農民の頼みは勇者のみ
この村を守ってほしい、という俺の言葉を、キョータはすぐに承諾する。
「もちろんです。勇者ですから。」
言葉は嬉しいが、そういうことじゃない。
はっきり言って、この国は平和だ。
魔物はいるが、狂暴なヤツが住んでいるところには冒険者くらいしか近付かない。街道や村、に現れることもめったにない。うちのマウントンみたいに人間と共存しているものもいる。
そんな国が、わざわざ異世界から勇者を呼び出したんだ。「何か」脅威が起こるに違いない。もはや伝説というか、昔話になっているドラゴンが復活するとか。魔物を束ねる魔王が降臨するとか。この国の冒険者では太刀打ちできない「何か」が、起きることを予測したからこそ、勇者を召喚したのだ。
そして。
ここからは嫌な予想だが。
もしも「何か」が起きたとき。国が優先的に守るのは王都だ。王家が住んでいる。人口も多い。商店、工房、貴重な人材も数多く住んでいる。優先順位が高いのは当然だろう。そして、そうやって予想していくと、王家にとって守るに値しない町や村に人員を割くとは思えない。
リヒト村はすてられる。
「何か」が起きたときには。
この貧しい農村に王家が価値を認めるものなどない。
だから、俺はキョータに頼んだのだ。
勇者が人々を守るのは、確かに当たり前だ。
でも、おそらく脅威が迫ったときにキョータは王都に呼び出される。あの紫の光によって一瞬で。キョータの意思は恐らく関係ない。
全てを飲み込み、俺は頷いた。
「頼む。たとえ、お前独りでも戦って俺らを守ってくれよ。」
まだキョータに、俺の不安を話す必要はない。まだレベル1の生活能力のないひよっこだ。
さて。
「じゃあ、お前の受けた依頼をなんとかするか。また虫刺されで失敗したくないだろ?」
恥ずかしそうに、頭をかく勇者。色白で優男なキョータは、こういうウザイ動きがよく似合う。街のお嬢様には受けが良さそうだが、農民の俺にはイライラが止まらない。
しかし、頼れるのはコイツだけだ。
やれやれ。何とかキョータを育て上げて、恩を売っておくか。
「俺がお前の頭脳になる。お前は、俺の剣となってくれ。」