勇者の思考は分からない
えーと。
帰宅したら自分の家の中に、見知らぬ男がニコニコと立っている場合、どうすればよいのだ?
とりあえず追い出すか。
俺の表情からお呼びでない状況を読み取ったのか、男が慌てて話し始めた。
「僕、朝の勇者です。お邪魔してます!」
なんだその無駄な爽やかアピールボイスは。
「人の家に何のようだ?」
「今日からお世話になります。よろしくお願いいたします!」
は? 理解できないのだか。
更に訝しげな表情になった俺を見て、勇者は書類を取り出し説明を始めた。
「国王の命により、世界を救う勇者の一助となるべく全国民の力を云々。」
勇者長い話を端的に言うと、
『リヒト村には宿屋がないし、最初のレベルアップに丁度いいから、泊めてやれ』
ということのようだ。
迷惑!
勇者が営業スマイルを浮かべて、頼んでくる。
「ということなので、今日からお願いしますね。」
はーっ。この平和な世界のどこを救うのか知らないが、王の命令には背けない。
「分かったよ。ちゃんとギルドで稼いで宿賃払えよ」
「その依頼の事なんですが、一つ教えてほしいのですが。」
「なんだよ。」
「依頼を受けたのはいいんですが、黒霧の森って言うんですか?ちょっと場所が分からなくて。」
「地図見れよ!地図!それくらい城で貰ったろ?」
「それが、言いにくいのですが。売ってしまいまして。」
「あぁん!?」
勇者の言い訳によると、地図なんて普通はメニューから表示できるから要らないと思ったんだそうだ。一体どこの店のメニューに地図なんかあるのだ。
ギルドで依頼を受けるように城の魔法使いに
言われたのも不満なんだそうだ。城の魔法使いクラスの高レベルな仲間に付いていけば、依頼なんてこなさなくても一瞬でレベルアップできるのに、だって。
こいつの言ってることがまるで分からなくて、頭が変になりそうだ。
取り敢えず、リヒト村の回りと依頼の場所をテーブルの上で説明する。
「いーか、ここが今いるリヒト村だ。」
テーブルの真ん中にコップを置く。
「そして、城のある王都シュバルツ。」
テーブル横の窓辺に水差しを置く。
「遠いですね。」
「あぁ。お前みたいに魔法を使わなきゃ、馬車に乗っても丸一日かかるよ。そして。」
リヒト村から王都の方角に手のひら一つ分空けて、布巾を置く。
「これが、一番近くの街、ルインだ。ここには宿もあるぞ。」
こいつにはとっととレベルアップして、村を旅立ってほしいものだ。ちなみに、クリスの食堂も市場もルインにある。
「でだ。お前の依頼の場所は、ここだ。」
ルインの街の北側に帽子を置く。
「この辺りが金持ちなら黒霧の森だ。」
「分かりました!」
「で、どんな依頼なんだ?」
簡単なものです、と言って説明を始めた勇者の言葉を聞いて、俺は驚いた。さすが勇者、と言うべきなのだろう。いきなり魔物退治とは。しかも、大型の狼の目撃情報なので、もしかするとベアウルフかもしれないそうだ。
「じゃあ、早速ですが、行ってきますね!」
「あ、あぁ、気を付けてな。」
大丈夫ですよ、とニッコリ笑う勇者の顔のムカつくこと。いや、別に何がってことはないのだが、嫌いじゃないけど生理的に無理ってやつだろう。
勇者も俺も、本当の敵は魔物ではなかったことをまだ知らない。それは、夕方、勇者が帰宅さた時に明らかになるのだ。
なんか壮大な前振りですが、もちろんまだ小ネタです。斜め上の展開に怒らないでくださいね~。
お話はまだまだ続きますので。