農家の仕事は育てて出荷すること
「はっはっはー!ついに旅立ちの日だなっ!」
キョータの高笑いが、早朝のリヒト村に響く。
背中にブラシがけしてあげてたマウントンが、ぬぼーっと返事をする。
なんだかんだ共同生活を送るうち、いつの間にか仲良くなっていたらしい。畑作業なんて一回も来たことないはずなんだが。流石、世界の味方勇者サマってところか。
「はっはっはー!マウントンも別れを惜しんでくれるのかい!?」
無駄遣いしたお金を取り戻す度に、キョータのウザ爽やかさは復活。見た目にのみ気を使った装備を売り払い、コツコツ稼いだ金で必要な物を買い直す日々。俺が見立てた装備の大部分は、武器武具屋ではなく、雑貨屋で買わせたものだ。
流石に、頭巾とヨモギの虫除けの農民スタイルではないけど、鎧も盾も装備していない。軽くて動きやすく、且つ腕まで保護する長袖の服。ブーツも走りやすさを重視。メインの武器は短剣。薄手だが軽く、敏捷性重視の装備一式だ。見た目こそ「いかにも戦う男」には見えないが、今のコイツの能力をカバーするにはぴったりだ。
キョータは最初の頃こそ、ロマンがないだの、これじゃ勇者の装備じゃないとか文句を言っていたけど、楽に倒せる方法が身につくにつれ、俺等の戦い方(駆除方法と言った方がいいかも)に合った装備だということに納得していった。何より高性能な物を選んでも、鎧なんかよりずっと安いし。
じゃあ!世界を救ってくるよ!と颯爽と出掛けようとするキョータの背中に、声を掛ける。
「おい」
ん?と、爽やかウサ笑顔で振り向くキョータ。
「家賃と食事代、払えよ」
んん?と、笑顔が若干引きつる。
「どうせ今は払えないのは知ってるがな。」
受ける依頼や報酬、買い物の値段も把握している。比較的安いとはいえ必要な装備一式を路銀ぐらいしか残っていないはずだ。
だから、と一度言葉を切る。
「出世払いでいい。もしもの時は、この村を守りに戻ってこいよ」
ふふん、と、鼻で笑い、親指を立てるキョータ。
キラーンという効果音が鳴りそうだ。
俺の気も知らないで、軽い男だ。
しかし、打てる手は全て打たないとな。
俺は村から遠ざかっていく勇者の背中を見ながら、今後の作戦を練っていた。
「何黄昏れてんのよ!」
頭をパシーンと叩かれ振り向くと、いつの間にかエプロン姿のクリスが立っていた。