農家は畑だけで育てるにあらず
「今回もおつかれさん。どうよ?今回の出来は。」
もぐもぐ口にパンを詰め込みながら聞いてくる。
クリスは幼なじみには優しくするもんだという、ただ一点の主張のみで、こうして食事時に来てはたらふく平らげて帰っていく。朝っぱらから人の家に上がり込んで、人に朝飯を作らせるなんて図々しいにも程があるよ。
「何よ。なんか不満があるの?」
そう言いながら、サラダに入れたトトをフォークでぶっ刺す。
文句か。
あるある。
大有りだ。
なんて、言ったらフォークでぶっ刺されるのが俺に変わるだろうから、そんな怖いこと言えない。
その見た目は可愛い顔と声と、可愛げのない性格の整合性をもうちょっと合わせてもらえないかねえ。主に正確を直してくれるだけでいいんだが。
「まぁねえ、今回の育成は、私も正直どうかなーとは思うのよね。」
どうかと思うのは、この朝ご飯でも畑の作物でもなく。
「なんで勇者を罠師に育ててんのよ」
「あ、バレてた?」
「当たり前でしょ?普段やってた依頼とか、今日の装備見たら分からないほうが馬鹿でしょ!」
ということは、何も気付かず、高笑いと共に勇んで旅立ったキョータはやっぱり馬鹿だったか。
でもなあ。と、口を濁しつつ答える
「うーん、あいつが剣をマトモに扱えるようには思えなかったしなあ。正面から戦える筋力も根性もないたろ、あれ。」
「でも、勇者って言われてたんでしよ?アイツ。」
棚にしまってたパンを取ってきて座りなおすクリス。
勝手に取るな。てゆーか人ん家の把握しすぎだろ。
まあ、何にも逆らえない俺は改めて考える。
うーん、勇者か。
紫の転移魔法で都から来たじーさんは、そんなこと言ってたと思うんだが。
「そうなんたけど。それにしては、貧弱すぎたんだよねー。魔法を使える素養もほとんど感じられなかったし。戦う資質なさすぎでさ。」
「今までに育ててきたのと比べても?」
「そうだな。歴代最弱じゃない?」
「ふーん?」
よくわかんないなー、と言いつつ俺の皿のトトにも手を伸ばす。
「まあ、イケメンは居なかったけどね!」
と、人の朝ご飯まで奪ってにっこり。
ふーっと息を吐き、今まで育ててきた謎の男たちを思い出す。
野菜育ててれば良かった俺の人生は、ある日を境に、このリヒト村を守るために冒険者の育成まですることになったのだ。
「どんな職業だとしても、この国を守ってくれるならそれでいいんだけどね。」金髪をキラリとなびかせ、クリスが立ち上がる。どうやら、ようやくお腹が満ち足りたらしい。
「そうだな。この村を守ってくれるならな。」
ご馳走様ー!と呑気に笑顔で手を振って去っていく幼なじみの姿を見送りながら、俺が育ててきた冒険者達の近況が気になってきた。久々に確認することにしよう。