勇者の生活能力は劇低
完全復活をとげた勇者は、上機嫌で朝飯を食べている。やれやれ。ちなみにコイツは、朝の収穫を市場に卸してきた後に、のんびり起きてやがった。
呆れて見ている俺の前で悠然と朝飯を食い終わり、じゃ!と出発しそうになる。待て待て。
「おい!」
ニッコリ振りかえる勇者。ウザさがレベルアップしてるぞ。
「宿代払っていけよ。」
「それがないんですよ~。すみません。この鎧買っちゃったんで。」
は?
「格好よくないですか?これ。白に青い飾りが、素早さ上がりそうなデザインですよね~。あ、勿論そんなステータスアップなんて付いてないですけど。あまりに気に入ったので、国王に貰った道具類を全部売り払って、昨日買ったんですよ~。」
だから、地図もないし、おまけに文無しだと。呆れて物も言えない。
「安心してください。今日こそクエストをクリアして、宿代も薬代も払いますから!」
じゃ!と、出発しそうになる勇者。だから待てって。
「そのまま出掛けたら、また虫に刺されて終わりだぞ。」
「もう湿地は通りませんよ。」
「お前の目的地は森だろ。湿地よりは少ないが、虫はブンブン飛んでるぞ。」
いきなり、青くなる勇者。コイツの言動を見てると、本当に世界を救いに来た男なのか不安になる。
ど、どうしましょう、とバタバタする勇者。
一挙手一投足に脱力しそうになるが、仕方がない。依頼を達成して金を払ってくれないと、宿代が回収できない。追い出したいところだが国王の命令には逆らえないしな。
まず座れ、と勇者をテーブルに戻す。腰を据え、今後の作戦を勇者と話し合うことにした。といっても、この世界で生き抜く術を俺が伝授するだけなのだが。
興味がなかったので聞いていなかったが、これを機に勇者の名前も教えて貰った。阿部享汰というそうだ。じゃあ呼び方はキョータでいいな、と確認したら、みんなそう呼んでると微笑んできた。そういう顔を見ると、あえて、ベータとか呼びたくなってくる。
「まずは、この辺りの環境についてだ。魔物だけが危険な訳ではない。虫にだって、刺されりや大事になることもある。」
神妙な顔のままキョータ(勇者レベル1)は頷く。
魔物は魔力が生命力になっているから、通常の生物よりも力が強い。だからといって、「普通の狼が安全だ」なんて言う奴はいないだろう?
「キョータみたいな駆け出しの冒険者は、まず、戦う以外の装備から整えろ」
そう言うと、途端に不安そうな顔をするキョータ(勇者レベル1&文無し)。金が無いのは知っとるわ!
「心配するな。俺が用意してやる。お前への投資だ。勇者らしくなるまで面倒みてやる。ギルドの依頼も、お前にあったヤツを見つけてやる。宿代も報酬が出るまで払わなくていい。だから。」
ここで、一旦言葉を切る。
さっきからキョータはこくこく頷いて聞いているが、さて。この提案は受けてくれるかな。
「リヒト村を守ってくれ。」