と言いながらも、私は腰砕けその場にへたりこむ。


 はわぁ~




「はぁー青原くん......」


 そのことがあってから、私はさらに青原くんのことを考えてしまうようになってしまった。


 しかし、本当の私は一方的な認知しかしていない存在。


 どうやったら、学校の私を認識してもらえるだろうか......


 でも、認識されたところで学校の私の容姿じゃ見向きもされないんじゃ......


 考えただけで心が苦しくなる。


 巫女の私と学校の私が同一人物だと知った時の青原くんの絶望のまなざし。


「こんなことなら、巫女の姿で学校へ行きたいよ......」


 そう言いつつも、校内でストーキングを続ける私。


 諦めきれなくて、どんどん強くなっていく気持ち。


 そして、ついに私は青原くんと接触してしまう。


 あとをつけていた際に青原くんが落としたハンカチ。


 私はそれを拾い、声をかける。


「......これ」

「え? あ、ありがとう」


 あ......


 素早くハンカチを受け取り、そそくさと離れていく青原くん。


 その姿を見て、全て諦めが付いた気がした。


 やっぱり、私じゃダメなんだ。


 でも、そうだよね......


 こんなダサダサな格好じゃ、男の子は喜んでくれないや......


 もうストーカーはやめよう。


 青原くんは巫女をやっている時だけの関係。


 毎朝、ちょっぴりな幸せがあると考えればいいよね......


「―さん?」

「―みさん?」

「富沙美さん!」

「ひゃい!」


 え? ここは......? 私、箒をもって......


 そうか、今は幸せな時間か。


「どうしたんですか? 急にボーっとして......もしかして、体調悪いんですか? それなら、人を―」

「い、いや、大丈夫です! すみません迷惑をかけましたって...... え? 何で私の名前を?」

「すみません! やっぱり、言わない方がよかったですか?」


 私のことを......知っていた?


「......いつからですか? いつから気づいていたんですか?」

「えっと、初めてここであった時からです」


 そんな時から! でもどうして......!


「どうして......どうして言ってくれなかったんですか! そうと知っていたら! 私はこんな気持ちを持たなかったのに!」


 学校の私にはあんな態度をとるくせに!


 胸に針を刺されたような痛みに襲われた私は逃げ出そうと、箒を投げ捨てる。


「待ってください!」


 しかし、腕をつかまれ、私は逃げれなくなってしまう。


 まだ私を苦しめようと!


「放してください!」

「いやです!」

「どうして!」

「好きなんです!」

「......え?」


 何を言って......


「ずっと前から! ここであなたと会う前からずっと好きだったんです! あの日、俺は嘘をつきました! 受験期の兄なんていないのに、嘘をついて......本当はここに富沙美さんが住んでいるってことを知って、もしかしたら会えないかなーって思いで来ただけなのに!」


 え? 青原くんが私のことを好き? でも、なんで......


「......学校でよそよそしい態度をとったのは?」

「巫女をやっていることを周りに隠しているのと思って......気づいていないふりを。ちなみに俺のあとをずっとつけていたのも全部知っています。俺も富沙美さんのことを目で追っていたんで」


 青原くんも私のことを?


「誰にも頼らず一人で学校を生き抜いている強い姿を。それでも、やっぱり友達が欲しくて周りと接しようとしてるかわいいところも。凛とした美しい容姿で毎朝、参拝をしている俺を見守ってくれていたことも! だから、好きです! 付き合ってください!」


 そんなこと言われたら......


「......も」

「も?」

「もぉぉぉぉぉお!! 馬鹿ぁああああああ!! ずっと、ずっとずっと不安だったんだからね!」


 私は抱き着き、青原くんの胸の中でわーんと泣きじゃくる。


「ごめん」

「許さない」

「じゃあ、付き合うっていうのは......」

「それは付き合う」

「え?」

「替わりに......もう絶対に私を手放さないでね。この手を......絶対に」

「うん......わかった。絶対に」


 ―こうして私たちは無事に結ばれることになり、調子に乗ってずっといちゃつき、学校に遅刻してしまうのであった。



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